その日私は


家族連れで九州の観光地を訪れていた


地面から蒸気を噴きだす一帯で


硫黄臭い匂いに包まれながら


やや不穏な感じがする景色の


あちこちを見物して回った


そして土産物などを物色しているうちに


お腹が空いて


何か食べるものを探していると


高温の温泉のお湯で茹でたと言う


真っ黒な茹で玉子が目に入った



しかし私はその玉子では無く


食事も出来る土産物屋で


具無しの真っ白な塩むすびを


にぎってもらい、それを食べた




やがて子どもらが


お土産を選び終えるのを待って


次の目的地へ向かう事にした




大きな観光バスが


あとひと組のツアー客を待って


出発をしようとしていた



その脇をすり抜ける時


一瞬、バスガイドらしき女と目が合ったが


私達がそのひと組では無いとわかると


女は露骨に落胆して目を逸らした




私は近くに駐めていたレンタカーに乗り込み


次の目的地へと急いだ



次の目的地はこじんまりとした


民家のような作りの資料館だった



建物は小さいが駐車場がやけに広大で


大きなバス用のスペースも何台分もあった


私は建物の一番近くに


空きを見つけてそこに車を停めた


次の瞬間


目の前を通る車に別の車が激しくぶつかり


その反動で車は資料館に突っ込んで止まり


その車はちょうど建物と私達が乗っている車に


挟まれる様な形になった




そしてその車は何を思ったのか


猛烈にバックしてきて


私達の乗っている車にぶつけ


無理矢理に動けるだけの空間を作ると


お互いの車が破損するのも構わずに


走り去ろうとした


ちょうどそこに大きな観光バスがやってきて


車はバスに突っ込み


大破してようやく止まった


そして大破した車からヨロヨロと


ボサボサに髪を伸ばした


目の細い男が出てきて


地べたに座り込んだ




私は家族に車から降りて


離れた場所に待避するように言って


ひとりで恐る恐るその男に近づいた


その男は私を見ると




「 なんだお前たちだったのか 」



そう言って立ち上がった




細く長い手足の男だった


全く敵意を感じさせない目をしていた


男の顔の後ろで枯木の枝が風に揺れ


それはまるで角が生えてるようだった



私は呆然として


その面識の無い男を見続けた