そよ風の手紙 ~自閉症児りょうまとシングルファーザーの18年~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

新保 浩:著 マキノ出版 定価:1333円+税  (2013.6)


    私のお薦め度:★★★☆☆


今はネット上では、FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)が当たり前になっていますが、ブログよりさらに以前、「ホームページ」の頃から、パソコンの前におられた方ならご存知と思います、「そよ風の手紙」が本になりました。


シングルファーザーとなった著者が、これまで綴ってきた自閉症児「りょうま」くんとの18年の記録です。
両親が揃っていても、一筋縄ではいかない自閉症児の子育てですが、それでもあえて(やむなく?)シングルマザーの道を選ばれた方は、何人か知っています。でも、シングルファーザーの方は身近にいなかっただけに、応援していたページでした。


どうしても、家庭での子育てが主になるだけに、昼間働いているお父さんでは物理的に難しい面も多かったと思います。著者の家庭でも、離婚の後、実家で祖父母と4人で暮らすことになるわけですが・・・ 


最近はパニックの最中に、自傷ではなく、人に対する頭突きやたたきが見られます。
じいの額にはコブが数十カ所もあり、コブの上にコブができる状態です。「日本列島が出来ちゃったよ」と、笑いながら額をなでるその姿に、「申し訳ないなぁ」と心から思います。
ばあに対しても、至近距離で直接目への頭突きをします。まるでボクシングで闘ったあとのようにばあの目は腫れ、目の周囲は内出血をしています。ばあは杖を突かないと歩けない状態なのに、頭を下げても下げ足りません。


そんな中でも、明るく前向きに、ポジティブに生きていこうとするりょうまくんとお父さんです。お父さんの愛、いっぱいの視線を感じます。


一つだけ言えるのは 過去の長い時間の中で
何かが一つ どこかで一つ ずれていただけで
ぼくらは出会えていないのだ
それだけで僕たちは 決して出会うことはできなかったのだ
この天文学的数値での確率で
ぼくらがであえたことは すごいことなのだ


君と出会えてよかったよ
君と出会えてうれしいよ
ぼくは君と出会えたことを
感謝したい


しかし、やはりしだいに年老いていく両親(祖父母)に頼ることには、限界がやってきます。
りょうまくんが6歳で父子家庭となったあと、懸命に家族3人で協力しながら育てていたのですが、おじいちゃんの認知症が進み、おばあちゃんも杖なしには歩けないため、9歳の春から平日は施設に預けざるをえなくなってしまいます。


施設に到着すると、りょうまはニコニコしていました。最初にすべき手続きを終え、いよいよりょうまの新生活のスタートです。
そろそろ私が帰ろうとしたとき、突然、りょうまは私の手を引いて出入口のほうへグイグイ引っ張ってゆきます。引き戻そうとしても、何度も何度も同じ方向を目指します。最初のニコニコした表情はすでになく、必死の形相でした。
しかし、りょうまの手を引き離し、私はドアの外に出ました。今まで我慢していたりょうまはついに泣き叫び、ドアの向こうからは大きな泣き声が聞こえてきます。


別れとはこんなにつらいものなのか? しかし、この別れがなければ、りょうまの新しい未来は開かれないのです。
このとき、心から思いました。
「りょうま、パパは絶対にこのつらさを無駄にしないからな」


この辛さは、親であれば、障害があろうとなかろうと、誰しも心に響いてくるものでしょう。
誰が悪いわけでもないのに、悲しみはやってきます。
それからの9年間、週末を除き、彼は高等部を卒業するまで施設で過ごすことになりました。


確かに施設の是非論はありますし、私たちも「(入所施設に入れるのではなく)地域で普通の暮らしを」と願って活動しています。
ただ、りょうまくんのように、やむをえず一時期を施設に助けてもらい、高校を卒業すると家に帰ってこられるという施設の存在は、シングルの家族にとっては貴重なものだとわかります。

少なくとも、高校を卒業してから生涯を施設で暮らすようになるよりは、りょうまくんにとって望まれる選択であったように思えます。


思い起こせば、ホームページを立ち上げた2001年ごろには、自閉症の方のご家族が開設したホームページがたくさんありました。しかし、2011年現在、その多くが閉鎖されています。 


本書の中では、こう書かれていましたが、12年続いたこの「そよ風の手紙」のHPも、残念ながら今年、2013年3月で更新を終了されました。(そう考えれば、1999年に開設され、今も続いている「てっちゃん通信」、貴重品(骨董品?!)かもしれませんね (^.^) )


これからの、りょうまくん(もう、「稜麻さん」と呼んだほうがいいのでしょうか)が、どのような人生を歩まれていくか興味はありますが、そよ風親子のこれからが幸 多かれと願い本書を紹介します。


     (「育てる会会報 188号 」 2013.12 より)


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そよ風の手紙 自閉症児りょうまとシングルファーザーの18年 (父が息子から教わったこと)/マキノ出版
¥1,440
Amazon.co.jp

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目次


  はじめに


 【詩】 父親になった日


序章 ベストでないが、ベターな選択〈りょうま0~6歳〉


  りょうま誕生
  目の前が真っ暗になる
  家族旅行で障がいを受け入れる
  離婚というベストではないが、ベターな選択


 【詩】 君といる時間


第1章 私のサンタクロース〈りょうま7~9歳〉


  「タコタコ星人」と「イワイワ星人」
  感動のボールパス
  分速5メートルの男
  本当のサンタクロースはだれ?
  ポジティブに生きてゆく
  待ってあげること
  君のいない夜
  ワッペンなんかいらない
  新たな旅立ち
  裸足の親子
  初めてのおつかい
  心の中で流れる涙
  別れの日 ― このつらさを忘れない


 【詩】 どんなに離れていても


第2章 雨の日のワイパーのように〈りょうま9~12歳〉


  雨の日の回想
  「警察を呼ぶか?」
  りょうまの言葉
  誕生日の深夜に
  私の我慢できないこと
  「トゥータタ」
  私の知らないりょうま
  りょうまに背中を洗ってもらう
  髪の毛を抜くなー!
  暗闇の中の「パパー!」
  涙腺が緩んだ日


 【詩】 自閉症の君でいい


第3章 生かされる意味〈りょうま13~15歳〉


  世界でたった一人の君だから  
  14歳になった君への手紙 
  屋根への逃走事件
  目の前にあった生と死の境目
  14年間待った言葉
  りょうまがいない!
  全ての瞬間は一期一会
  マスターに誉められ、にこっ
  みんな違って、みんないい
  大好きな先生との別れ


 【詩】 風になりたい夜


第4章 未来のゴールを探す〈りょうま15~18歳〉


  新たな門出の日に
  食事のあいさつができた!
  似てきた?
  トラブルを楽しむ
  16年目の新たな発見
  ぐっとこらえて
  東日本大震災の週末に
  笑いをありがとう
  君にしけできないこと
  君の涙を無駄にしない
  セブンティーンの君へ
  一方通行でも
  人生というセーリング
  私たちのゴール
  おかえり、りょうま


 【詩】 人生は折り返し地点のあるマラソン


 便りは風にのって

 この本が世に出るにあたって

 りょうまと父の歩み(年表)


  おわりに


 医師の目から見たりょうまくんの9年間 ・・・ 相良 雅子