あきらめないで!自閉症 ~幼児編~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

平岩 幹男:著 講談社 定価:1429円+税 (2010年3月)


       私のお薦め度:★★★☆☆


わが子が自閉症と診断された時に、これまでの生活が崩れていくようで、絶望感におそわれたおかあさん方も多いと思います。そんなお母さんに向けて、「あきらめないで!」と早期療育の可能性の大きさを書かれた本です。


でもあきらめないでください。後で説明する個別療育を行ってみると、発達指数が2歳6ヶ月の時点で45であったのに4歳では70になる場合や、3歳8ヶ月で58であったのに5歳2ヶ月では85になった場面も経験しました。すべてがうまくいくわけではありませんが、そんな場合もあるのです。


この文章から、もう気づかれる方もあると思いますが、本書はABA(応用行動分析)の中でもロヴァース博士の集中的個別対応トレーニング法(DTT)療育を推奨されています。これは2~5歳の早期に、週に30~40時間のトレーニングを行い、指示を理解する力やコミュニケーション能力を高めていこうという方法です。


本書では、目次に 「日本で最も普及しているTEACCH」 や 「ABAとTEACCHの関係」 などが載っているように、かなりの分量を使ってTEACCHを意識されて、その関係についても述べられています。


障がい者の介護にたとえてみましょう。体が不自由になったときに、家の中の段差をなくしたり、手すりをつけたりする、これがバリアフリーの考え方です。バリアフリーを実現して、障がい者や高齢者にとって行動しやすい環境を作り出す。これは、まさに自閉症児に快適な環境を作り出して、その潜在能力を引き出そうという、TEACCHの思想に共通するものです。
バリアフリーは有用ですが、障がい者の生活能力を高めるには、これだけでは不十分です。なぜなら障がいには一人ひとり異なった面があるので、その人にあった対応やリハビリテーションをしないと十分な能力の回復につながらないからです。
設備を改善すると同時に、障がい者の身体能力を回復させるリハビリテーションが両輪として機能してはじめて障がい者の自立が実現します。


このリハビリテーションに当たるのが、個別療育のABAであるという説明です。ABAの立場から見ると、TEACCHはこのように捉えられているのでしょうね。
筆者のことばを借りれば、本人の能力を高め、「めざせ!第2の高機能自閉症」と療育によって本来の高機能自閉症に近づき、発達の促進を目標とするのがABAの考え方であり、それが本書の題名の由来ともなっています。

一方でTEACCHは、ここに書かれているように、環境を整えることにより本来の力を発揮して、自閉症のままで暮らしを充実していこうとしている面も確かにありますね。


どちらの道を選ぶかは、保護者の選択によるもので、おまかせになると思います。

ただ筆者も率直に述べているようにABAには、その利点とともに問題となる点もあります。それは大切な幼児期における週40時間にも及ぶ時間と、その個別療育に対する費用です。


これは私の印象に過ぎませんが、投資の世界と療育はある意味で共通する面があります。リスクの高い投資は失敗したときの損失も大きくなりますが、うまくいったときの報酬は大きくなります。一方で、リスクの少ない投資は、損失を被るリスクは小さくなりますが、大きな報酬も得られないのが原則です。


筆者の経験ではABAによる、その成功率、改善がみられるのは60~70%ということです。
問題は、投資やTVゲームなどとは違い、彼らの人生は一度しかない大切なものだということでしょう。うまくいかなかったといえ、リセットすることはできません。
よく考えて選ばれることが必要でしょう。そのためにも、本書はその参考になるための貴重な1冊だと思います。


一方で筆者が行っている療育はABAを基本としながら、子どもの状態を見ながら必要に応じてPECSやTEACCHも取り入れていくという、柔軟性の高いものです。

本書で述べられているように、本来は個別的にアセスメントを行い、一人ひとりに合わせた療育がTEACCHにおいても基本であるはずなのに、誰にとっても構造化はわかりやすくすぐにある程度の効果は上るためか、現実の療育現場では構造化が一律に行われることが多いのかもしれませんね。


また、本書では 「お父さんにできること」 に1章を割いてメッセージを伝えています。
「疲れているでしょうし、イライラもするでしょう。しかし、1日 10分だけでいいですから、お母さんの話を聞いてください。その間、とにかく黙って聞いてください。それだけでも助かりますから」


お母さんの求めているのは解決法や審判的な対応ではなく、共感と受容だということでしょう。
また、ひとりで勝手に絶望しない、ということも訴えられています。


子どもが自閉症と診断されると、父親がはりきっていろいろな本を探したり、インターネットでいろいろ調べたり、療育法を見つけて保護者のサークルに入会するなど短期間にがむしゃらに動くことがよくあります。父親が熱心なことは悪いことではありませんが、頑張りすぎて、息切れして勝手に絶望することも少なくありません。


まるで、昔の私のことを言われているようなお話ですね。そういえば、以前いっしょに熱心に頑張っていたお父さんの中にも、いつのまにか姿を見せなくなった方もいらっしゃいます。


育てる会のお父さん達とは、「焦らない」「あきらめない」そして「頑張りすぎない」で、楽しく末ながくおつきあいしていきたいと思います。
「あきらめないで!自閉症」「あきらめないで!お母さん、そしてお父さん」です。


                    (「育てる会会報 150号 」 2010.11)

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目次


  はじめに


第1章 自閉症って何だろう


  そもそも自閉症って?
  自閉症の3つ組
  アスペルガー症候群も自閉症の一種
  発達障がいという概念
  自閉症はまれな障がい?
  自閉症は親の育て方とは関係がない!


第2章 わが子が自閉症かなと思ったら


  乳幼児期にも自閉症発見の手がかりはある
  1歳ころの自閉症
  言葉の遅れがある場合
  医師はどのように診断するのか


第3章 乳幼児検診でどこまでわかるの?


  1歳6ヶ月児検診で発達障がいを疑う手がかり
  「様子をみましょう」と言われたら
  3歳児検診で自閉症を疑われた時の注意点
  5歳児検診が広がっている
  療育について知っている医師は少ない
  自閉症療育はまだまだ知られていない
  発達検査で何がわかるの?
  子どもの発達指数(DQ)は変化する
  早期絶望しない、あきらめない


第4章 自閉症と診断された・・・どうしたらいいの?


  私は自閉症をこうして診断する
  最低限のコミュニケーション力を見につける
  TEACCHとの出会い
  バリアフリーからリハビリテーションへ
  個別療育で子どもの能力をさらにアップさせる
  ABAには集団療育を上回る効果がある
  血液検査やMRI、CTなどの検査は必要か?
  障害者手帳は取得する? しない?
  子どもの未来を信じよう
  障がいを受容するということ


第5章 いろいろある自閉症療育法


  いつまでに療育を始めなければいけないのか
  自閉症療育のさまざま
  日本で最も普及しているTEACCH
  個別療育法のABA
  取り組みが広がるABA
  60~70%の症例で改善が見られたABA
  ABAの抱える問題
  ABAとTEACCHの関係
  日常生活や遊びの中で学ぶVB
  絵カードを渡して要求を伝えるPECS
  その他の療育法
  私が勧める療育法
  自閉症に有効な薬はない
  補充代替療法
  キレート療法の危険性
  三角頭蓋
  サプリメントの有効性は
  GFCF(グルテン・カゼイン除去食)は有効か?


第6章 個別療育に取り組もう


  自閉症の障がいと社会性困難の関係
  「焦らない」「あきらめない」「頑張らない」
  療育をするのはセラピスト? それとも保護者?
  療育は教条主義ではない
  発達は階段状に伸びる
  わが子が「扱いにくい」と感じたら
  療育を楽しく続けるコツ


第7章 高機能自閉症をめぐって


  高機能自閉症って何だろう?
  子どもの将来を考える
  早期療育で誕生した?!「第2の高機能自閉症」


第8章 「できるようになった」を増やそう


  ○×ボードでわかりやすく
  子どもが落ち着くハンドリング
  まね(模倣)ができるようになったら
  感覚過敏によるトラブルを防ぐには
  単語が言えるようになったら
  読み書きあせらずコツコツ習得しよう
  カウントダウンで、さあスタート!
  めくりカード方式で順序よく行動
  あいさつは一生の財
  覚えたことを別の場面に応用する
  友達とのかかわり方を練習しよう


第9章 幼稚園(保育園)に通う際の注意点


  通所施設での療育の現状
  幼稚園・保育園で障がい児保育を受けるには
  普通に保育園・幼稚園に通う
  パニックを起こしたらタイムアウト
  充実した園生活を送るためにシャドーでサポート


第10章 お父さんにできること


  苦労も喜びも夫婦で分かち合う
  ひとりで勝手に絶望しない
  次の子どもを考えるとき
  つらくなったときに思い出してほしいこと


第11章 小学校に入る前に準備しておくこと


  小学校生活で必要な能力とは
  就学相談と就学時検診
  就学指導
  希望する学校に入学するために
  就学猶予
  がっこうが決まったら個別教育プログラム(IEP)を作成しよう


  あとがき
  参考図書


 コラム


  アメリカの小児科学会では
  温かい目で見守りましょう、長い目で見ましょう
  夢の治療
  怒ることと叱ること
  ポケットモンスター
  ほめ上手になろう
  施設との情報交換
  親の役割
  桜