自閉症支援のスタンダード Ver.2 ~余暇支援の展開~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

編集責任者:中山 清司 自閉症eサービス 定価:2000円(税込) (2013.7)


   私のお薦め度:★★★★☆


今月のお薦め本は、6月28日の講演をお願いしています中山清司先生の自閉症eサービスより発行の、自閉症支援のスタンダードの第2弾、余暇支援についての本です。


これまで、学校や地域での周囲からの余暇支援というと、キャンプや旅行、文化祭や運動会など、どちらかというと「レクレーション」という発想で考えることが多かったように思えます。私たち育てる会でも、のびのびキャンプやクリスマス会、ファミリーコンサートやキッズルーム、木工教室、水泳教室、サーカークラブなどなど・・・数えあげるとまだまだ出てきそうですね。


確かに、子どもたちも楽しみにしていますし、それはそれで大切な行事だと思います。
本書でも1章を使って、キャンプの運営の方法などを、ていねいにアドバイスしています。
ただし、本書ではレクレーションは、余暇活動の “1つ”であるとして、「学校や施設・地域のボランティアグループなどが主催して組織的・計画的に展開される、主にグループでの余暇支援プログラムで、自閉症の人はそこに利用者・参加者として参加する」活動と定義しています。

そして、本書でより多くのスペースを使って述べられているのは、自閉症の人が一人で、主体的に行っていく余暇活動を、どのように保障し、支援していくかという視点です。


その正反対の位置にくるのが、イベント主義の弊害ですね。


イベント主義が根強い学校や施設の様子を見ると、参加者一人ひとりのニードや思いよりも、主催者側の一方的な都合や自己満足でイベントが組み立てられていることがよく観察されます。

また、そのような場面で自閉症の人が参加を拒否したり不適応な行動を示したりすると、それはせっかくのイベントを台無しにする“問題行動”と見なされ、うまく参加できない自閉症の人が悪いと捉えられる傾向もあります。


確かに、自閉症の子どもたちが崩れやすくて注意して見ておかなければいけない時期が、運動会の練習が始まった頃ですね。誰のための運動会や学習発表会だ、と言いたくなる時があります。
そんなイベント主義とは対極の位置で、本書は日常の余暇をどのように支えていくかについて書かれています。余暇とは「その人の毎日の生活にあって、個人の興味や関心に基づいて、自由に趣味を楽しんだり社会参加をしたりする活動とその場面である」と捉えています。


学校時代であれば朝の会や休憩時間、夏休みなどの長期休暇の時にどう過ごすか、就職してからは、お昼休みの時間やアフター5、週末などのどんな活動をして楽しめるのか、日々の生活を安定して、豊かなものにするには欠かせない問題ですね。


一般的に考えれば、暮らしの中に決め事が少ない方が自由度があって、個人を尊重した生活スタイルと言えるかもしれません。しかし、自閉症の人たちにとって、特にやるべきことがないフリータイムは、何をして過ごせばよいかわからないあいまいな時間になっているのです。


“一般的”な子どもたちであれば、ある程度放っておいても、勝手に自分の趣味を見つけて、自分で時間を埋めていきますが、自閉症の子ども達には、ある程度場面を構造化して、本人の好きなものに取り組める環境を周囲が用意しておいてやるということが、必要になってくるのでしょう。

一方で、ここで有利になってくる自閉症の特性もあります。


余暇に自立課題はそぐわないのではないかと思われるかもしれませんが、決してそうではなく、自閉症の人たちにとっては具体的でわかりやすい活動なのです。また、さまざまなスキルを教える機会になり、興味関心のある活動を見つける手がかりになることもよくあります。

フリータイムのすべてを自立課題に充てるのではなく、1日のスケジュールの中で、どの時間帯にどの程度の量を提供するのか、どこでおこなうかなどを個別の状況に照らして検討し、本人の負荷にならない範囲で組み入れるようにしています。
自立課題の後に「買い物」や「スナックタイム」といった“本人にとっての楽しみ”があれば、モチベーションがぐっとアップし、自立課題も張り合いのある活動になっていきます。


自立課題であれ、家事の手伝いであれ、自閉症の人にとって見通しのもてる活動は、楽しい“余暇活動”になるということです。定型発達のきょうだい児が、少し大きくなって、面倒がり嫌がるようになるようなことでも、喜んでお手伝いをしてくれます。働く=楽しい余暇、になるとしたら、こんなうらやましい日々はないのかもしれませんね。


ただし、そのためには、彼らの善良な行動に甘えることなく、「本当に楽しんでいるのか」という観察を忘れてはいけないと思います。本書でも失敗例として挙げているのは、電車のDVDを見るのが好きで、毎日楽しんで見ていた自閉症の青年が、施設で3年たって本当はもう「見飽きて」いるのに、毎日のスケジュールに組み込まれていたため、その後も見続けさせられ、とうとう問題行動を起こしてしまった・・・・心しておかなければいけませんね。


このように、自閉症児・者の余暇支援にあたっては、最初の余暇スキルの評価から、活動計画、実施、
そして観察という、一連の支援が必要になってくるということです。
考えたら少々面倒くさく思われるかもしれませんが、本書の後半の付録部分には、「余暇支援のための基礎調査表」や「余暇支援プログラム計画書」などもついていますので、コピーしてすぐ使えると思います。


また、今年の「のびのびキャンプ」は中止になりましたが、巻末には「サポートブック(キャンプ用)」の用紙もついていますので、次回実施の際には統一フォームとして活用できるようにも思えます。


こんな盛りだくさんな本書、全ページカラー印刷で、将来にわたり余暇支援を考えていくには、とてもわかりやすい1冊となっています。なにより、資料が余暇支援の実践に、実際に使われているものばかりなので、参考になるところも多いです。また消費税値上げの後なので、定価2000円、なんと“税込”も嬉しいですね。


ただし一般書店では、置いていなくて、自閉症eサービスへの直接注文となります。今度の中山先生のセミナー会場には、販売用に持っていきますので、参加される方は楽しみにお待ちください。


        (「育てる会会報 193号 」 2014.5 より)


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こんなとき、どうする?発達障害のある子への支援 中学校以降 (特別支援教育をすすめる本)/ミネルヴァ書房
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目次


Ⅰ. 自閉症の人の余暇の問題


  1. さまざまな余暇のあり方
  2. 自閉症の人たちの余暇の難しさ
  3. 余暇、余暇活動、レクレーション


Ⅱ. 余暇支援の方略


  1. イベント主義の弊害
  2. 評価の視点
  3. その人なりの楽しみ方を見つける
  4. 地域にある社会資源・人的資源の調査
  5. 余暇活動の組み立て
  6. 日常生活の中の余暇
  7. 豊かな余暇


Ⅲ. 余暇支援と構造化のアイデア


  1. 構造化された教室の設定
  2. 療育セッションの様子


Ⅳ. 生活場面における余暇支援


  1. フレンドシップパートナーの取り組み
  2. 学校での取組み


Ⅴ. ガイドヘルパーと地域活動


  1. ガイドヘルプ事業とは
  2. 自閉症の人へのガイドヘルプ
  3. 地域活動でよくあるトラブルとその対処


Ⅵ. 入所施設とケアホームにおける余暇支援


  1. 入所施設とケアホームの実態と余暇の課題
  2. 施設現場での余暇支援プログラム
  3. 施設生活全体の質を高めるために


Ⅶ. レクレーションプログラムの展開


  1. グループレクレーション
  2. 組織キャンプと野外活動
  3. これからのレクレーションプログラム


Ⅷ. 高機能自閉症の人たちの余暇


  1. 高機能自閉症の人の余暇活動の特徴
  2. 個別相談と生活支援
  3. ソーシャルクラブのねらいと実際


Ⅸ. 付録