そんなに信心深いわけでは無いが


このところ営業がうまくいかず


なんと無く現状を打開したいと


もがいていた私は


深夜にも関わらず


少し遠い神社まで足を伸ばす事にした


たぶんお酒の力も借りていたと思う


30分以上歩いてようやく目的の場所に


たどり着いた




遠くに民家の灯りがポツポツあるのみで


ほぼ真っ暗な神社は


大人の私でもちょっと身構えるくらい


不気味な感じだが


何処からか小さく


若者達のはしゃぐ声が聞こえているので


それでなんとか正気を保っていた




暗闇の中歩いて来たので


目が慣れて、月あかりで


建物の輪郭ははっきりと浮かび上がっている



私は、ポケットから用意して来た小銭を取り出し


賽銭箱に放り込んで


仕事がうまく行くように祈った



一瞬、御神籤も買おうかと迷ったが


以前、同じように仕事に行き詰まった時に


訪れてひいた御神籤に


(日頃、信心深く無いものが、困った時だけ


神頼みをする、、、全てお見通し、、、)


そのような内容で


まさにその通りだと思い


スゴスゴと退散した事を思い出し


今回はやめておいた




今でこそ田舎にある寂れた神社だが


私が子どもの頃、お祭りの日には


参道の両脇に


金魚すくい、型抜き ベビーカステラ


くじ引き いくつもの屋台が並び


この辺の人達で賑わっていた




私の家は少し遠い場所にあったので


お祭りの日は


いつもとは違う地区の子どもらと遊べる


貴重な機会だった



ある年は


同い歳くらいの女の子につかまって


かくれんぼをしたっけ




この神社には


立派な樹洞を持つ木がある事を


その時初めて知った


まだ小さかった私達は


ふたりでその中に入れるくらい、、、






私は懐かしくなって


帰りがけにその樹洞を覗いて見た


すると拍子抜けするくらい


こじんまりとしている


月日が経ってその内側も傷んでいた




暗がりで目を凝らすと


樹洞の中で何か白いものが


うっすらと光っている


私はしゃがんでそれを拾い上げてみた



白い椿の花の蕾だった



私は月あかりの下


しばらくそこに立ち尽くした


あの日あの子が着けていた


髪飾りを思い出しながら