発達障害がある子のための「暗黙のルール」 ~場面別 マナーと決まりがわかる本~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

ブレンダ・スミス・マイルズ、メリッサ・L・トラウトマン、ロンダ・L・シェルヴァン:著
萩原 拓:監修 西川 美樹:訳 明石書店 定価:1400円+税 (2010年6月)


     私のお薦め度:★★★☆☆


高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもたち、知的には障害がなく普通学級に通っている発達障害の子どもたちが、いじめにあったり友だちとうまくやれなかったりすることがあります。周りの子どもたちから「自分勝手、わがまま」と思われたり、「空気が読めない」と敬遠されることがあるからです。

それがひどくなると、クラスで仲間はずれになったり、それが苦しくて不登校やひきこもりになるという話も聞きます。そうなると、もうそれは二次障害で、手厚い支援が必要となりますね。


本書は、そうなる前に、世の中の多数派、非自閉圏の社会でのルールをわかりやすく教えて、スムーズ・・・とは言えないまでも、そのルールを理解してもらって少しでも暮らしやすくなってほしいという視点から書かれた本です。


発達障害を持たない子どもたちなら、教えられなくても友だちといっしょに遊んだり、大人たちと付き合っていくうちに自然に身につけているルールです。でも社会性が弱く、コミュニケーションを苦手とする特性を持つ我が子たちには、はっきり言葉に書いたり絵に描いたりして教えていかないと、抜け落ちてしまう「暗黙のルール」です。
また、比喩や皮肉など、ことばの裏にある意味や、言葉以外の表情やしぐさ、声の調子や沈黙の間などが理解できなくて、こちらが伝えたい意味と全く逆の解釈をしているおそれさえあります。


著者の一人、ブレンダ・スミス・マイルズさんは著作も多いアスペルガー症候群の専門家ですが、同時に以前会報99号でも紹介した「こんなとき どうしたらいい? ~アスペルガー症候群・自閉症のお友だちへ~ 」を書いたヘンリー・モーガン・マイルズちゃん(当時9歳)のお母さんでもあります。

その意味、私たちにはクラスメートの立場から、“友だちとして”暗黙のルールを教えてくれたお嬢さんの方がもうなじみが深いかも知れませんね。


もちろん本書では、専門家の立場から、「暗黙のルール」のもつ意味や教え方などについてわかりやすく説明してくれています。


一口に暗黙のルールと言っても、それは年令や性別、いっしょにいる人(子ども同士か、大人が一緒か、など)や文化によって、それぞれ違いますし、だからこそ応用の効きにくい自閉症の子どもたちには、そのシチュエーションも含めて、丁寧に具体的に教えてあげることが大切なことだと思います。


また、その教え方についても、もう私たちにはおなじみになった「ソーシャルストーリーズTM」「コミック会話」などや、聞いたことがあるぐらいの「SOCCSS(ソックス)法」「SOLVE(ソルヴ)法」「パワーカード」や、あまりなじみのない「ソーシャルナラティブ」「社会的場面検証法」などまで、幅広く考え方ややり方を説明してくれていますので、我が子の状態に合わせて使ってみていけばいいと思います。


ただ、残念ながら、翻訳本の宿命と言いますか、本書の中でも触れているように、暗黙のルールには文化によって違いがあり、そのままでは日本では使いづらいケースもあります。


例えば本書の後半は副題にもあるような「場面別」の暗黙のルールのリストの列挙なのですが、その最初のテーマは、なんと「飛行機に乗るとき」です。

確かに広いアメリカでは、小旅行などでも飛行機に乗る機会も多く、閉め切られた空間であるだけに大切なルールなのでしょう。でも狭い日本、移動ならバスや地下鉄、JR・新幹線などが圧倒的に多く、またそこには当然別の暗黙のルールがありますね。
もちろん、そのままで使えるリストも多いです。


本書での最初のリスト


「飛行機の座席に座っているときは、片方のひじ掛けだけを使いましょう。あなたが通路側に座っているならば、通路側のひじ掛けを使うとよいでしょう。」


これなどは、考えてみると誰もが教えてくれなかったであろうルールで、新幹線などでも使えるものでしょう。


「となりに座っている人に向かって、「この席に座るには、あなたは太りすぎです」と言ってはいけません。」


笑ってしまいますが、確かに狭い機内の座席では、窮屈と感じたときには言いかねないセリフですね。


「飛行機の中では、ふつうソフトドリンクやスナックは無料です。」


日本では、ANAの国内線ではソフトドリンクは有料で、無料で飲めるのは水とお茶だけになったようです。

この箇所を読んだ方がANAに乗るとひと悶着ありそうです (^_^;)


また「誕生日のパーティー」のテーマについても、そこでのたくさんの暗黙のルールの説明がありますが、日本ではプレゼントを持ち寄って、友だちが集まっての仲良しパーティーに、アスペルガーの子どもが呼ばれることは少ないのではないでしょうか。第一、親同士の間でも、社交パーティーを自宅で開くこと自体がまれなような気がします。
やはり、テーマも含めて、日本の文化や風習に合わせた、日本の発達障害がある子のための「暗黙のルール」の本が欲しいですね。


巻末の「比喩表現と慣用句」も英語での表現なので、“Bite the bullet(弾丸を噛む)”と言われても、ちょっとなじみがありません。

「暗黙のルールを教えるのに役立つ参考書籍」のコーナーも、たくさんの本を紹介していただいていますが、「こんなとき どうしたらいい?」を除いて、未邦訳なものばかりなので、英語に弱い私にはちょっと手が出せません。


いちばんありがたいのは、監修者の萩原拓先生など、専門家の方が「日本版 暗黙のルール」を作ってくださることですが、それが無理なら、親たち同士で子供たちに生活を改めて見つめなおして、テーマ別に暗黙のルールをリストアップしていくことも役に立ちそうですね。


なにしろ、育てる会のモットーは「ないものは作っていこう!」です。
そんなことを感じた1冊でした。


                        (「育てる会会報 147号 」 2010.7)


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目次


  まえがき


  はじめに


「暗黙のルール」って何?


暗黙のルールの影響


暗黙のルールを教える


暗黙のルールのリストについて


暗黙のルールのリスト

  飛行機に乗るとき
  トイレでのルール
  服装
  食事
  友だち関係
  ライフスキル
  学校
  社会的場面
  プールでのルール
  生きていくためのルール
  比喩表現と慣用句


 参考文献


 監訳者あとがき