ゲーリー・メジボフ、ビクトリア・シェア、エリック・ショプラー:編著
服巻 智子、服巻 繁:訳 エンパワメント研究所 定価:2400円+税 (2007年3月)
私のお薦め度:★★★★☆
この本、原題では「自閉症スペクトラムへのTEACCHアプローチ(THE TEACCH APROACH TO AUTISM SPECTRUM DISORDERS)」です。
それが日本語版では「自閉症スペクトラム障害の人へのトータルアプローチ TEACCHとは何か」という少々長い題名になっています。
この題名をみて、育てる会の皆さんにとっては、“ なんでいまさら「TEACCHとは何か」なんでしょう?とっくに知っていますヨ”と、思われた方も多いのではないでしょうか。
その通りですね。今、自閉症の子どもを持ち育てている保護者の方や、療育にあたられている関係者の中でTEACCHという言葉を聞いたことのない人というのは、告知されたばかりの方や、初めて担任されたような方を除いて皆無というぐらい、日本でもその療育プログラムは知られるようになってきています。
でも、もし、「では、TEACCHとはいったい何なんでしょう?」と、改めて聞かれた場合、自信を持って答えられる方が、そのTEACCHに基づいた療育をしていると思っている方の中でも、言葉につまってしまう方もおられるのではないでしょうか。
確かにTEACCHの技法的な面としては、環境の構造化やスケジュールや課題の視覚化、ワークシステムの明確化や親との協働の取り組みなど、次々話せることは多いと思います。
しかし、それを断片的なものでなく、一つの体系として、理念として捉えることはこれまであまり意識されていなかったのかもしれませんね。
本書は、そういった面から、改めてTEACCHの全体像を正しく伝えるために書かれた本だといえるでしょう。
まず、第1章では、創始者である故エリック・ショプラー先生が、その歴史から紐解かれています。当時の「親の冷たいしうちのせいで、子どもは自閉症になる」という、ベッテルハイム氏の見解に疑義を感じて、実証的検証により親の接し方のせいで自閉症となることはないし、むしろ共同セラピストとして欠くことのない存在であることを立証して、新しい考え方を提起されていかれます。同時に、構造化された環境でこそ、子どもの環境適応力は伸ばせるという、TEACCHの核の部分が、自閉症児を構造化された指導場面と構造化されていない指導場面に交互に参加させることにより実証されたことが記されています。
また、第3章では、いまでは広く知られるようになった「自閉症の文化」について述べられています。
TEACCHの長期的目標は、ASD(自閉症スペクトラム障害)の人が社会の一員として私たちの文化の中でできるだけ快適かつ効果的に過ごせるようにすることである。自閉症が生み出す違いを尊重し、私たちの文化の中で生活していくうえで必要なスキルをその人の文化の中で指導することにより、この目標を達成しようとしているのである。
自閉症児に対する教育サービスは、2つの補完し合う目標を通して、社会の中で彼らがより快適かつ違和感なく過ごせることを助けるものであるべきだ。
つまり、① 彼らの知識やスキルを伸ばしつつ、② 環境をより理解しやすいものにするということである。
本当にそうだと思います。ただ日本では、この自閉症の文化について誤って解釈され、“ 彼らの文化は無条件に尊重されるべきであって、「彼らはそのまんまでいいんだ」 ” と主張される方たちもいて、それが一部の先生方にとってTEACCHに対する反発を招いているように思え危惧しています。
自閉症の文化の良さを強調したいあまり、彼らの選択を全て是として、前述の①の部の大切さに気がつかないケースですね。
本書では、その後の章でも、彼らがこちら側、非自閉性文化圏の社会で暮しいていくために必要なスキルを見につけるために、TEACCHが開発した指導法について述べられています。
「TEACCHとは何か」 本書をTEACCHに対して批判的な意見を持っている方だけでなく、誤って解釈されている方にも読んでいただきたいと思います。
そして何より、これからTEACCHの理念に基づいて子育てを行なおうと思われているみなさんに本書をお薦めしたいと思います。
(「育てる会会報 131号
」 2009.3)
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目次
日本語版刊行によせて
序文
第1章 TEACCHの起源と歴史
1 TEACCH開発のための中心的研究
2 教育現場についての研究
3 親についての研究
4 初期の研究のまとめ
5 初期のTEACCH
6 TEACCHの第二期
7 TEACCHの第三期
8 TEACCHの現状
第2章 TEACCHの真価
1 背景
2 真価
3 まとめ
第3章 自閉症の文化
1 自閉症の文化の特性
2 自閉症の文化のあらわれ方
3 TEACCHの教育原理
4 まとめ
第4章 構造化された指導法
1 TEACCHの構造化された指導法の出発点
2 構造化された指導法に関連する文献
3 構造化された指導法の目標
4 従来の教育法の限界
5 構造化された指導法の要素
6 まとめ
第5章 構造化された指導法の理論的裏づけ
第6章 コミュニケーション
1 コミュニケーションスキルの重要性
2 定義
3 自閉症におけるコミュニケーションと言語パターンに関する研究文献
4 自閉症におけるコミュニケーションおよび言語介入に関する研究文献
5 コミュニケーションと言語スキルに対するTEACCHの原則
6 話し言葉をもたない、または話し言葉の少ない自閉症児・者の
コミュニケーション指導に対するTEACCHアプローチ
7 話し言葉のある自閉症スペクトラム障害の人の言語スキルにたいするTEACCHアプローチ
8 まとめ
第7章 ソーシャルスキル
1 対人関係行動の定型発達
2 自閉症スペクトラム障害が対人関係に与える影響
3 改善方法
4 TEACCHのアプローチ
5 まとめ
第8章 親
1 歴史的背景
2 視点の変化
3 親訓練プログラム
4 家族に対するTEACCHの取り組み
5 まとめ
第9章 親に対する診断情報の告知のあり方
1 研究文献
2 親に診断情報を伝えるためのTEACCHのアプローチ
3 まとめ
第10章 就学前の問題
1 就学前のサービスに関する法的基盤
2 サービス提供のモデル
3 論争と総意
4 要約
5 就学前の教育に対するTEACCHのアプローチ
6 構造化された指導法の幼児教室
7 まとめ
第11章 成人サービス
1 背景
2 支援プログラムの効果
3 TEACCHセンターによるASDの成人のためのサービス
4 CLLC(カロライナ生活学習センター)
5 TEACCHの援助つき就労プログラム
6 まとめ
第12章 専門家の養成と研修
1 TEACCHの研修プログラム
2 TEACCHの夏季研修プログラム
3 まとめ
参考文献
訳者あとがき