カーリ・ダン・ブロン:著 門 眞一郎:訳 明石書店 定価:1600円+税(2012.7)
私のお薦め度:★★★★☆
本書の副題は 「自閉症スペクトラムの青少年が 対人境界と暗黙のルールを理解するための 視覚的支援法」 といささか長いのですが、そのまま内容を的確に表現していると思います。
昨今、マスコミなどでも広汎性発達障害やアスペルガー症候群が事件の背景として取り上げられることも多く、その捉えられ方も問題なのですが、新聞ざたにならないところでも、気をつけておきたいこともあります。
これ(本書)は、すでに日本語版が出版されている同じ著者の『これは便利! 5段階表』の応用編とも言えるもので、特に自閉症スペクトラムの青少年が意図せず犯罪行為に走ってしまわないための支援法です。
自閉症の人が理解しづらい暗黙のルールや対人境界について、具体的に指導する方法を解説したものです。(「訳者あとがき」より)
したがって、本書で取り上げられている犯罪行為とは、主に軽犯罪やストーカー規制法に触れるようなもので、マスコミを騒がすようなものではありません。
しかし軽犯罪といえども、犯してしまえば警察に連行され、職を失ったり、社会的信用は無くしてしまうことになります。
そして訳者の門先生が“意図せず”と書かれているいるように、その行為が本人(時としては家族にとっても)が犯罪とは思っていないケースがあるということです。
本書では、それを分かりやすく5段階に分類して解説しています。
グレーゾーンやあいまいな表現、暗黙のルールなどは苦手な彼らですが、カテゴリー分類は苦にしないので、自分の行為がレベル何にあたるのかは(あたると思うのか)は、むしろ得意な作業ではないでしょうか。
本書のレベル分けは
レベル1 ごく普通の社交行動
レベル2 分別のある行動
レベル3 異様な行動
レベル4 こわがらせる行動
レベル5 体を傷つけたり威嚇したりする行動
となっています。
それぞれの詳しい内容については、著作権の問題もあり、実際に本書を購入して読んでほしいのですが、ここで問題となっているのは、レベル4の中でも、相手の受け取り方によっては、レベル5、すなわち犯罪となってしまうこともあるということです。
そして、それは年齢や周りの状況によって変わってきます。
たとえば、本書の最初の例で取り上げられている、「髪のにおいをかぐのが好き」という行為です。
小学生のクラスメイト相手なら、せいぜいレベル3「いささか異様な行動」ですむかもしれませんが、中学・高校生になると相手をこわがらせる行動レベル4となり、それを過ぎて、まして見知らぬ女性に対して行えば訴えられてしまうレベル5になってしまうでしょう。
こんなわかりやすい例では、それまでに周りの保護者や支援者が気がついて止めさせればいいのですが、それ以外にも社会性やコミュニケーションに弱い部分を持つ彼らですので、気をつけなければレベル4、レベル5まで行ってしまいそうなケースは多いです。
特に、表題にもある「対人境界」「暗黙のルール」などです。
本書では「やってみよう!」としてワークブック形式での表がいろいろ用意されています。まずは自分も行為がレベル何になるのかを考えるところからはじめて、次は相手がそれをレベル何と受け取るかを“自分”で考え記入します。最後は、実際に相手がどう感じているかを記入してもらい、それを比較してみるという作業です。
そのギャップを、行為ごとに抜き出しておけば、犯罪に巻き込まれることもなくなるわけです。
他にも、不安や怒りを同じく5段階に分類してセルフコントロールするワークや、理解しづらい「非音声言語(ノンバーバル)コミュニケーション」を解説するフローチャートなど視覚的支援がたくさん載っています。
非音声言語の章では、文字通り解釈することしか知らない“素直な”自閉症スペクトラムの青年に、本当はデートしたくなくて、やんわりと傷つけないように断っている女性の例をあげ、「スリー・ストライク、バッター、アウト!」計画まで作っています。
つまり、デートに誘って3回続けて何らかの理由をつけて断られたらそれでアウト!もう誘ってはいけませんというものです。
一部の人は、それは一方的ではないかと言うかもしれません。
彼女は本当に三晩とも洗濯しなければなかったので、外出できなかったのかもしれませんし、4回目には「イエス」と言ったかもしれません。そうだったらどうなるのでしょう。
統計上、デートに3回誘って3回とも返事が「ノー」なら、その後も相手はまず、「イエス」とは言わないものです。
だれについても絶対にそうだとは言えないにしても、私たちにわかることは、その種の非音声言語的であいまいな会話を《読み解く》ことが、タク(この話の主人公)には難しいということです。私たちにもう一つわかることは、そのため(同僚を何度も何度もデートに誘う)にタクは解雇されかけていたということです。
こんな風に深刻な話題なはずなのに、前向きに問題を捉えて解決策をわかる形で示してくれています。高機能な本人の方にもお薦めの一冊です。
ただ、発行部数の少ない専門書の宿命として、ページ数(実質55Pほど)の割に値段が高くかんじられるかもしれません。
でも、本書のアドバイスのおかげで、将来相手から訴えられたり、会社をクビになることが防げるとしたら、決して高い買い物ではないと、お薦めします。
(「育てる会会報 172号 」 2012.9 より)
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目次
謝辞
この本はだれのための本?
5段階表とは?
レベル2がレベル3に、レベル4がレベル5になるのはどんなとき?
物事の見え方や考え方は人によって違う
だれも自分一人ではできない
キスやチラ見が犯罪になるのはどういうとき?
グレーゾーンを理解すること
事態がコントロールできなくなるのはどんなとき?
でもそれはフェアじゃない!
さいごに
あなたを落ち着かせるアイデア、あるいはレベル4から2へ、レベル3から1へ、自分でレベルダウンさせるためのアイデア
参考資料
訳者あとがき