アスペルガーを生きる子どもたちへ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

佐々木 正美:著  日本評論社  定価:1200円+税 (2010.12)


    私のお薦め度:★★★★☆


本書の著者である佐々木正美先生については、もう紹介するまでもありませんね。

自閉症の特性に配慮した支援のためのTEACCHプログラムを広く日本に紹介していただき、我が家でも20年前からお世話になっています。今、そのTEACCHプラグラムに基づく療育を受けている「赤磐ぐんぐん」の子どもたちにとっても大恩人となる先生です。


本書はそんな佐々木先生が、自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちへ「あなたがあなたらしく生きるために」と書かれた本です。


私は、自分の中にアスペルガー症候群的要素があると思っているのです。本当にそれはよくわかるのです。そして、そのことをそれほど不幸なことだとは思っていないのです。ありのままに生きてきました。


私の家内は、自閉症・アスペルガー症候群についてかなりよく知っています。わが家を訪ねてくるご本人もいるのでよくわかるようです。そして、私にもそういう要素があることをよく認識しています。
以前、家内が「人間というのは何か一つ取り柄があれば、やっていかれるものですね」と、ぽつんと言うのを何度か聞きました。率直に言えば「取り柄はたった一つだけですか」と聞きたくなってしまいますが、家内から見れば実感なんだと思います。裏をかえせば、「苦手なところは本当に苦手ですね」という意味ですね。


そんな、アスペルガーの苦手なところも、強みなところもわかっている先生だからこそ、同じアスペルガー症候群の子どもたちに、「そのままでいいよ」との温かいメッセージのつまった文章が書けるのでしょうね。自分に弱いところがあっても、それを負い目や卑下することのないよう生きてほしいと伝えられています。


そして、自分に苦手なところは奥様に助けられて暮らしてこられたように、お互い弱いところは補い合って生きていけばよいのですよと述べられています。


ただ、本書の最初で、ローナ・ウィング先生の言葉を引用されて紹介されているように、そのためには「こちら側が自閉症の人たちの世界に入る努力をすることが必要」で、「あなた方はこちらの世界に入ってこられるように努力しなさい」というようなかつて行われていたような治療や教育は間違っているということでしょう。

社会性に弱いところをもつアスペルガーの方に、「こちら側」の弱いところを理解してほしいと望むのは酷な話で、「あなたはそのままでいいよ、強みをもっと生かしていってほしい」と、プロデュースしていくのが「こちら側」にいる支援者の役割でしょう。


また、それに対する、少々残念なエピソードへの訴えも本書にありました。


少し前に、こういうことがあったのです。私が監修している本の中に、アスペルガー症候群の人に向いている仕事のひとつが図書館の仕事 ― たとえば書類の整理やパソコンの操作と書いていたのです。
そうしたら、日本のある図書館の司書の方から出版社あてに、「図書館の仕事が向いているなどと書かれては困る」というクレームの手紙が来たのだそうです。アスペルガー症候群の人は日本の図書館には合わない。困るという最大の理由は、日本の図書館員には接客の仕事もあり、それが彼らにとっては非常に難しいことなのだというのです。
それで私は次のように伝えてもらいました。
「アスペルガー症候群の人の特性をまずしっかりわかっていただき、みなさんより得意なところがあるのでそこを十分発揮してもらって、苦手なところは他の人がカバーしてあげられないものか、監修者はとても残念がっている」と。
こんな話を聞いたら、TEACCHの人たちは仰天します。なぜ、この人がよくできる仕事を選んでやってもらわないのか。書籍の規則的な整理とか収納は一般の人より良くできるのだから、接客の仕事の部分はそれが得意な人が代わってあげればいいじゃないか。それくらいのアレンジメントがなぜできないのか、と言われてしまうでしょう。


しかし、残念ながら仰天されようと、まだまだこれが日本の現実の一つでもあるのでしょう。養護学校を卒業してスーパーの店出しの補充をしていた青年が、いきなりお客に話しかけられて応対できず、店に苦情を寄せられたという話も聞いたことがあります。


佐々木先生が言われるように、自閉症やアスペルガー症候群の人の特性を、一般の人、少なくとも雇い主の方や、一緒に働く職場の仲間の方には分かっていただく支援をしていくことが私たち周りの人の役目なのでしょうね。


同時に、本書の最後の節、「無理解で熱心な人たち」にあるように、特に身近な人たちの、その特性への理解は正しいものでなければ、かえって本人を苦しめることがある、といことも心しておきたいと思います。


誤解を恐れない言い方をすると、「無理解であるならば、熱心な育て方などしないほうがいい」のです。わからないのであれば、むしろ放っておいてくださるほうがいいのです。ただ、放っておくという言い方は投げやりですし、ネグレクトにあたりますから、「そのままでいいんだよ」と見守っていてあげてほしいと言ったほうがいいかもしれません。
「無理解で熱心な人」というのは保護者だけではないのです。
専門家も教師も同じなのです。


そうですね。これ以上苦しむ子どもたちを増やさないように、育てる会でもセミナーや支援者のための夜間講座を続けて、「理解ある熱心な人たち」を増やしたいと思っているのですが、これからも本書を読み返して、佐々木先生が最初にTEACCHを紹介してくださった時からの思いを大切にしなければ、と改めて感じさせられました。


また、近頃、ご本人の書かれた本には、ご本人の体験談のあとに、専門家の方が解説を加えていくという形式の本が多いのですが、本書では逆に先生の書かれた部分に、ご本人の方が 「当事者の思い」 を補足されていくという構成になっています。それは、本書が佐々木先生とアスペルガー症候群の当事者を交えて、編集者の森美智代さんと対談しながら出来上がった、いわば書きおろしならぬ「語りおろし」から生まれた本だからでしょう。ご本人の言葉をなにより大切にされる佐々木先生ならではの構成だと思います。


それぞれのことばの間から、佐々木先生の、あのいつもの柔和なまなざしや微笑みが感じられて、とてもやさしい気持ちになる、そんなみなさんへのお薦めの一冊です。


        (「育てる会会報 154号 」 2011.3)

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目次


  はじめに


第1部 あなたがあなたらしく生きるために


  あなたはあなたのままでいい
  「あるがまま」を認めるとは
  自分を否定しないで
  空気を読めない?
  無理な適応はしなくていい
  裏表が無く、自分を飾りたてない人たちのすがすがしさ
  疲れを自覚できない人たち
  先回りせず、後押しを
  多様性を受け入れる社会に
  記憶が消えない苦しみ
  予測のつかない未来への苦痛
  得意なこと、苦手なこと
  言われたとおりに対応しても・・・・・・
  愛情の強さゆえに
  診断を受け入れられない親、ホッとする当事者
  可能性を引き出す
  診断を受けとめるためには
  仲介者の存在
  信頼できる人を見つける
  本当にアスペルガー症候群は増えているのか
  自分の居場所
  自立と結婚
  焦らないで、待つ


第2部 TEACCHを正しく理解する


  私たちが理解しにくい特性へのTEACCHのかかわり
  私がTEACCHから学んだこと
  TEACCHはあくまで個別対応
  生活しやすい「構造化」とは
  多様性と一律性
  人は人間関係の中で生かされる
  なぜ「構造化」が良いのか
  TEACCHはのびのび生活できる
  できることと、できないことの落差ゆえに
  専門家の役割
  職場での対応
  無理解で熱心な人たち


  おわりに