細川 佳代子:プロデュース ミネルヴァ書房 定価:2500円+税 (2009.3)
私のお薦め度:★★★☆☆
「特別支援教育をすすめる本」シリーズの第4巻にあたる本書ですが、それまでのシリーズとは少し変わった構成になっています。これまでの3巻は「こんなとき、どうする? 発達障害のある子への支援」として、年代別に支援方法をわかりやすく解説し、編集にあたられているのも、内山登紀夫先生をはじめとして、諏訪利明先生、中山清司先生、安倍陽子先生など、みなさん育てる会でも講演をお願いした専門家のみなさんでした。
ところが、4巻目の本書は、なんとスペシャルオリンピックス日本の名誉会長の細川佳代子さんがプロデュースしている、子どもたちのためのワークブックです。
スペシャルオリンピックス(SO)については、ご存知の方が多いと思いますが、知的発達障害のある人がアスリートとしてスポーツを日常的に楽しみ、スポーツを通して社会参加を図っていく団体です。役員ではないので全国大会や国際大会における「知的発達障害」に知的に遅れのないアスペルガー症候群や高機能自閉症の人が参加できるかどうかは定かではないのですが・・・少なくとも岡山では、トレーニングや地区大会には発達障害であれば参加できると思います。
県内各地で陸上、ボウリング、水泳、バドミントン、フロアホッケー、馬術など多彩な活動を行っていますので、余暇活動に役立てていただければ、生活の幅も広がるとお勧めします。
話がお薦め本からそれてしまいましたが、そんな訳で本書は専門家の書かれた“専門書”ではなく、まだ発達障害という言葉も聞いたことなない子どもたちが、クラスの中で先生と話をしていくうちに、障害について少しずつ知っていくというストーリーのワークブックです。
障害のある人の自立をはばむ、大変厚い壁があるのです。その壁は「障害者」と聞いただけで他人事だと思ってしまう壁にほかなりません。なんとしても、この壁をなくしたい。そのためには、無知と無理解を正すことが必要であると思い、私は心が柔軟な子どものうちからの教育に力を入れ始めました。そうしたなか、発達障害とよばれる障害で苦しむ子どもたちが年々ふえていることが気がかりになってきました。楽しく通えるはずの学校で、つらい思いをしている子どもがたくさんいること、保護者や先生がもご苦労されていることに胸のいたみを感じました。これは緊急の課題と思われました。
このたび、発達障害についての理解を深めるためのワークブックにたずさわる機会を得て、この本を世に送ることができました。1冊の簡単なワークブックが十分な役目をはたせるとは思いません。しかしこの本がきっかけとなり、ひとりでも多くの人や子どもが人間は一人ひとりちがうことを理解し受容し、思いやりの心と多くの笑顔が生まれてくることをねがっています。そして、かならずや「障害者」という言葉がなくなる時代がくると信じています。
そんな細川さんの思いから生まれた本ですが、やはり、発達障害とは理解が難しい障害であると改めて感じさせられた本でもありました。最初の障害の説明からして、肢体不自由や視覚・聴覚などの障害に比べ、外見から分からないだけでなく、同じ発達障害という範疇でも一人ひとり大きく違っていることが、子どもたちにはイメージしにくいものでしょうね。
その上に、言葉で説明しようとすると、自閉性障害からアスペルガー症候群、高機能自閉症やADHD、LDやトゥレット症候群まででてきて、その幅の広さに着いていけず、お手上げという子どもたちも出てきそうで、ちょっぴり心配もあります。
もちろん、クラスに発達障害の子どもがいたら、その対応として役立つアドバイスも多いです。例えば、「障害の名前より、その人がどんな状態で、どんなことに困っているのか、よく知る方が大事」とか、「パニックがおきたときは、「おちついて」と言いきかせるよりは「わかった」と言って、先生を呼び、静かに落ち着くまで待つ」などは、共通して有効な方法でしょう。もっとも、呼ばれてきた先生が「落ち着いてと言い聞かせ、指示通りにさせる」的な対応をとってしまったら台無しですが・・・・。
そう考えると、子ども向けの本で、私たち保護者にとっては“常識”と思える項目ばかりだと思いますが、すべての先生方にも“常識”として目を通していただきたい一冊かもしれません。
ワークブックとしての本書は、各項目ごとにイラスト入りで2択のクイズで、その回答をみんなで話し合って正解を考え、また章ごとに理解度を○×でチェックする問題が並んでいるという形式なので、子どもたちもゲーム感覚で解いていけると思います。
ただ全頁フルカラーでとてもきれいな仕上がりですが、その分60ページほどで2500円+税と少し割高に感じられるかもしれません。その点からも、ご家庭で購入するよりも、学校図書として、図書室に備えておいてほしい本だと思います。
また普通学級に通っている発達障害をもつお子さんの場合、先生はともかく、クラスメイトにまで障害の名前までをカミングアウトしているケースは稀でしょう。と、なると本書の使い方も、発達障害を持つ子どものクラスで人権教育の場などで使うというよりも、図書室で一般的な知識として、興味を持った子に読んでもらうという方がふさわしいように思います。
子どもたちは心が柔軟で、純真な思いを持つ反面、時として異質なものを排斥しようとするちびっこギャング的な面を見せることがありますね。そのため、先生が何もフォローせずに特定の子のいる教室の後ろの棚に、本書を“ただ”置いておくというのでは、著者である細川さんの意図に反する結果になりかねません。
やはり、低学年の場合は、先生や場合によっては保護者から、本人の状態や苦手なところとして話し、簡単な対応法を示してあげているページを選んで、みんなで話し合っていくという形にした方がいいように思います。
先の細川さんの言葉を借りれば、「“障害者”という言葉がなくなる時代がくることと信じています。」です。
アスペルガー症候群という障害名を覚えさせるのではなく、「彼は冗談や軽口がわかりにくく、本気で受け取ってしまうことがあるので、素直な言葉で話した方がいい」とか、「夢中になると約束を忘れてしまうことがあるので、大事なことは紙に書いて渡したほうがいい」とか・・本書はプロデュースされた細川さんの思いがすばらしいだけ、取り扱いも大切にしていただきたい、そんな1冊です。
(「育てる会会報 167号 」 2012.4)
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目次
はじめに
このワークブックの役割と使い方
第1章 発達障害のある人のことを知ろう
1 「障害」って、なあに?
「障害者」って、どういう人のことなの?
「障害」があるとなにかにがてな部分ができる
2 「発達障害」って、知ってる?
子どものうちからあらわれるいくつかの障害をいう
外見からはわかりにくい障害もある
3 どんな障害かな
原因はなに? おとなになったらなおるの?
どんな種類があるの?
4 発達障害でにがてなことがあると、どうなるの?
みんなが知っていれば解決できそう
りっぱなしごとができたのはなぜかな?
5 にがてなことって、だれにもあるよ
得意なこと、にがてなことは、どうしてできる?
にがてなことがあるときは、どうする?
チェック 発達障害のことがだいたいわかった?
第2章 なかよくなるにはどうしたらいいか考えてみよう
1 つきあうとき知っておきたいことは
2 できないことは全部してあげるの?
3 どうしたらいいのかがはっきりしない人には?
4 いつも気をつかうべき?
5 いやなことをされてもがまんしたほうがいいの?
6 あたりまえの話が通じないときは?
7 パニックをおこす人にはどうしたらいい?
8 発達障害があるとかわいそう?
チェック なかよくなるための考え方がわかった?
第3章 友だちとしてつきあうために
~発達障害があってもなくても大事なこと~
1 わかりあえることを大事にしよう
2 てだすけは、その人のためだけにするのかな?
3 がんばる気持ちをおうえんしよう
4 人も自分も大事にしよう
チェック ともだちとしてつきあうために大事なことがわかった?
発達障害についてもっと知るために
先生方、保護者の方へ