橋本 創一/横田 圭司/小島 道生/田口 禎子:編著 福村出版 定価:1900円+税 (2012.1)
私のお薦め度:★★★★☆
本書のタイトル「ちょっと困った人」と言われて、みなさんはどんな方をイメージされるでしょうか。相手の気持ちを察したり、場の雰囲気が分からず「空気の読めない人」、感情や行動のコントロールが苦手で、急に怒り出したり仕事の要領の悪い人、こだわりが強く頑固で柔軟性に欠ける人、挨拶しても無視されコミュニケーションのとりづらい人・・・
本書もスタートでは、アンケートで集められた「ちょっと困った人」をタイプ別に整理するところから始まります。いわば周りの方からみた、外から見た視点ですね。
もし、周りが自分に何を期待しているのか分からず、暗黙のルールとやらにも疎く、何をすればいいのかわからず「困っている」方をイメージされた方がおられたら、あなたは支援のプロになれる方でしょう。
「一番困っているのは本人です」とは、セミナーで何度も学んでいるはずなのに、「ちょっと困った」と言われると、「ああ、いるいる」と身近な具体的な人物像を思い浮かべてしまいますね。それだけ「困ったチャン」は多いのでしょう。
特に、職場に勤めるようになると周りに一人ぐらいは思い当たる人が見つけられると思います。考えてみると、小学校の普通学級では6%を超える発達に気になる所を持った子どもたちがいて、大人になると一緒に仕事をするわけですら当たり前の話ですね。学校時代なら、「ちょっと変わったヤツ」ということで、関わりたくなければそれでいいのですが、職場では仕事上、どうしても関わらざるをえないこともあり、「ちょっと困った人」・・・となるわけでしょうね。
本書は、そんな青年・成人たちのみなさんを、本人の立場からと、周りからの支援と、両方の視点からサポートしようとしている本です。
最初に書いたように、まずはちょっと困った人&発達障害のある人をタイプ別にまとめて、それぞれのためのレシピが書かれています。
レシピに入る前に、場面ごとのチェックシートもありますので、心当たりのある方は自分がどのタイプか、またサポートをしようとする相手はどのタイプか、また重複しているのか、フローチャートにそってあてはめてみれるようになっています。
もちろん、一人ひとり大きく違うのが発達障害の特性の一つですが、こうして53もの困っていることの実例を並べてみると、タイプは別にしても、思い当たるところ、似ている箇所が2つや3つはでてきますね。
例に挙げられているのは、主に高機能自閉症やアスペルガー症候群、ADHDなど、あるいはそれに近い方で、大学や就職している大人の方の話が中心です。
本書の構成は1章から5章までは発達障害の解説やクリニックや相談室での症例や統計の紹介、それに上に書いたチェックシートなどで、6章から本題のサポートレシピが始まります。
まずは具体的なケースの紹介があり、『周囲の反応』として、周りがその行為に対してどう思っているのかがかかれています。そもそも想像性の苦手な方の中には、周りにどう思われているか、気付いていない人もいるので、まずはそこからの話になっています。
次に『どうしてそうなのか?』の項で、障害特性などから、どうしてそのような、周りも本人にも困ったことが起きてしまうのか、を解説しています。決してその行為を責めているのではなく、「そうならざるをえないのか」という説明です。論理的に、わかりやすく解説しているので、ご本人の方が読んでも不快にならず、納得されるのでないかと思います。
そしていよいよサポートレシピですが、全てのケースにおいて、『本人が取り組めること』と『周囲ができること』の両方が書かれています。
本人だけに反省やこれからの努力を求めるのではなく、本人はそのままで周りからの支援や許容だけで解決しようとするのでもなく、お互いができる範囲で歩みよって、お互いが困らない職場にしましょうというスタンスです。
そのレシピは、どちらかと言うと、本人向けの方がより具体的ですし、より詳しいものになっている印象です。それは、何と言っても一番困っているのは本人で、なんとかしたいという思いは一番強いからでしょう。
また、親は別として、周囲の方は「ちょっと困っている」からといって、そんなに真剣に労力はかけてくれませんね。せいぜい、「これくらいなら協力できるよ」という程度ですね。
それを踏まえて、53のレシピから、一つ紹介してみましょう。
これは、タイプで言うと「G 覚えるのに時間がかかる」で、「サポートレシピ 29:何度教えても手順を覚えら
れない」です。
会社で上司から何度仕事の手順を教えてもらっても、いざ実行しようとすると分からなくなって、聞きにいき、上司もだんだん「またか?」と、 なり「なぜできないの?」と・・・
『どうしてそうなのか?』
この問題の要因として、いくつかの理由が考えられます。
1つ目は「聞き取りの問題」で、言葉や単文レベルでの意味の理解に困難がある場合です。相手は「わかるだろう」という気持ちで何気なく使う言葉が本人にとっては理解が難しいものもあります。説明された内容を一部だけしか理解できず、実行に移すことが難しいケースがあります。
2つ目は「整理や選択の問題」です。話の内容の重要な点、要点を押さえることが難しかったり、話の内容を項目に分けることが難しかったりすることがあります。さらに、話の部分と部分、あるいは部分と全体の関連性を理解することが難しく、順序性を見い出すのに困難を伴うこともあります。
3つ目は「記憶の問題」です。一度にたくさんの内容を覚えることに困難がともなう場合があります。
簡単に、手順が簡単に覚えられないといっても、その背景にはいろいろな要素が考えられるのですね。したがって、そのレシピもそれらの要素に配慮したものになるわけです。
この例でいくと、本人向けには、最初に自分の得意、不得手を相手に伝えておいたり、メモは相手の了解を得て、しかも項目ごとのフォーマット(手順、用意するもの、注意点など)に分けて記入する、項目ごとにボックスを作ってセルフチェックしていく・・・などです。
周囲の人向けにはホワイトボードやフォーマットを利用して、相手に目に見える形で伝えてもらうなど・・・。
療育などにおいては当たり前の手法かもしれませんが、大人になったら「分かって当たり前」と示してもらえなかったり、そもそも障害とは気づかれなくて「ちょっと困った人」と支援もなく、しだいに敬遠され、職場に居づらくなるケースもあると思います。
そうなる前に、心あたりのある方は、ぜひ本書でセルフチェックしてレシピを使っていただきたいと思います。
また、本書は大人向けですが、人間関係という面では保育園・幼稚園から始まっていますので、幼児~学童期向けの「サポートレシピ」の続編も期待したいと思います。
(「育てる会会報 183号
」 2013.7 より)
------------------------------------------------------------
- 人間関係でちょっと困った人&発達障害のある人のためのサポートレシピ53―本人と周囲がおこなうソ.../福村出版
- ¥2,052
- Amazon.co.jp
- 障害児者の理解と教育・支援―特別支援教育/障害者支援のガイド/金子書房
- ¥1,944
- Amazon.co.jp
- ASIST学校適応スキルプロフィール―適応スキル・支援ニーズのアセスメントと支援目標の立案 特.../福村出版
- ¥5,400
- Amazon.co.jp
- 特別支援教育の基礎知識―障害児のアセスメントと支援、コーディネートのために/明治図書出版
- ¥2,160
- Amazon.co.jp
------------------------------------------------------------
目次
はじめに
第1章 青年・成人の人間関係のトラブル
第1節 学校や職場にいる人間関係で困った人とは
第2節 人間関係でちょっと困った人の調査
第3節 誰が困っているのでしょうか
第2章 発達障害とは
第1節 発達障害とその割合
第2節 子どもと大人の発達障害
第3章 精神神経学的な症状・医学的な治療
第1節 精神科クリニックを利用する青年・成人の現況
第2節 成人期における発達障害の診断と治療について
第4章 相談室に寄せられる事例から
第1節 相談支援ニーズの高まり
第2節 相談者の実際の困り感
第5章 周囲とうまくやれない要因とタイプ――チェックリスト活用
第1節 心理行動分析をしてみる
第2節 不適応者のタイプ
第6章 ちょっと困った人&発達障害者のタイプ別事例とサポート
サポートレシピ
1 普段は平穏で優しいが、忙しくなると不機嫌になり周囲にあたる
2 感情の起伏が激しい
3 常に緊張していてピリピリモード
4 仕事のやり方等でよいアドバイスを受けても素直に受け入れて実践しようとしない
5 自分で決めた生活習慣をみだされることを嫌う
6 自分のもち物ややり方にこだわり、他人に口出しされることを嫌う
7 会話中、アイコンタクトがとれない
8 無表情で何を考えているかわからない
9 自分から話すことが少なく、質問に答えるのみ
10 指示や質問の意図が読めない
11 態度が冷たく事務的
12 相手の感情やその場の状況に気づかず、自分のペースで行動する
13 「すみませんでした」が言えない
14 相手からの皮肉や嫌味が理解できない、社交辞令がわからない
15 上下関係が理解できない
16 人の話を聞かず、自分の話ばかりする
17 自分の仕事や失敗を人に押し付けようとする
18 人の好き嫌いが激しく、相手によって態度を変える
19 みんなで取り組んでいることでも自分の気が進まない時には参加しようとしない
20 自分の価値観で物事を判断し、他者を批判する
21 仕事や課題の期限・時間を守らない
22 “暗黙の了解”がわからない
23 整理整頓ができないため同じミスを何度もする
24 頼まれたことをすぐ忘れる
25 するべきことの優先順位がうまくつけられない
26 順序立てて話をできない
27 あれこれ注意が向き期限に間に合わない
28 1つのことしかできない
29 何度教えても手順を覚えられない
30 複雑な指示がわからない
31 長い話をすると理解できず、復唱するがわかっていない
32 絶え間なく動いていて、落ち着きがない
33 自己中心的で周りの関係性や状況が読めない
34 奇妙な物を集める癖があってその話を嬉々として人に話す
35 ひとり言をぶつぶつと言っていたり、ニヤニヤしていたりする
第7章 チャレンジレシピ
36 学校生活編
37 携帯・ネット編
38 サークル活動編
39 デート編
40 受験・就職活動編
41 友人関係編
42 冠婚葬祭編
43 社会人編
第8章 専門的な治療・指導が必要なケースへの対応
44 不登校
45 ひきこもり
46 無気力
47 「オタク」が強すぎて社会的に困難さがある
48 ひとり言・妄想
49 生活リズムの崩れ
50 気分障害
51 暴力・暴言
52 ストーカー
53 ハラスメント(いじめ・いやがらせ)
第9章 当事者たちからのコメント
相談・支援先リスト