自閉症児のための明るい療育相談室 ~親と教師のための楽しいABA講座~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

奥田 健次・小林 重雄:著 学苑社 定価:2500円+税(2009.5)


     私のお薦め度:★★★☆☆


先日、テレビを見ていて懐かしい顔にお目にかかりました。
「孤高の出張カウンセラー 自閉症の子どもを救え」という番組での、奥田健次先生です。
実は、奥田先生、本書のあとがきにある「中国地方の山奥の学校」吉備国際大学(今は「なでしこリーグ」で全国区ですね)に、本書の共著者である小林重雄先生に招かれて赴任されていた頃、育てる会でも大変お世話になった先生です。


当時、「自閉症児への指導・支援講座 ~応用行動分析の視点から~」という、保護者向けの連続講座を開いていただいていました。平成13年から14年にかけてのころですから、この連続講座のことを憶えているのは、育てる会でも相当の古株(失礼<m(__)m>)の方だけかもしれませんね。
高梁から岡山まで講義に来ていただき、当時は「応用行動分析」ということばすら聞いたことのなかったような親たちに、本当の初歩の初歩から教えていただき、先生も苦労されたと思います。この機会に、改めて感謝です。


さて、本書の紹介に戻ると、自閉症児を育てていて頭を悩ますたくさんのQ(問題)に、奥田先生と小林先生がそれぞれ解答や解決策を示していく、という構成です。


例えば、

「食事中、落ち着いて座って食べてくれません」

「うんちがトイレでできません」
「なんで?どうして? などの質問が止まりません」

「弱い子をつねったり、つきとばしたりします」

「洋服にこだわりがあって困っています」・・・


・・・自閉症児に限った問題ではないかもしれませんが、心当たりのある方も多いと思います。こんな質問が全部で54個、それにお二人が(特に奥田先生が)明確に、明確過ぎるほどに・・・、バッサリ解答していかれます。


私たちが日ごろ慣れ親しんでいるTEACCHなどの発想が、環境を本人にわかりやすいように整えて、本人の持つ強みが発揮できるよううまく伸ばしていくという、いわば“優しい”考えなのに対し、本書の手法は、困っている標的行動を合理的に撃ち抜いていく、あるいは問題をバッサリ切り捨てていくという、かなり“ハード”なやり方と言えるでしょう。
どちらも困っている本人や家族を助けることを目的にしているのは同じですので、どちらのやり方を選ぶかは、それぞれのご家族で決められればいいでしょう。


「うんちがトイレでできません」
私たちが最初にイメージするのは、原因を考えて、暗いトイレを明るく楽しい場所に変え、よく子どもたちを
観察していて、失敗する前にすばやくトイレに誘導し、成功したら大いにほめてあげる・・・というぐらいで
しょうか。
奥田式は違います。まず行動を教えるというところからはいります。


最初は抵抗するでしょうが、座位の状態でうんちをするということを、まずは教えないといけません。そして、ここで「子ども用かんちょう」の登場です。
最初は便座に座る前にかんちょうを入れます。そしてクルッと向きを変えて座らせて、いつでもうんちができる状態にします。「まだよ、まだよ、我慢、我慢!」と言いながら、しばらくは座らせておきます。我慢できずにシャーッと液体だけ出してしまうこともありますが、最初はティッシュでお尻を押さえておくのもポイントです。

そして、もう少し我慢ができるようになって、まとめてうんちができるようになったら、今度はトイレからちょっと離れたところでかんちょうを入れます。少し歩いて便座に座って出すという練習をしばらく続け、これができるようになったら、今度は廊下でかんちょうを入れます。廊下から駆け込んで、ちょこんと座ってだすようにします。これがうまくいったら、リビングのあたりでかんちょうを入れるようにしてみます。

「便意→トイレへ駆け込む→排便姿勢→うんちをする」の流れを、ひたすら繰り返すのです。こうすれば簡単です。


実に具体的で、確かに理にかなった方法でしょう。これでうんちの問題は解決しそうです。
本人の尊厳を考えて「そこまでやるか」という気もしますが、それは家族が「どれだけ困っているか」ということと、量りにかけて、ご家族で決められることでしょうね。
本書を読んで感じるのは、即効性を望むなら確かに奥田先生の行動療法の方法でしょう。


ただ本書でも注意書きがアチコチに出ているように、これらの方法には、親の“相当の覚悟”と“行動療法の専門家”が必要になる場合もあります。


例えば家族への暴力を止めるために行うタイムアウト法への説明です。これは私たちの世代で言うと「悪いことをしたら蔵や物置に閉じ込めるゾ」と親から脅かされた現代版で、暴力をふるったら、本人が大泣きするような場所に引きずってでも閉じ込めたり、あるいは玄関から締め出して入ってこられないようにする方法だそうです。その注意書きです。


海外の研究で、親や大学院生が専門家の監督なしに、教科書を読んだ程度の知識でこのタイムアウトを用いたり、経験不足のセラピストがこの方法を使うと失敗するというデータがあります。行動療法の専門家の監督なしにタイムアウトを使うことはやめておきましょう。


また、「ご飯をきれいに食べなかったからタイムアウト」というような応用の仕方は、親御さんのルール違反です。そういうルール違反をすると、子どもはおかしくなってしまいます。あくまで、攻撃行動にのみ限定的に使うことでなければなりません。
この方法は、タイムアウトされたくない場所があれば、どんな子どもでも必ずよくなる方法です。ジワジワよくなるのではなく、劇的によくなります。 しかし、少しでも違ったやり方をしたりタイミングが遅かったりすると、悪いパターンになってしまう方法でもありますので、勝手には行わないで、行動療法の専門家に相談してみてください。


確かに昔ならともかく、今なら近所の方から虐待と通報されてしまう方法かもしれませんね。また、本人のトラウマになったり、事態を余計にこじれさせる危険もありそうです。
なにより、今は奥田先生が岡山を離れられ、「相談できる行動療法の専門家」を身近で探すことに苦労しそうです。
やはり、本書を読んで、いいなと思ったアドバイスの中で、まずは“無難な”ところから始めるのがよさそうですね。


また、本書のいいところは、家族にとってはすべてが深刻な問題ばかりだと思うのですが、題名の通り「明るく」「楽しく」相談に答えていただいているところでしょう。


その手法の命名にしても“ブルブル握手脱感作法”や“どさくさまぎれタッチング法”だの、“悪女の深情け法”、“アメ横スルメ法”だの、お二人が開発、実践してこられたABAの方法を楽しく、そしてわかりやすい形で教えていただいています。


小林先生とは、弟子以上に親しいお付き合いをさせていただき、前の職場を辞めるところまでご一緒してしまったわけです。心ならずも中国地方の片田舎を去るときに、何とかしてこの「東西うどん対決」のような仕事を残せないか、それに小林先生の「教科書には書けない面白い理論」を文字に残せないか、私の「関西秘伝の命のダシの技法」も紹介できないか考えたのです。
それが本書です。本書の仕事を進行させる過程でも、小林先生とはケンケンガクガクやりましたし、やはり臨床家として共通するところも多々ありましたし、著者がなにより楽しくこの仕事をさせていただきました。
       (「東西うどん対決」についての解説は、本書の「あとがき」をご覧ください)


みなさんも楽しく、そして深刻にならずに、「ヒントをいっぱいもらおう」というぐらいの気持ちで楽しく読んでいただけたら、と思える本です。


               (「育てる会会報 179号 」 2013.3 より)


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目次


  はじめに

第1章 生活編   毎日の生活を楽しく


Q1 「寝ぐずり」と「夜泣き」が激しくて困っています。 
Q2 そろそろ一人寝をさせたいのですが、可能でしょうか? 
Q3 食事中、落ち着いて座って食べてくれません。 
Q4 まだ手づかみで食べようとする癖があります。 
Q5 偏食のためか食事時間がダラダラと長すぎます。 
Q6 食べ物を飲み込んで吐き出してこねてしまいます。 
Q7 トイレットトレーニングがうまくいかず、失敗が続いています。 
Q8 うんちがトイレでできません。 
Q9 女の子にいやらしい感じで抱きついてしまいます。 
Q10 歯磨きがうまく一人でできるようになってほしいのですが…… 
Q11 お薬を嫌がらずに飲ませるよい方法はありませんか? 
Q12 着替えに時間がかかります。 
Q13 お小遣いの渡し方を迷っています。 

第2章 遊び編   遊びを元気に楽しく


Q14 一人遊びが多く、人を避けてばかりいます。 
Q15 遊びのやりとりができません。人とのやりとりを高める秘訣を教えてください。 
Q16 遊びは一人遊びが中心で、物を並べることに固執しています。 
Q17 片付けがなかなかできません。 
Q18 テレビゲームに夢中すぎます。このままで良いのでしょうか? 
Q19 高いところに登るのが心配です。叱っても効き目がありません。 
Q20 水遊びがひどくて、放っておくとずっと続けています。 

第3章 お友達編   お友達と仲よく


Q21 幼稚園の門の前で別れるときに泣くようになりました。 
Q22 空想のようなことを言っていたと思ったら、嘘をつくようにもなりました。 
Q23 弱い子をつねったり、つきとばしたりします。 
Q24 順番抜かしをするのですが、大切なルールを教えるにはどうすればよいのでしょうか? 
Q25 障害があるのは明らかなのですが「高機能」と言われて困惑しています。 

第4章 ことば編  ことばのやりとり


Q26 「要求の泣き」が強くて困ります。 
Q27 着席して課題をさせようとしてもすぐに逃げてしまいます。 
Q28 無発語の状態ですが、やりとりを発展させていく方法はありますか? 
Q29 おうむ返しが目立ちますが、おうむ返しは良くないことなのでしょうか?(エコラリア①) 
Q30 おうむ返しが目立ちますが、会話に発展させるためのアイデアを教えてください。(エコラリア②) 
Q31 獲得した語彙をコミュニケーションとして使うようになるためには、どんなことに気をつければよいのでしょうか? 
Q32 「なんで?」「どうして?」などの質問が止まりません。
 
第5章 行動編  困った行動との付き合い方


Q33 アスペルガー障害と診断されました。 
Q34 体調不良を訴えて登校をしぶるようになりました。 
Q35 道順や順番のこだわりに対してどうすればよいのでしょうか? 
Q36 洋服にこだわりがあって困っています。 
Q37 収集癖が強くて困っています。 
Q38 外出先での多動を何とかしたいのですが…… 
Q39 飛び出し行動があります。家庭や専門機関で取り組める方法はありませんか?
Q40 授業中の立ち歩きにはどうすればよいでしょうか? 
Q41 家族への暴力に対して、どのように対応すべきですか? 
Q42 きょうだいに対する暴力をなんとかしたいのですが…… 
Q43 動物への乱暴に対する指導方法を教えてください。 
Q44 肥満になって不活発になりましたが、何か気をつけることがあれば教えてください。 
Q45 指しゃぶりがまだ続いています。 
Q46 性的な関心が強いようで心配です。 
Q47 つば吐きの癖をどうにかできないものでしょうか? 
Q48 行動療法にもいろいろあるようですが…… 
Q49 常同行動や自己刺激行動とはどんなものなのでしょうか? 


第6章 学校編  学習・学校の課題


Q50 鉛筆の持ち方を教えてください。 
Q51 算数の文章題が苦手です。どういう力を付けていけばよいのでしょうか? 
Q52 通常学級での一斉指導は有効なのでしょうか? 
Q53 教室で騒ぐ児童に、何かよい指導法はありませんか? 
Q54 家庭での余暇の過ごし方にはどんなアイデアがありますか? 

  お薦めの本
 
  あとがき
  
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