~幼児期の子どもの「困った行動」にとまどわないヒント~
木村 常雄:著 佐々木 正美:監修 すばる舎 定価:1400円+税 (2012.6)
私のお薦め度:★★★☆☆
子どものことを一番愛しているのが親だとしても、子どもの気持ちを一番わかっているとは・・・少なくとも初めのうちは・・・言えないのが、この障害の難しいところではないでしょうか。
療育の専門家が、長い年月を通して経験し実感するようになったことを、お母さんが短い月日のうちに理解することができるはずはありません。
同時にお母さんが、わが子に抱く希望や感情を、療育者が本当に推しはかり共感することも、決して容易なことではないのです。
本書の最初で、監修者の佐々木正美先生がこのように紹介されておられるように、子どもに対する愛情と、障害に対する理解はどちらも大切ですが、分けて捉えていった方がいいように思えます。
そう考えると、著者の木村常雄氏は横浜市総合リハビリテーションなどでソーシャルワーカーや通園施設の施設長として、現場で長く子どもたちや家族への支援を行ってこられた方ですから、その二つを結びつけるのにまさに適した方と言えるでしょう。
本書の題名にある「あなた」とは、まさに「お母さん」のことであり、親と子の間に立って、「ホントの気持ち」を初めて自閉症児を育てることになった保護者の方に、わかりやすい言葉で翻訳しようとしている本です。
まず、筆者はその経験から、一般的に「問題」行動と見られがちな子どもたちの行動について、整理することから始められています。
誰が「問題」だと感じるのか、その対象を考えると、大きく二つに分けられます。
○ 周りの人が「問題」だと感じる
個別や集団でかかわる大人や他の子どもたちが「この子といるのは大変」と感じたら、子どもの行動は「問題」と見られてしまいます。
○ 子ども自身が「問題」だと感じる
子ども自身が、生活や活動をする上で「難しい」と感じていることです。また、感覚の過敏さや鈍感さのため明らかに生理的に受け入れられない場合に、子ども自身が「苦しい」と感じることがあります。
いずれにしても、子どもはわざと問題を起こそうとしているわけではありません。むしろ一生懸命に周りに合わせようとした結果、問題が生じてしまう
「本当に問題とすべき行動」とは、子ども自身や周りの人が危険になるような行動です。これは直ちにやめさせます。車道に飛び出す、火をつける、刃物を持つ、高いところから飛び降りる、などの自分や人が傷つくような行動が当てはまります。
このような「本当に問題とすべき行動」を除けば、実は「問題とみられがちな行動」の多くは、「困っている」という子どものメッセージと考えられます。
このように分類された後、いろいろな例を挙げて、その「問題と見られがちな行動」を整理し、その行動の背後にある「ホントの気持ち」を翻訳されていきます。
ホントの気持ちが分かれば「対応」も見えてきますし、同じ困った気持ちからの別の「注意」するべき動きや、逆に、その特性を活かす「ちょっと別の見方」も生まれてきます。
同じ自閉症スペクトラムであっても、一人ひとりの現れかたは大きく違っているのが、この障害の特徴でもあるのですが、例に挙げられているのは、知的障害のあるなしに関わらず、みなさん、みんな思い当たることのあることばかりのように思います。
それだけ、著者が多くの子どもたちと接してきて、その特性を理解・整理したうえで対応してこられたからでしょう。
一方で、それだけ一般的な例が多いので、これまで多くのセミナーなどに参加されて勉強されてきたベテラン(?)の保護者の方の中には、「もう知っている」と思われる特性かも知れません。でも「知っている」のと、「実際に対応方法を考える」のには、差があることもありますね。
それでは本書の最後の方の例題、「社会性に関すること」の中から、「自分のルールを他人に押しつける」から考えてみましょう。
5歳のV君は歌が大好きです。
V君の家族は、お父さん、お母さん、3歳になる妹とV君の4人家族です。
V君はドライブも好きで、お父さんは家族をドライブに連れて行ってくれます。
しかし、困っていることがあります。V君は車に自分のCDを持ち込み、カーステレオで聞きたがるのですが、そのCDが一通りおわるまで、家族のみんなは車内で話ができません。話をすると、「うるさい」とV君が不機嫌になるからです。
お父さんが、そんなことに関係なく話をしていると、V君は車内で騒いだ後、泣き出してしまいます。
そのため、ドライブ時は、V君のCDがおわるまで家族はできるだけ黙っています。
さあ、どうでしょう。この問題の整理、翻訳、対応、応用はできたでしょうか?
(適切な翻訳や対応などの答え合わせは、本書をお読みください)
また、家族を巻き込んだこんなこだわりは、そのままにしておいてもいいのでしょうか?
あるいは、この例については適切な答えを導き出せたとしても、実際の自分の家庭の中で、同じような問題を「まあしかたないか・・・」と許してしまって、家族が不便を忍んでいることはないでしょうか?
本書を読んで、改めて子どもたちの「ホントの気持ち」を理解して、本当の意味で本人も家族も快適に暮らせるヒントを感じていただけたらとの思いで、本書をお薦めします。
また、「第3章 落ち着いて子どもとかかわるための 大人のこころの持ち方10」も、当たり前のようで、ともすれば忘れてしまいそうなことばかりです。
詳しい内容は、本書を読んでいただくとして、どれも壁に貼っとけばいいようなその10項目、最後に目次だけでも紹介させていただいて、今月のお薦め本コーナーの終わりといたします。
1 他の子と比較しない
2 どんな興味関心でもとりあえず認める
3 完璧にやろうと思い込まない
4 子どもの本当の気持ちを考える習慣を持つ
5 おかしな身体の動きも、わざとではないと理解する
6 大人自身も、自分のいい面に注目する
7 情報に振り回されない
8 一人で考え込まない
9 楽観的に考える
10 どんなときも、子どもの応援団でいる
(「育てる会会報 174号
」 2012.10 より)
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目次
監修者のことば ・・・ 佐々木正美
序章 子どもの行動にとまどってしまうとき
予測できない行動をとる子どもたち
第1章 子どもの行動が訴えているホントの気持ちと、かかわるときの留意点
①「子どもとうまくかかわれない」と感じるときは、どんなとき?
1 子どもに、できることとできないことの差が極端にあるとき
2 感情的になってしまい収拾がつかないとき
3 大人自身の経験が役立たないとき
②「問題と見られがちな行動」とは?
1 誰が「問題」と感じるの?
2 「本当に問題とすべき行動」とは?
③「発達障害」という視点から見えてくること
1 発達障害の特性
2 一般的によく言われているかかわり方の落とし穴
1)「ことばがけを多くしましょう」でいいの?
2)「新しいことをどんどん経験させましょう」でいいの?
3)「失敗から学ばせましょう」でいいの?
4)「がまんさせて気持ちをコントロールする力を身につけさせましょう」でいいの?
5)「とにかく集団に入れましょう」でいいの?
6)「変化のある生活をさせましょう」でいいの?
7)「好き嫌いなく何でも食べさせましょう」でいいの?
④ 発達障害のある子どもが、あなたにわかってほしいこと
1 ことばだけでなく、見てわかるものを使ってほしい!
2 「はじめ」と「おわり」をはっきりしてほしい!
3 指示や質問は、具体的に短くゆっくりしてほしい!
4 何をやればいいのか具体的に説明bしてほしい!
5 繰り返し同じことをやらせてほしい!
6 感じ方がみんなと違うことを知ってほしい!
7 他の人の気持ちがわからないと知ってほしい!
⑤ 子どもとのかかわりは信頼関係が基本
1 信頼関係は子どもと大人の双方でつくっていくもの
2 人と関係を結ぶことが難しい発達障害のある子どもたち
3 発達障害のある子どもたちと信頼関係を結ぶポイント
1)子どもの興味関心のある話をする
2)単純な身振りや動作でかかわる
3)約束は守れるものだけにする
4)たとえ話は極力避けて、子どもが経験したことを話題にする
5)意思表示ははっきりする
6)子どもから見える位置に大人が移動する
第2章 子どもの特性別「問題と見られがちな行動」の具体例
子どもに合わせたかかわり方のポイント
特性Ⅰ 感覚の過敏や鈍感に関すること
例1)特定の音に対して過敏
例2)服が肌に触れることに対して過敏
例3)暑さに対して敏感
例4)痛みに対して鈍感
特性Ⅱ こだわりに関すること
例5)急な予定変更がしにくい
例6)自由あそびの時間に何をしていいのかわからない
例7)いつもと違う道順を通ると不機嫌になる
例8)一番になることに夢中
特性Ⅲ コミュニケーションに関すること
例9)要求や拒否などの表現がうまくできない
例10)同じ質問をしつこく繰り返す
例11)話を部分的に理解して、状況に無関係な行動をとる
例12)おかしな会話に気づかない
特性Ⅳ 社会性に関すること
例13)周りの人がびっくりすることを言う
例14)一緒にいる人が困ることを言う
例15)自分のルールを他人に押しつける
例16)虫のことに夢中で、友だちからどう見られているか気にしない
第3章 落ち着いて子どもとかかわるための大人のこころの持ち方10
子どもとの関係をよくするために大切なこと
1 他の子と比較しない
2 どんな興味関心でもとりあえず認める
3 完璧にやろうと思い込まない
4 子どもの本当の気持ちを考える習慣を持つ
5 おかしな身体の動きも、わざとではないと理解する
6 大人自身も、自分のいい面に注目する
7 情報に振り回されない
8 一人で考え込まない
9 楽観的に考える
10 どんなときも、子どもの応援団でいる
おわりに
場合も多くあります。周りの人が問題だと感じる場合、子ども自身が困っている場合が多いものです。