小道 モコ:絵・文 クリエイツかもがわ 定価:1800円+税 (2009年10月)
私のお薦め度:★★★★☆
「最近、書店では、「自閉症」や「アスペルガー症候群」への入門書として、読みやすいようにイラスト入りできれいな本がたくさん並ぶようになってきていますね。
一見、本書もそれに似たような印象をもたれる方もいるかもしれません。
パラパラとめくると、カラー刷りのかわいい絵が目にとびこんできます。
でも、そのイラストこそが、これまでの入門書にはなかったものです。従来の本では、イラストは専門家の書かれた内容を、わかりやすく視覚的に伝えるものでした。
本書では、すでにテンプル・グランディンさんなどが紹介されているように、「絵で考える」(visual thinker)といわれる自閉症スペクトラムの小道さんご本人が、「あたし研究」としてその特性や困っていることなどを、エピソードを交えてイラストに描いて紹介されています。
本書の構成は、その小道さんの絵の隣に精神科医の畠中雄平先生が、自閉症の特性の視点からの解説を行い、後半では、それぞれの絵ごとに、小道さんがその背景となった具体的な様子を説明されています。
もともとは、小道さんの知りの合い始められた、発達障害を考える会「くれよん」でされたお話を元にされているそうです。
最初からイラストを描いて、お話ししていたわけではありません。
最初の頃は、文章を書いて、お話をしていました。でも、何か伝えきれていない感じがありました。(みんなからの反応があまりに薄いので)
そしてある日、なんとなくラクガキ程度に描いた絵を「こんな感じなんだケド・・・」とお話ししたら、「へえーー! なんでだかわからないけど、スゴイわかるような気がする」と言ってもらえたのです。(視覚のほうが捉えやすいのは、自分だけだと思っていたので、この反応は意外でしたねえ)
おかげで、私たちも「わかるような気がする」と共感させてもらえるわけです。
そんな小道さんのお話の中で、印象に残った一節がありました。
「チガイ」というのは、比べて初めて気づくことだと思うんです。
ASD(自閉症スペクトラム)についての学習を深めるために、定型発達の方々がASDの疑似体験をされることもあるようです。例えば、透明な筒を両目に当ててモノを見てみたり、軍手をはめて折り紙を折ってみたり・・・いろいろあるようです。
でも、逆はないんですね・・・。私は定型発達の疑似体験をしてみたいけど、どうしたらいいのかわからないし、定型発達の人たちがどんなふうに考え、思考しているのか、知りたいけど、説明してもらうのは、難しいようです。だから、私の見えている世界について表現するのも、とても難しいんです (「チガイ」がよくわからないから)。
その言葉で説明するのが難しい「チガイ」を、できる限り私たちにも感覚的にわかるように見せてくれたのが、本書のイラストの数々だと思います。
「見えないモノはないもの!?」 の絵では、リュックを背負っている時は「私の後ろは実はもっと後ろまであるよー」と常に意識していないと、あちこちにぶつけて失敗してしまう、とか、後ろからいきなり声をかけられるとないハズのモノが突然あらわれてきたようなビックリだそうです。
壁を背にして座っていたら、壁から突然腕がニョキッとでてきたような驚きに似ています。
話しかける時にやってもらえるととても有効なのは、視界に入りそうなところで手をヒラヒラしてもらうことです。
視界にヒラヒラした手が入ってきたら、私はびっくりすることもなく、そちらに注意を向けることができます。
私たちが、想像している以上に、ASDの人たちは苦労して日々の暮らしを生きていることがわかるエピソードですね。
小道さんが書かれているように、 「定型発達者とASD当事者の間には、どうやらとても大きな溝があるようです。双方の理解は、その溝を埋めることはできないと思います。でも、その大きな溝に橋を架けることは可能だと思っています。」
間違いなく、本書はその架け橋となる一冊だと思います。
小道さんの描かれたイラストやお話しは、私たちにもよく理解できる形でASDの人たちの「チガイ」の感覚を教えていただけます。
ASDの当事者の方と関わる方々、保護者や支援者の方にはぜひ一読してほしいと思える一冊でした。
( 「育てる会会報 142号 」 より 2010.2)
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目次
はじめに
感覚編
1 あくまでも私のイメージ
言葉編
2 慣用句に弱いわけ
3 ちょっと 待ってて
視覚編
4 方向感覚
5 見えないもモノはないもの!?
6 ならべる
7 あこがれの優先席
身体編
8 体の把握
9 服との格闘
10 マニュアル操作
学校編
11 学校はJungleのようでした
12 いじめって何?
13 私を救ったにゃんころりん
これからのあたし編
14 自分という器
15 特訓の成果
おわりに
「くれよん」紹介