発達障害と大学進学 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

アン・パーマー:著 服巻 智子:訳・解説 クリエイツかもがわ
定価:2200円+税 (2007年3月)

 

    私のお薦め度:★★★★☆

 

平成27年度 第5回セミナーとして企画していた、平成28年2月6日(土)の服巻 智子先生の講演のタイトルが決定しました。
「 自閉症・発達障害児の進路選択 」 ~進学、就学、就労に向けて 今準備できること~です。

その中でも、小学校就学や中学・高校の学校選びには保護者の希望や教育への思い、考え方が大きなウェイトを占めると思いますが、高校卒業後の大学や専門学校あるいは就労の岐路にあっては、本人の自己選択の比重が大きくなってきます。
もちろん、まだ未成年ですから、最終的には保護者の方と相談して決めることになると思いますが、その際に参考の一つとして読んでいただきたいのが本書です。
実は、かなり以前の書(2007年3月発刊)で、すでに一度会報でも紹介しているのですが、当時はまだ育てる会に入っていらっしゃらなかった会員の方もおられると思いますので、
服巻先生のセミナーを控え、改めてお薦め本として紹介したいと思います。
 
まずは、当時の会報に載せたお薦め文です。 (追記:2015.12月)

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今年の夏、早稲田大学で行なわれた自閉症カンファレンスに来日され、ペアレントメンターについて講演されたアン・パーマーさんの書かれた本です。

ノースカロライナ大学で行なわれているペアレントメンタープログラムの有効性は既に実証され、日本でも自閉症協会をはじめ、各地で取り組みが始まろうとしているところです。
アンさんはそのプログラムを作るための中心的スタッフとして活動されてきたのですが、同時にペアレントとしては二人のお子さんのお母さんでもあります。本書はそのうちのお一人、息子のエリック氏の誕生から大学生になるまでの成長の記録と、後に続く若者とそのご家族へのアドバイスです。


日本でも、高機能な自閉症やアスペルガー症候群の方たちの中には、大学を卒業された方もいらっしゃいますし、自伝の中でその頃の経験を目にすることもあります。ただ本書のように、親や支援者の立場から書かれた本は初めてではないでしょうか。その意味で高機能なお子さんを持ち、大学進学も選択肢に入れている親の方にとっては絶好の本だと言えるかもしれません。


ただし、その具体的な利用できる制度や支援については、あくまでアメリカの話であって、日本の大学に進学しようとするお子さんにとっては、「絵に描いた餅」で羨ましいばかりか、日本の制度の遅れを嘆くことになりかねませんから・・・・そのあたりは適当に読み跳ばした方がいいかと思います。


彼(エリック)の場合、時折講義のどこが重要点でノートをとるべきかわかりにくいこともあります。

彼は大学においては必要に応じて筆記者またはノートテーカー(同じ授業を受ける学生の仲でノートをとるボランティアをしてくれる人)を利用する便宜を受けました。大半の授業では、指導教官が一回目の授業の際に、ノートテーカーが必要なことを伝え、ボランティアを募集しました。ボランティア筆記の学生はDSS(障害学生サービス)のウェブサイトから、そのノートの整理統合の仕方、どのような情報を含めておくか、そして自分がその学生のノートテーカーとして重要な責任を担っているということの指導を受けることになっています。このサービスをボランティアとして提供する学生は、書いた文字が複写できる特別なノートを受け取ります。


他にも試験時間を延長したり、気が散らない環境で試験が受けられるように他の場所や別の時間を設定したり、あるいは外国語の履修が困難な自閉症スペクトラムの学生にはその科目が免除されたり・・・と、本当に日本の同じ状態におかれている学生の目からみると、とても恵まれていると思いますね。


それでも、今回この本をお薦め本にとりあげたのは、親としての心構え、支援者としての姿勢に学ぶことが、それ以上に多かったからです。
たとえ高機能といえ、親もとを離れて大学に通うとなると、自閉症者にとっては支援が必要なことはたくさんでてきます。安全、健康、身辺自立、時間管理、自己権利擁護・・・普通の学生であれば自然に身につけてきたようなスキルでも、それが抜け落ちていることも多いと思います。
そんな意味では知的障害を伴う自閉症者であっても、自立してグループホームを視野にいれた時、同じ問題に直面するように思います。あてはまらないのは学業面での課題ぐらいでしょうか。事前に準備段階から、親子でよく話し合って対策や各ケースに対応する方法を決めておいてあげる・・・などは、とても全ての親にとって参考になる話です。


同時に、支援するばかりでなく、子どもが成長するに連れいかにその支援から親が引いていくか・・・という過程も参考にしたい所です。
子どもたちは能力が高い低いに関わらず、やがては親から離れていきます。彼らなりの自己選択、自己決定で、自分だけの人生を歩き始めていくはずです。ですから親の方もそれに向けた覚悟をすることが必要となってきます。


彼が大学に入って最初の数日、私は彼が何をしているか、大丈夫なのかどうか確かめられないことに苦しみました。常に夫に対して「エリックはどうしているかしら」とくり返し尋ねていたので、夫は頭が変になりそうだったに違いないと思います。
まだへその緒がつながっているような気がして、彼の様子を見るために大学まで運転していかないよう必死に自制しなければなりませんでした。


ペアレントメンタープログラムを開発したアン・パーマーさんですら、こうなのです。
私たち凡人の親にとっては、もっと寂しがったり離れ難い思いに包まれ、ジタバタ抵抗したくなることが容易に想像できます。でも子どもたちが一人で自らの人生の主人公として生きていくためには、その覚悟をして、いつかは送り出さねばいけませんね。


母親にとって、子どもの生活から一歩距離を置くことほど困難なことはありません。息子や娘に障害があれば、子離れはさらにむずかしいものとなります。私たちの子どもに間違う自由を与えることは恐怖以外のなにものでもありません。この四年間でエリックの自立度は高まり、私の支援を必要とすることも日に日に少なくなってきました。大学は私にエリックから徐々に子離れすることへの段階的調整を可能にしてくれました。
いつか彼が自分の家をもち、自分の家に移って自立するときが来ても、この大学での経験のゆえに私自身の気持ちの整理はもっと楽にできるに違いないと思っています。


その時のためにメンターしてくれるのが本書のもう一つの役割かもしれません。いずれ訪れるその日のためにも・・・本書をお薦めします。

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さて、あれから8年が過ぎ、日本の大学の状況も少しずつ変わってきました。
当時は「絵に描いた餅」と思われていた、大学での発達障害を持つ学生への配慮も取り入れていただけ
る学校も増えてきたようです。
発達障害への理解も徐々に進み、また配慮を必要とする学生の割合も当時の想像以上に多いことが分かり、何よりも凸凹の凸の部分(門先生の言われるメリハリのハリの部分)をうまく活かせば、大きな力を発揮できることが分かってきたからでしょう。

また、本文の中にあるペアレントメンター事業も日本でも始まっています。
このように一歩ずつでも進んできた部分もありますが、残念ながらまだ当時とはあまり変わっていないところもあります。
本書の解説で服巻先生が触れられています。
 
しかし、一方では、幼児虐待、不登校、キレやすい子どもたち、ひきこもり、反社会的行動、ニート、ごみ屋敷など冗談では済まされないご近所迷惑さんたち、また、成人期の二次的な障害としての精神科疾患を患うなど、学校は無事に卒業できたけれども、なんら適切な教育もケアもされないまま成人期に突入し、その結果あるいはそのプロセスのどの時点かで、こういった社会現象のグループに入っていき、蟻地獄のようになかなか抜け出せないでいる層の人たちの中に発達障害の人たちがたくさんいるということが、疫学調査はまだだが臨床的な報告として次第に明らかになってきた。
 
その“ 明らかになってきた”問題を解決するためには、早期発見、早期療育がもっとも有効だと思うのですが、服巻先生は1歳半健診では容易に見つけられるのに、3歳児健診では隠れてしまう発達障害の特性があるともおっしゃいます。
その網の目からもれてしまった子どもたちにとっては、将来8年前にすでに指摘されている同じ悩みが現れてしまうことになります。
 
「学校は無事に卒業できたけれども・・・」とならないように、それまでの過程で「適切な教育やケア」を提供していくためには、3歳児健診で見つけられなかった特性を、社会性に着目して診断するための5歳児健診の導入など新たな取り組みが必要になるかもしれません。
さて、次の8年後、本書の課題に追いつくために、まだまだやらなければならないことは多そうです。
(追記:2015.12月)


         (「育てる会会報 115号 」 2007.11)

         育てる会会報 212号2015.12 追記)

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目次

 

 

日本の読者のみなさんへ

 


謝辞

 

まえがき - 学校生活での親の役割と親への支援
はじめに

 


第1章 出発点 - 診断後の生活と小中学校での特別支援


小学校時代
中学校


第2章 高校時代の特別支援


第3章 移行支援の選択肢としての大学進学


第4章 夏の個人授業 - 個別の移行支援計画


安全
健康の問題
学業面の問題
身辺自立スキル
時間管理
キャンパスライフ便利帳
オリエンテーション


第5章 新生活をうまく軌道にのせ


第6章 大学における支援と具体的手立て


第7章 自己認知と障害表明


第8章 大学生活で得たもの


第9章 大学卒業後に向けて
  解説 服巻 智子


付録A Useful Books and Websites / Support,information and resources
付録B References
付録C サンプル : 障害表明書