11月21日(土)東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」が開催された。この日のシンポジウムは2つのテーマから構成され、「コロナ危機を転機に」というテーマの後に「大学教育と環境」というテーマで議論が行われた。
司会を務めたのは本学経済学部の尾崎寛直教授、そしてパネリストは大学教授代表として本学の岡本英男学長と、環境政策の実務家代表として環境事務次官を務め、現在は本学の客員教授でもある森本英香氏だ。
はじめに尾崎教授から議論のテーマの一つである「大学教育と環境」について、昨今のコロナパンデミックがもたらしたものという観点からの話があった。
尾崎教授は1つ目に人々の価値観が変化したという点、2つ目に様々な現代社会の脆弱性をあらわにしたという点を挙げた。
現代社会は様々な問題を抱えている。
例えば、大都市への人口の集中だ。
東京都への人口の一極集中が新型コロナウイルスの感染拡大を招く一つの要因となったとされる。
また「環境」の面では、新型コロナウイルスは動物由来のウイルスとされており、私達人間が破壊し続けてきた生態系の動的バランスが影響しているのではないかと指摘されている。
さらに「社会」「経済」の面からは、今回のコロナパンデミックが日本に蔓延る見えない経済的格差をあらわにしたということもできるだろう。
つまり私たちは「環境」と「社会」と「経済」という3つの側面から、これからを考えていかなければならない。
SDGsは、「環境」の保護を前提としたうえで、「社会」「経済」という、これからの私たちに必要な3つの視点を取り入れたものであると尾崎教授は語った。
森本氏は、新しい成長領域を発見していくことが企業にとっては長期的存続につながり、SDGsはそのための道具であると述べた。
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つに配慮した企業に投資する、ESG投資が増えていることなどはSDGsが単なる理念ではなく、実利として社会に広まりつつあることを示している。
そんなSDGsが社会に広まりつつある現在、大学に求めることは2つあるという。
1つ目は、社会問題に対応できる学生を教育することだ。
経世済民という言葉があるように本来、経済とはニーズに対応して動かされるものである。
そしてそのニーズは今日、戦後の物的欲求から心理的欲求に変化してきている。
自分だけが幸せならそれでよいという時代は終わり、社会問題の解決が求められる時代になってきているということである。
2つ目は、地域活性化に貢献できる学生を教育することだ。
SDGsは世界全体の目標というだけではなく、地域でも取り組むことのできる目標である。
地域を学生の力で支えて欲しいと森本氏は言う。
岡本学長からは本学のSDGs宣言をどのような心構えで受け止め、社会貢献のできる学生をどのように教育していくかについて話があった。
SDGsがその前身であるMDGsと大きく異なる点は対象が発展途上国だけではなく、先進国も含まれている点だ。
SDGsがより私たちの生活に身近な問題解決のための目標群であるということを説明したうえで、本学の設立理念とSDGsには似た点があり、SDGsは本学にとって腹を据えて取り組むべき目標群であるという。
SDGsには「誰一人置き去りにすることなくすべての人間が尊厳と平等のもとにその人の持つ潜在能力を発揮することのできる社会」を目指すための目標が多く含まれている。
そしてこれらのSDGsの目標と岡本学長が入学式や卒業式で学生に語る「大学の役割は世の中のか細い声にも耳を傾けることだ」という言葉には共通の考えを見出すことが出来るだろう。
さらに大学は企業のように利益だけを重視することをせず、行政のように変革を嫌うということもしない。
大学にはSDGsが目指す世界を作り出す、世の中を変革させる役割があると岡本学長は語った。
YouTubeで生配信されたこのシンポジウムには300名を超える事前申込者がおり、多くの人の関心を集めるものになっていたようだ。
岡本学長は大学にとって重要なのは「うたげと孤心」であるとも語っていた。
「うたげ」は集いを意味し、「孤心」はテスト勉強をしたり、図書館で本を読んだり、一人になり考えることを意味する。
私達学生はあと数年で必ず社会人となり、大学を巣立つことになる。
その時、私達は社会の求める若者になることができるだろうか。
大学はより良い教育を提供しようとする。
私達は大学教育の機会を余すことなく利用し、社会の求める若者を目指さなければいけないのだ。
※SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年に国連で採択された具体的行動方針である。世界共通で持続可能な社会を目指していくための17の目標のことを意味する。