私が語りはじめた彼は (新潮文庫)/三浦 しをん

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これ、今まで読んだしをんさんの作品の中で、一番完成度高いと思う。

面白かった!!

2007年の作品なんですけど、この路線の作品、しをんさんは余り書いてこなかったということか。
「まほろ~」が直木賞で、「舟を編む」が本屋大賞ですけど、こういう賞って、「作品」に与えられるより「作家」に与えられるようなもんなんでしょうかね。前の2作より、ダントツ、この作品が面白かった。

お話はですねえ。
「村川教授」という女性にモテモテの大学教授をめぐる、「妻」「弟子」「愛人」「実子」「義理の子供」「愛人の夫」・・・が、それぞれ一人称で、村川をめぐる自分の物語を語っていきます。いまやありがちな構成なんですけど、「義理の子供」や「愛人の夫」という、ワンクッション置いた人間関係が入り込んでくると、俄然面白くなる。その辺りの目のつけどころが、しをんさん分かってるな~という感じ。

全ての短編が独立して読める構成になっていて、ほんとしをんさん、小説が旨い。直木賞作家の面目躍如です。

で、ワタクシ特に面白かったのは、「水葬」という、村川教授の再婚相手の娘を監視する調査会社の男の視点で描かれた一遍です。この設定だけでもう面白いですわ。結局、娘を監視させてはのは実の母親だったのですがね。で、調査会社の男は、娘の近くに住み、同じ大学のサークルに入り、娘の親友の彼氏になる。で、この娘を観察する。その記録です。

この娘さんは、「水葬」というタイトルそのまま、最終的に海で自殺します。ただし自殺したことが分かるのは、次の「冷血」という短編の中で、です。その構成も凄い面白い。

この自殺オチも、言葉で書くと安易で陳腐ですが、小説を一遍一遍追っていくと、実によく分かる。これ以外のオチが無いように感じる。そこも凄いな~・・・と。

全てのお話が終る最終話、村川教授は亡くなり、年取った彼の弟子が再登場します。
そこで語られること。
全てのお話に共通するテーマが、もう一度語られます。
「幸せ」を希求する人間。
「言葉」を「語ること」で、人間が生きながらえて行く様子。
「彼」を語りたいのではなく、彼について「語りたい」。
その誰かが、何かが、語り手にとって、愛の対象なんだろうよ、と。
愛の対象に焦点をあてているように見えて、実際はその行為に焦点を当てている小説。

分かりにくい感想になってしまいましたが、ワタクシ的には、とても刺さるテーマでした。
小説のテーマ自体が、物語ることという。小説を読む楽しみ、お話を作る楽しみ、言葉を操る楽しみ、それは全て、「行為」の楽しみなんだという・・・

しをんさん凄いなあ。
かなりカッコいい小説だなと感じました。