子どもの気持ちがわかると 子育ては、もっと楽しい | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

佐々木 正美:著 すばる舎 定価:1500円+税


私のお薦め度:★★★★☆


先月に続いて、佐々木正美先生の著書の紹介です。


すでにみなさんご存知のように、佐々木先生の著書には二つの流れがあると思います。


一つは、『子どもへのまなざし』や『抱きしめよう、わが子のぜんぶ』などの、一般の子育て中のお母さんに向けての本、こちらはエリクソンの発達段階の乳児期における基本的信頼感を大切にされているように思います。


そしてもう一つが、言うまでもなく、日本にTEACCHを紹介し、啓めていただいた書籍の数々です。20年前に書かれた「講座 自閉症療育ハンドブック ‐TEACCHプログラムに学ぶ」などの本は、田舎に住む当時の私たちにとって、将来への希望と道筋を示してくれた得難い本でした。


これまでは、その読者対象を分けて書かれることが多かった佐々木先生の書籍ですが、本書ではその両方の視点から子どもの成長をとらえられています。
「30のケースから学ぶ」と副題にありますが、第1章から第3章までの16のケースでは、園や家庭でのよくある「困った!」に少し見方を変えた、専門家の立場からのアドバイスです。

そして、第4章に登場する残る14のケースが「ほかの子とは少し違う」発達障がいを持つ子どもへのアドバイスです。


たしかに、ケースの最初の「家ではいい子でも、園ではわがままな子」は発達障がいを持つ子だけでなく、持たない子の中にも見受けられます。ケース8の「友だちとの関係をうまく作れない子」や9の「ルールを守れない子」にしても然りですね。
それに対しての佐々木先生のアドバイスは、少し意外(?)なものでした。


こどもが「わがまま」を言っても否定しないで、できるだけ要求に応えてあげましょう。子どもの言うことを聞いてあげればあげるほど、子どもは「いい子」に育っていきますよ。


子どもの「自己肯定感」や「自尊感情」は、人に十分甘えられて、依存ができ、その人を信じることができるところから育ちます。「甘え」や「わがまま」を人に受け入れてもらえて初めて、「これで自分はいいんだ」と、自分で自分のことを肯定的にとらえられるようになるのです。
「いい子」にさせようと、いろいろなことを言って聞かせても、子どもは「いい子」にはなりません。子どもを「いい子」に育てたいのであれば、「わがまま」を言っている子どもを否定せず、その「わがまま」もひっくるめて、ありのままの姿を受け入れてくださるといいですよ。「わがまま」は自律していくための手続きですから、むしろ受け入れて認めてあげていただきたいと思います。


「わがまま」の勧めですね。これまで、子どもの行動を、「障害特性によるもで、決してわがままからくるもではない!」などと言っていた身にとって、ちょっと考え直させられたお話でした。


またそれに関連して、もう一つ、本書で印象的だったのは、これまであまり聞いたことのなかったのですが、「根拠のない自信」という言葉でした。たしかに「根拠のある自信」、すなわち勉強ができる、足が速い、ピアノがうまいなどという自信は、それはそれでいいのですが、それだけを頼りにしていると脆いところがあって、もっと能力のある子と出会うと(それがほとんどだと思います)自信を失って挫折感を味わってしまうことになりますね。
それに比べて、無条件に「自分はここにいていいんだ」という自信、ありのままの自分が認められるという安心感が育っていれば、自分より優れた能力を持っている子どもと出会っても、劣等感を感じることなく、「わ~、スゴいんだ!」と素直に相手を褒めることができるという訳です。
それは、発達障がいの有無に関係なく、子どもたち全てにあてはまることでしょう。
果たして自分は、そんな、「根拠のない自信」を持っているかどうか? わが子にそんな「根拠のない自信」を持たせられているかどうか? 改めて自分に問いかけてみるきっかけとなる一冊でした。


第4章については、「衝動的に動いてしまう子」「パニックを起こす子」「何でも一番でないと、気がすまない子」など、発達障がいを持つ子どもについてですので、思い当たるお母さんも多いと思います。
本書の題名は「子どもの気持ちがわかると・・・・」です。佐々木先生がわかりやすく、子どもの気持ちを弁明して、それに対するアドバイスも解説していただいていますので、ぜひ本書を読んで「・・・子育ては、もっと楽しい」と子育てを楽しんでいただけると嬉しいです。


では最後に、そんな中から、ケース25「叱られると吃音になる子」の子どもの気持ちを代弁してのアドバ
イスです。


叱られたり、失敗してどもるようになってしまう子というのは、強い「とまどい」を持った子です。この子たちは、なぜ叱られるのかを理解できません。叱られる意味がわからないのです。不当に叱られたと感じ、この子たちは非常に傷ついているはずです。
ですから発達障がいの子どもは、叱って育てては絶対にいけません。この子たちにしてみれば、まるで災難が降ってわいたかのように、「なぜだ!」という気になるでしょうね。
この子たちに対しては、叱るのではなく、「そんなとき、こうしちゃダメだよ。こうするのがいいんだよ」と言い聞かせてあげるといいでしょう。後半の「こうするのがいい」という肯定の部分が、とても大切です。「こうしなさい」と穏やかに、具体的に、短い言葉で伝えてあげてくださるといいですよ。
 
もし叱ったときに、どもった返事が返ってきたら、「もしかすると、わかっていないのでは」と察してあげてください。

でも、そもそも叱るのがいけないのですね。ましてや感情的に怒ってしまってはダメですね。本書を参考にしての楽しい子育てを願っています。


                      (「育てる会会報 169号」 2012.6)


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自閉症児のためのTEACCHハンドブック―自閉症療育ハンドブック (学研のヒューマンケアブックス)/学習研究社
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子どもへのまなざし/福音館書店
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続 子どもへのまなざし/福音館書店
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目次


  はじめに
  本書の構成


第1章 「わがまま」に見える子どもの気持ち

  子どもの依存と自律について   

         ~子どもの「わがまま」や「反抗」を理解する~


 1 わがまま
    ケース1 家ではいい子でも、園ではわがままな子


 2 反抗
    ケース2 ウソをつく子
    ケース3 期待されるのを嫌がる子
    ケース4 生意気な態度を取る子


    Q&A  子どもを上手に「甘えさせる」には、どうすればよいのでしょうか?


第2章 「対人関係がうまく作れない」子どもの気持ち

  子どもはどのように、人間関係を築いていくのか

           ~人間関係の基盤は「人を信じる力」と「自分を信じる力」~

 1 母親
    ケース5 お母さんから離れられない子


 2 きょうだい
    ケース6 下のきょうだいをいじめる子


 3 せんせい
    ケース7 せんせいに口答えをしたり反抗する子


 4 友だち
    ケース8 友だちとの関係がうまく作れない子
    ケース9 ルールを守れない子
    ケース10 ほかの子を叩いたり、泣かせてしまう子


 5 人見知り、場所見知り
    ケース11 人見知り、場所見知りする子


    Q&A  子どもにとって「よいお母さん」「よいせんせい」とは、どんな人のことを言うのでしょうか?


第3章 「日常生活になじめない」子どもの気持ち

  「優越感」と「劣等感」について
           ~ほかの子との比較は、子どもにどう影響するか~


 1 じっとしていられない
    ケース12 落ち着きのない子


 2 のんびり
    ケース13 のんびり、ゆっくりしている子


 3 くせ
    ケース14 くせが治らない子
    ケース15 夜遅くまで起きている子


 4 不器用
    ケース16 手先が不器用な子


    Q&A  一人だけでできない子には、どう対処すればいいですか?


第4章 「ほかの子とは少し違う」子どもの気持ち

  「発達障がい」の基礎知識
          ~発達障がいの子を、どのように理解し接するか~


 1 身体(脳の統合力)のコントロール
    ケース17 身体に触れようとすると嫌がる子
    ケース18 二つ以上のことが同時にできない子
    ケース19 衝動的に動いてしまう子
    ケース20 何度注意しても、行動を直してくれない子


 2 感情のコントロール
    ケース21 パニックを起こす子


 3 こだわり
    ケース22 人に合わせられない子
    ケース23 何でも「一番」でないと、気がすまない子


 4 会話
    ケース24 見当違いの話をする子
    ケース25 叱られると吃音になる子
    ケース26 「冗談」や「たとえ話」が理解できない子


 5 遊び
    ケース27 一人遊びをして、みんなと遊べない子
    ケース28 ごっこ遊びができない子


 6 学習
    ケース29 耳で聞いたことを覚えられない子
    ケース30 文字の読み書きが苦手な子


    Q&A  自閉症の人は、どんな感じ方をするのですか?


  おわりに