自閉症支援の最前線 ~さまざまなアプローチ~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

梅永 雄二・井上 雅彦:編著  武蔵 博文・渡部 匡隆・坂井 聡・服巻 繁:著
エンパワメント研究所 定価:1500円+税 (2010年7月)


       私のお薦め度:★★★★☆


副題に「さまざまなアプローチ」とあるように、今日本で行われている自閉症児の療育に関するいろいろな療法を紹介した一冊です。


実は、自閉症の息子の療育にまだ試行錯誤していた頃、同じような趣旨の本を読んだことがあります。「実践のための指導技法 ~選択と活用のガイド~ 」(日本文化科学社)という本で、もう16年以上も前のことです。


本書の編者の井上雅彦先生も応用行動分析の立場からの対応方法を書かれていますし、一つの事例に対して、TEACCHから抱っこ法、受容療法や動作法、コロロやポーテープログラム、感覚統合にインリアル・アプローチなどなど・・・色んな療法が列挙されていて興味深かったのを憶えています。


それから十数年、もちろんそれぞれの立場での実践は今も続いていますが、自閉症の療育にとって最も有効的であろうという支援は、少しずつ明らかになってきたようにも思います。

それを紹介したのが本書「自閉症支援の最前線」です。


本書でも、著者の先生方のさまざまな実践が事例とともに紹介されていますが、同時にその共通部分、分母も見えてきたように感じられました。


一つは、自閉症という障害特性を理解した支援で、視覚的優位を活かしたスケジュールや手順の呈示であり、変化に弱い子どもたちのための空間や時間の構造化、ワークシステム化などです。その技法はTEACCHプログラムだけでなく、今では自明のこととして他の療育方法の中にも取り入れられているように思います。


もう一つは、成功体験を積み重ねて、スキルを獲得したり行動を望ましいもの変えていくという手法でしょう。

そのやり方はそれぞれ違っていて、本書の中でも坂井先生はAAC(VOCAなど音声の代替手段としての機器)を使ったコミュニケーションの獲得により本人の生活の質を高めようとされていますし、服巻先生はPECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)と好子を使ってのコミュニケーションの獲得を目指されています。

一方で武蔵先生は、授業の中でお互いに認め合い評価する中での達成感の大切さを、チャレンジ日記やチャレンジタイムの中で形づくっていかれています。この部分はABA(応用行動分析学)の根幹部分でしょう。


本書は編者のお二人は、梅永先生はTEACCHプログラム、井上先生は応用行動分析学がそれぞれ専門なのですがで、お互いの関係について、それぞれ分かりやすい形で述べられています。


ABAの行動変容の技術はTEACCHプログラムやポーテージプログラムなど多くの自閉症の支援・教育プログラムにも指導技術として取り入れられています。ABAは学問分野ですから、完成された「プログラム」としての「製品」ではなく、多くの知的障害や自閉症の教育プログラムの中に見えない形で浸透しています。
つまり、さまざまな療育プログラムをメーカーの自動車にたとえれば、ABAはその車のエンジンの作動原理のようなものであるということができます。 (井上)


支援ツール、サバイバルスキル、AAC、PECS、そのすべてにおいてABAの考え方が根底にあり、それを柔軟に使いこなしているプログラムの一つがTEACCHなのです。
私は米国留学中にTEACCH部の部長をされていたゲーリー・メジボフ先生と夕食をともにする機会がありました。その際に「TEACCHはABAのいいとこ取りをしているという批判があるようですが」と尋ねたところ、大いに喜ばれて「ABAの悪いところを取っていると言われると嫌なものだけれど、いいとこ取りと言われるのはとても嬉しいですね」とおっしゃったことを記憶しています。 (梅永)


本書の最初にも書かれているように、まだ日本ではTEACCHに代表される環境設定と、ABAに代表されるスキルトレーニングを、対立する概念と捉える方もいらっしゃるようです。
「TEACCHという車のエンジンがABA」「ABAのいいとこ取りをしているのがTEACCH」、本書に書かれている諸先生方の実践を読みながら改めて感じました。


育てる会のセミナーでもお世話になっているおなじみの先生方をはじめ、今日本での自閉症児・者への最新アプローチが紹介されていますので、概略的にお知りになりたい方へはお薦めの一冊です。
それぞれのアプローチをもう少し詳しく知りたい方には、それぞれたくさんの著書をお書きですので、そちらも合わせてご覧ください。


                    (「育てる会会報 148号 」 2010.8)

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自閉症支援の最前線―さまざまなアプローチ/梅永 雄二 他

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自閉症の人の自立をめざして―ノースカロライナにおけるTEACCHプログラムに学ぶ/梅永 雄二
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青年期自閉症へのサポート―青年・成人期のTEACCH実践/梅永 雄二
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対人支援の行動分析学―看護・福祉・教育職をめざす人のABA入門/服巻 繁
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目次


  まえがき


第1章 自閉症支援の共通理解のために ・・・・ 井上 雅彦


 〈1〉何が問題なのか

    1. どんな手段でコミュニケーションを教えるか
    2. 環境設定とスキルトレーニングは相反しない
    3. 環境設定をうまく使う
    4. その支援の目指すもの
    5. 自閉症支援の今後

 〈2〉応用行動分析学をベースにしたアプローチ

    1. 自閉症教育における応用行動分析学
    2. プログラムは一人ひとり的
    3. 一人ひとりの子どもに合わせたプログラムにするために
      (1)ABAをベースにしたプログラムの特徴
      (2)事例研究の方法
    4. ABAをベースにした指導領域
      (1)コミュニケーション
      (2)身辺自立
      (3)学習
      (4)運動・余暇指導
      (5)社会性
      (6)地域生活スキル
      (7)セルフマネジメント
      (8)就労
      (9)行動問題
    5. 結語


第2章 自閉症者への最新アプローチ


 〈1〉自立を高める支援ツール ・・・・・・ 武蔵 博文

    1. 支援ツールによるチャレンジモデルとは
      (1)支援ツールは自閉症者の生活の要
      (2)具体的な支援の手立て:4種の支援ツールによる支援
      (3)支援環境を整える協働ツール:サポートブック
      (4)自立を促す手がかりツール:スケジュール/手順表
      (5)実行を助ける手がかりツール:自助具・コミュニケーション手段
      (6)認め合う関係をつくる交換記録ツール:チャレンジ日記
    2. チャレンジタイム:自ら行う活動
      (1)チャレンジする内容を選択する
      (2)自ら使いこなして、実行力が高まる
      (3)自分で記録を書き、報告する
      (4)発表する、発表に応答する、応答に応える
    3. これからの教科学習:学び合う授業
      (1)協同した活動を行う前に
      (2)相互注意、相互行動
      (3)相互評価、相互扶助
      (4)学び合う学習活動を通じて大きな達成感を


 〈2〉サバイバルスキルからのアプローチ
        ~社会的スキルを中心として~ ・・・ 渡部 匡隆

    1. サバイバルスキルからのアプローチ
      (1)サバイバルスキルとは
    2. 社会的スキルと支援の枠組み
      (1)社会的スキルとは
      (2)社会的スキルの支援法
    3. 社会的スキルの支援の展開
      (1)社会的スキルの獲得
      (2)通常学級での環境づくり
      (3)自閉症児の人間関係の支援
    4. おわりに


<ルポ> TEACCHプログラムとの連携によるノースカロライナの自閉症教育 ・・・ 梅永 雄二

    1. はじめに
    2. TEACCHとは
    3. TEACCHプログラムにおける自閉症のとらえ方
    4. アメリカの教育システム
    5. エレメンタリースクール(小学校)
    6. ミドルスクール(中学校)
    7. ハイスクール(高校)
    8. カレッジ、ユニバーシティ(短大、大学)
    9. まとめ


 <3> AACを活用したコミュニケーション指導 ・・・ 坂井 聡

    1. はじめに
    2. AACの考え方を取り入れる前に
    3. 方法
      (1)対象児
      (2)方法
    4. 指導の経過と結果
      (1)評価期
      (2)指導第1期
      (3)指導第2期
      (4)指導第3期
      (5)発展期
    5. 本事例から見えるもの
      (1)VOCAの使われ方の変化とやりとり
      (2)シンボル機能獲得のために
    6. このような結果が積み重なると
    7. おわりに


 <4> PECSによる自閉症児への支援 ・・・ 服巻 繁

    1. PECSの概要
    2. 実践事例
      (1)対象児:ひろし君(仮名)
      (2)好子アセスメントとPECS指導の準備
      (3)指導場面
      (4)PECSの指導
      (5)家庭での指導と般化
    3. まとめ


  あとがき