私の人生には
面白いキャラクターが
数多く登場する
たとえばそれは
中学時代の社会科教師
教師というのは
面白い人が多かったけれど
その中でも
ひときわ覚えているのは
その女装が好きな社会科教師だ
彼は地元出身で
実家から通っていたのだが
30年前の片田舎で目立つのも構わずに
女装を趣味として
あちこち歩き回っていたらしい
その場所で
生まれ育ったはずなのに
周囲の噂など気にもせずに
自分の趣味に
のめり込んでいたと思われ
当然その噂は全校生徒も
知っている公然の秘密
流石に職場である
中学校へは普通にスーツ姿で
出勤して何食わぬ顔で
労働に勤しむものだから
同僚の大人達は
何も言わなかったのか
注意はしても矯正出来なかったのかは
分からないけれど
それでも元々小柄で
顔の作りもどこか中性的で
メイクをすると
そこそこ似合いそうな顔立ち
しかしそんな面白いネタを
中学生が放って置く筈もなく
ある時クラスに
漫画の主人公のような
明るく運動神経の良い転校生が
やって来てからというもの
騒ぎが起こり始めた
転校生は
まるで戦隊モノのレッドタイプ
お調子者で誰とでも
すぐに打ち解ける人当たりの良い性格で
瞬く間にクラスの人気者になり
その教師の噂を聞くと
何の躊躇いも無く授業中に
先生は女装が趣味なんですか?と
聞いて周りを笑わせていた
教師の方は
その趣味が周りには
知られていないと思っているのか
誰がそんな事を言ったんだと
一喝してその場は終わった
しかし明るいお調子者とは
いつも授業の腰を折るもので
何の授業かは忘れたが
技術科みたいな男女別々の授業があり
男ばかりのその授業中に
そのお調子者転校生が
女装教師にしつこく絡み
そしてズボンを脱がせ始めた
たしかジャージを履いていたのを
後ろからバッと引き下ろしたのを見て
みんなゲラゲラ笑ったものだから
その授業のたびに
必ずズボンを脱がせるようになり
さすがに飽きて来た頃
またいつものように脱がされて
その教師もいつものような
何をやってるんだお前は!などと
意外と怒り方は漢なんだけれど
その頃にはもういい加減
ベルトでも締めて来れば良いものをと
みんな思っていて
あれは下げられたがっておるのでは?と
生徒が疑い始めていた時で
もうそれほど笑いにもならなくなったのを
気にしたのか
何をやっているんだ!と
スボンを下げたまま怒り出し
白いブリーフを全開に
見せびらかせながらお説教を始めて
その時が一番面白かった
その授業中の出来事で
転校生が担任教師から
呼び出されてはいなかったから
女装教師は誰にもその件を
話さなかったらしい
ただレッドは
ある意味トラブルメーカーだから
他にも阿呆な事をして
よく他の教師達からは怒られていた
そしてそれから
半年後くらいにもう一人
転校生がやって来てからというもの
水を得た魚のように
ありとあらゆるトラブルを起こして
一年もするとクラスから総スカン
それまでの主人公キャラから
苛められっ子に陥り
しかも後から来た転校生も
また転校してしまって孤立無援
何とか人心を取り戻そうと
躍起になってよく肉まんを奢ってくれた
その後の二年間は
ずっとハブられ続け
高校へ進学すると
またその主人公キャラを発揮して
人気者に返り咲き
それまでシカトしていた
同じ中学出身者とも仲直りして
サッカー部のエースになり
いつの間にか
いじめていた側とも仲直り
さすが主人公キャラだと
感心しながらも
クラスも離れて疎遠になり
あまり関わることも無くなった
ある日
朝のニュースに
その主人公レッドが出ていると
母親に叩き起こされた
何だサッカー部が
大きな大会にでも出るのかと
ニュースを観ると
無免許で車を運転して事故を起こし
そのまま死んだと言う
母親の驚きによる
ハイテンションとは裏腹に
どこか現実感が
湧かないまま登校すると
クラス中がその話題で持ち切りかと思えば
そうでも無く
それでも担任教師から
ホームルームでそういった事故によって
亡くなったと知らされた
正直
それほど仲が良かった訳でも無く
転校して来てから
その瞬間まで取り留めて
思い出も無いから
そういった感覚に戸惑ってしまった
葬儀の時に
棺の中に横たわる姿を見ても
特別な感情は湧き上がらなかった
だから隣でその姿を見た瞬間に
泣き出していた元クラスメイト達の
気持ちが解らずに
また戸惑ってしまった
その主人公レッドは
中学校を卒業するまで
ずっとハブられていたのに
それ以来の再会の筈の
別の高校へ進学した元クラスメイト達が
葬儀へ来ているのも不思議だったし
ましてや泣いているのは
一体どんな感情なのかと観察していた
棺の中で鼻に詰め物をされた
その顔が最後に見たレッドの姿だった
颯爽とクラスに現れて
瞬く間にみんなの心を鷲掴んで
女装教師をブリーフ姿で怒らせる
物語の主人公のような転校生
あの時は
何も感じない自分に
驚いたけれど
30年以上の時を経ても
未だに思い出すのだから
何かしら憧れに近い感情が
あったのかもしれない
そう考えると
やっぱりアイツは
ヒーローだったに違いない
ただあの頃だって
いじめられてるレッドを
助けようと思った事は
一度も無かったのだから
こちらは悪者だったのだろう