夏を前に、
老舗の町中華が、
ひっそりとその歴史を閉じた。
扉に張ってあった
張り紙が切ない。
閉店のあいさつというより
これはもう、
飲食店の遺書。
ごあいさつ
この程、コロナ渦中と加齢もあり
六月をもって閉店することに致しました。
私の知る処では、
昔風の味は、神田にはもう無いかも知れません。
「昔、父ちゃんと一緒に食べた味だ」と
話されたお客様が印象に残ってます。
この道五十年
余り美味しいとは言えませんでしたが、
日頃よりご愛顧頂きましたお客様に
誠に心から御礼を申し上げます。
令和三年六月吉日
中華料理ひかり店主
紺野 浩晃
もう既に無かったが、
「欲しい方、自由にどうぞ」と、
長年使いこまれた中華鍋が
店前に置かれていたらしい。
このまま
コロナを恐れているだけでいいのだろうか。
張り紙を見て
そんなことを思った。