ビックマック事件は、今から40年前の5歳の誕生日に起きた。
その誕生日を迎える数か月前に、都市部から母親の再婚相手の住む田舎へ引っ越した。幼い私は、田舎の暮らしになかなか馴染めず、新しい父親にも懐かなかった。
父親からすれば、なんとか子供の機嫌を取ろうと思ったらしく、誕生日には「何でも好きな物を食べさせてやる」という約束をしてくれた。
田舎へ引っ越す前に暮らしていた街には、マクドナルドがあった。
当時の私は、いつもビックマックを食べてみたくて仕方なかったが、子供には食べれないからとハンバーガーしか食べたことがなく、大人になったらビックマックを食べるというのが幼い私の夢だった。
突然、そんな私の夢をかなえてくれる人が現れた
それまで全く関心のなかった父親が、ある日突然スーパーヒーローになった。
大人になってからしか食べられないと思っていたあのビックマックを、誕生日に食べる事が出来る。嬉しくてうれしくてたまらなかった。
「おじさん、ごめんなさい。」「これからは、お父さんと呼ばせてください」そんな気持ちで、誕生日までの数日を過ごし、なんてすばらしい人に出会えたのだろうと感謝もした。
そして、ビックマック事件は起きた。
当時の田舎には、マクドナルドは存在しなかった。両親にしてみれば、ハンバーガーなら何でも良いと思ったらしく、モスバーガーに連れて行かれた。
当然、ビックマックは出てこない。あの発砲スチロールの入れ物も出て来ない。
見たこともない何とかバーガーが出て来たから、私は、これはビックマックではありませんと言ったが、両親にはそれをビックマックだと思って食べろと言われ、私は激怒した。
その後、私は、ありとあらゆる罵詈雑言を両親へとぶつけた。幼い子供の悪口は、両親の堪忍袋の緒を切れさせ、母親には罵られ、父親には両足を持たれて振り回され気絶させられた。
後日、兄が「お前、口から泡吹いて気絶してたぞ」と教えてくれた。その姿が気持ち悪かったらしく、しばらく兄も私に近づく事はなかった。
その後、私は家族から身を守るべく、心に頑丈な壁を作った。
その壁は、40年経った今も健在で、いつも決死の覚悟で家族と団欒している。
