アスペルガー症候群だっていいじゃない ~私の凸凹生活 研究レポート~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

しーた:イラスト・著 田中 康雄:監修 学研 定価:1400円+税(2010.10)


     私のお薦め度:★★★★☆


本書は30代後半になってアスペルガー症候群と診断された、しーたさんが「私(発達障害)が感じている事実」わかりやすい言葉と、ほのぼのとした4コマ漫画にのせて伝えてくれている本です。
元になっている情報発信は、しーたさんのブログ「私はアスペルガー症候群でしーた♪
~4コマ漫画で綴る自閉症・発達障害の世界~ がんばれ あすぺさん!」です。
http://ameblo.jp/asupe-san/


しーたさんは、システムエンジニアなのだそうですが、診断がでるまで二次障害であるうつ病に悩まされ、大学院中退や休職を経験しながらも、アスペルガー症候群の診断の後は、会社から特性に配慮した支援を受けながら復職して働いておられます。そんな彼女だからこそ、アスペルガー症候群とそうでない人の感じ方や考え方の違いと、お互いに理解しあうことの大切さをなんとか伝えようと書かれたのが、ブログであり、本書なのでしょう。
そして、各エピソードごとに、専門家である北海道大学の田中康雄先生が、これまたわかりやすい言葉で説明してくださっています。


それでは、そんな感じ方の違いを教えてくれるエピソードです。


私によくありがちな会話。
私「なんでこんなことをしたの?」
相手「ごめん」
私「なんで?」
相手「ごめん」
私「だから、なんで?!」
相手「ごめん」
私「なんでって、言ってるでしょう!」
相手「だから、謝ってるだろ!」
・・・なんでこうなるのでしょう?


一般に、アスペルガー症候群の人は、「言葉を字義どおりに解釈する」と言われています。
その典型例として挙げられるのが、相手の「なんでこんなことをしたの?」という言葉に対して「謝らずにくどくど言い訳をして、さらに相手の怒りをかう」というものです。
これは、両者の「なんで」という言葉の違いにあります。定型発達の人の場合、怒っている場合の「なんで」は、ほぼ「感嘆詞」に近い意味を持っているのです。だから、理由を尋ねているのではなく、非常に強い嘆きを表しているのです。
つまり「なんで」というのは、「私は非常に強い怒り・嘆きを感じているのだ」という表現なのですね。そんな相手に、理由を述べてもさらに怒りをかうのは当然でしょう。


そうですね、これまでもよく自閉症児に理解できない不適切な叱り方の例として、しーたさんも述べられている、この「なんでこんなことするの!」というような典型例を取り上げることがあります。


でもそれは、私たちの側(怒っている定型発達の側)から見た、分かりやすい例だったのですね。自閉症の特性は分かっているつもりでも、逆にこんな謝り方をして、高機能自閉症やアスペルガー症候群の方を余計いらだたせていたかもしれません。本書でのしーたさんの説明は、アスペルガー症候群の仲間たちには、定型発達の人の心理をわかりやすく解説されたものですが、私たちにとっても自分の思い込みを気づかせてくれるものが多かったです。


世間では、“アスペルガー症候群の人は周囲の人を怒らせることが多い”と言われていますが、実際には逆もたくさんあるのだと思います。
ただ、アスペルガー症候群の人がなぜ怒っているのかわからないので、「執拗に同じことを繰り返し言う」「突然、怒り出す」という理由付けをしているのです。
とはいえ、世の中の多数派を占める定型発達の人のすべてに考え方を変えてもらう、というのは、現代の社会では合理的とは言いがたいです。賢明な解決策として、アスペルガー症候群の人がこのかんちがいに気が付いたら、自分から歩み寄ることです。


「なんだか、会話がかみ合わないな」と思ったら、「お互いの“前提”がズレているのでは」と考え、会話を一時停止して、“ズレ”を修正するチャンスを作りましょう。


全く頭が下がる解決策ですね。本来であれば多数派である非自閉圏の人が心がけていないといけない話でしょう。まして自閉症スペクトラムの中には、自分の感じ方をしーたさんのようには、うまく表現できない人も多いのですから。
“合理的”ではないとしても、少なくともいつもアスペルガー症候群に関わっている、私たち保護者や支援者は、“このかんちがいに気が付いたら、自分から歩み寄り”たいですね。
そんな当事者の側からでなければ気づかなかったかもしれない話でした。


また一方で、この点に対しては、解説の田中康雄先生は「ズレを楽しむ」ことを勧められておられます。確かにお互い納得しあえれば、その感じ方の違い、文化の違いは笑って認め合うことができるはずです。
本書の中でも、しーたさんはアスペルガー症候群の違いや不利なことを声高に主張されているのではありません。
感じたままの気持ちを優しい4コマ漫画とともに表現されています。
田中先生の言われるように、本書を楽しみながら読んで、そして彼らとともに楽しんで暮らしていけるようにと本書をお薦めします。         


                   (「育てる会会報 152号 」 2011.1)

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目次


  はじめに


  私と「あすぺさん」
  アスペルガー症候群とは発達障害の一つです ・・・ 田中 康雄


1章 苦手なことには理由(わけ)がある


  左右の差が大きい
  集中しているときは呼ばないでっ!
  世の中はまぶしい!
  左右が身に付かない
  耳から聞いた情報を保持できない
  お一人ずつお願いします!
  画像中心の記憶と思考
  ささいなことで大騒ぎするのはなぜ?


2章 診断されて変わったこと


  診断までの道のり
  診断後の気持ちの変化(1)
  診断後の気持ちの変化(2)
  私が本から学んだこと


  あすぺさんのことわざ劇場 1
    二兎を追うものは一兎をも得ず


3章 理解されるって難しい?


  頭の中で仕事をする
  「一人はさびしい」は本当?
  プレゼント選びが苦痛なのはなぜ?
  「障害を理解する」とはどういうことか
  お掃除ロボットから支援のあり方を考える(1)
  お掃除ロボットから支援のあり方を考える(2)
  電車が大好きなのはなぜ?


4章 子ども時代の凸凹成育


  無条件に「自分が悪い」と感じてしまう
  断ることは悪いこと?
  次にすることがわからない!
  おっちょこちょいだと思ってた
  ミルク飲み人形の運命は?(1)
  ミルク飲み人形の運命は?(2)
  伝言ゲームは苦手


  あすぺさんのことわざ劇場 2
    怒りは敵と思え


5章 社会適応するために


  「劣等感」は自分の可能性を狭める
  カメなら水中を行け
  予定変更でパニックになるのはなぜ?
  予習すれば怖くない?
  「なんで?」の使い方からわかること
  見直しができないのはなぜ?
  ささいな失敗を減らすには?
  とっさに「大丈夫?」と言えないのはなぜ?
  社会適応への道のり


  当事者から学ぶこと、当事者の生きづらさ ・・・ 田中 康雄


  おわりに