自閉症スペクトラムの青少年のソーシャルスキル実践プログラム | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

ジャネット・マカフィー:著 萩原 拓:監修 古賀 祥子:訳  明石書店  定価:2800円+税 (2012.9)


     私のお薦め度:★★★★☆


その昔、息子が自閉症だと診断された頃は、「自閉症の人の内、80%ぐらいは知的障害を伴う」と言われていました。育てる会が2000年に作った、「自閉症のしおり」の初版本にもそう書かれています。でも、その後アスペルガー症候群などを含む、「自閉症スペクトラム」という概念ができ、いまでは自閉症スペクトラム全体でみると、その半数以上は知的障害を持たない子どもたちや青年のように実感しています。(そこから上の世代の方では、そもそも自閉症スペクトラムの概念で診断された方自体が少ないのでしょう・・・)
書店に行っても、棚の多くがアスペルガー症候群や高機能自閉症についての解説や対応の本、子育てやご本人の自伝などで占められるようになってきています。


ところで、その中で、意外と少ないのが本書のような「実践プログラム」のように思います。家庭における実践については、以前会報でも紹介した「アスペルガー症候群の子育て200のヒント」(ブレンダ・ボイド著)など、お薦め本はいろいろあるのですが、療育や学校現場でのプログラムとしての本、例えば四半世紀前、当時知的障害を伴う息子の子育ての助けとなった「自閉症児の発達単元267」(エリック・ショプラー 他)のような本は、高機能のお子さん向けには少ないのではないでしょうか。


本書の著者である、ジャネット・マカフィーさんのお嬢さん、レイチェルさんが高機能自閉症と10歳で診断された頃も同じでした。


診断名も、娘が抱えるさまざまな問題にどう手を貸してやったらいいかもわからないまま長い年月を送ってきただけに、ようやく高機能自閉症(HFA)という診断名がわかったことに私も夫もほっと胸をなでおろした。これでやっと、娘にふさわしい治療プログラムを見つけられると思ったのだ。ところがそんなプログラムはそう簡単に見つからないことがすぐにわかった。
「アスペルガー症候群」は、アメリカ精神医学会が1994年に発行したDSM-Ⅳで、初めて広汎性発達障害に含まれる明確な診断名として認められたばかりだった。したがって、その診断方法や病因もあまり知られておらず、まして治療法についての情報などほとんどないのも無理からぬことだったのだ。


1990年代の初めの頃のことですから、日本ではまだアスペルガー症候群という言葉すら一般には知られていなかったころのことです。
二人とも医師であったご両親は、10歳のレイチェルさんのために自らプログラムを組み立てなければならなかった、というわけです。
本書はそれからお嬢さんの成長にそって、11年間にわたって開発されたソーシャルスキル実践プログラム集です。2001年に発行され、さらにそれから11年後に日本でも翻訳出版の運びとなった次第です。


アメリカで開催されたワークショップでトニー・アトウッド博士から学んだことを、もっと深めたいとオーストラリアに渡り、博士の元で最先端のスキルを3ヶ月間研修を受けました。

その後も小児科医としての臨床体験や、個別にお子さんの特性と向き合うことでたくさんのアイデアや、他の研究者からの協力も得て本書ができあがりました。


ですから、そのスタートは20年以上も前になりますが、すでにキャロル・グレイ氏の協力を得てのコミック会話を使った指導法や、「怒りの温度計」「ストレス温度計」や「感情のものさし」「プライバシーの輪」など、現在もつかわれているグッズがたくさんでてきます。
コピーしやすいように付録として記入用フォームがまとめられているのもありがたいと思います。
前述の「発達単元267」が今も使われているように、このままでも今の学校や家庭、療育現場ですぐに使える本だといえるでしょう。


本書の内容は、それぞれのプログラム、例えば「感情を表現する 感情のレベルを測る」「ストレスを予防する」などごとに、イントロダクションとして障害特性からの理解と解説から入り、それぞれのソーシャルスキル獲得のためのゴールを決め、そこに至るための進め方として具体的なステップを細かく示していくという構成です。
実際に療育にあたるうえでは、とても参考になる一冊だと思います。


ただ、序文でトニー・アトウッド博士が、大いに役立つ「ハウツー本」と紹介されているように、本書は「読む」本ではなく、「やってみる」本です。実践に使ってこその価値がでる本だと思います。
また、監修者の萩原拓先生も、最後にこう述べられています。


本書には即実践に使えるさまざまなツール(プリント)が多く紹介されている。先にも述べたように、そのまま使えるものもあるかもしれないが、できれば児童生徒や支援者双方に合った形にアレンジして使っていただければと思う。
これらのツールを使った支援は、「最終的にツールがなくても大丈夫」という支援ではなく、「ツールがあれば適応していける支援」というように考えていただけると、本書で紹介されているソーシャルスキル支援を児童生徒にとって将来的に発展して使っていただけるのではないかと思う。


こうして一人ひとりに合わせた形で、この本で学び、身に付けたことは、必ず将来、社会に出て、ソーシャルスキルが求められた時に役立つはずです。
本書の副題は「社会的自立に向けた療育・支援ツール」となっています。子ども達の社会的自立に向けて本書を使いこなして、活用していただきたいと願います。


                   (「育てる会 会報 178号 」 2013.3 より)

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自閉症スペクトラムの青少年のソーシャルスキル実践プログラム/明石書店
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ガイドブック アスペルガー症候群―親と専門家のために/東京書籍
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アトウッド博士の 自閉症スペクトラム障害の子どもの理解と支援―どうしてクリスはそんなことをするの?―/明石書店
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目次

  序文  トニー・アトウッド
  著者のことば
  謝辞
  はじめに
  本書の使い方
  アスペルガー症候群と高機能自閉症の概要
  
第1部 自分の感情に気づき、対処する
  イントロダクション

   プログラム1 
      単純な感情に気づく ネガティブな考えをポジティブな考えに変える

   プログラム2
      さらに多くの感情を認識し、定義づける 非言語の手がかりを感情と関連づける

   プログラム3
      感情を表現する 感情のレベルを測る

   プログラム4
      ストレスⅠ:データを集める ストレスシグナルと、ストレスの原因と影響を知る

   プログラム5
      ストレスⅡ:ストレスレベルを自分でモニタリング(監視)する
            リラックス法を実践する

   プログラム6
      ストレスⅢ:ストレスを予防する

第2部 コミュニケーションスキルとソーシャルスキル
  イントロダクション

   プログラム7
      基本的な会話の受け答え

   プログラム8
      相手の非言語・状況の手がかりに気づき、読み取る

   プログラム9
      人と会ったとき・別れるときの挨拶

   プログラム10
      会話を始める

   プログラム11
      非言語の会話スキルを使う:SENSEを使った会話

   プログラム12
      口調を読み取り、使いこなす

   プログラム13
      会話のマナー

   プログラム14
      紹介をする

   プログラム15
      公私の区別

   プログラム16
      助けを申し出る・助けを求める

   プログラム17
      ほめる・ほめられる

   プログラム18
      対立を解消する ネガティブな感情や意見を伝える

第3部 抽象思考スキル
  イントロダクション
   
   プログラム19
      比喩的な表現

第4部 行動の問題
  イントロダクション

   プログラム20
      指示に従う


 付録A 参考資料一覧

 付録B 生徒用教材

 付録C 記入用フォーム

 付録D プログラム進行管理表

 付録E 用語集

  監修者あとがき

  著者・監修者・訳者 紹介