小学校の2、3年生の頃だったと思う。蒸し暑かったのを覚えているから8月くらい。その年最大の台風がやってきた。台風が来るときまって、ワクワクと妙に興奮などしながら、夜遅くまで台風情報に見入ってしまったものだ。
台風一過、よく晴れた翌日。一歩家の外に出るとそこにはいつもの道がない。豪雨によって私の住む地域一体が床下浸水に見舞われた。集中豪雨は大きな川と川にはさまれた海抜0メートル地帯をいとも簡単に見渡すかぎりの湖と変えた。しかたなくヒザまで水につかり、ジャブジャブと学校へ向かおうとすると、母が私を呼び止めた。どうやら非常連絡網により休校の知らせがあったらしい。
思わぬ休日にカバンを置いてさっそく友人を誘い遊びに出た。ビーチサンダルに履き替え、たんぼの方へと向かった。どこまでが道でどこまでがたんぼだか全く検討がつかない。遠くに立つ電柱や周りの家を頼りに、カンだけで歩いていった。ズンズンと半ズボンが水につかるギリギリのところまで歩いて行って、ふと辺りを見回す。自分と友人の2人だけが、太平洋の真中にぽつんと放り出されたように立っていた。何も考えられないまま、しばらくボーッと立っていると、突然足もとをヌルッとさかなが通り抜けていった。遠くではヘビがクネクネ泳いでいたり、トマトやきゅうりが浮かんでいたりと、様々なスリリングな体験がその即席の湖にはあった。
なかでも忘れられないのは、どこからともなく流れてきた黒っぽい物体。よく見るとそれは発泡スチロールの切れ端。さらによく見ると黒っぽく見えたのはアリやオケラ、クモやバッタなどたくさんの昆虫たちであった。全く種の違う昆虫たちがぴったりと寄り添ってひとつの船に乗り、私たちの目の前をプカプカと流れていった。ずっと後になってノアの箱船の話を知ったとき、ああ、あの時の発泡スチロールも小さな箱船だったのかもな、と洪水の日を思い出した。
河口堰やダムの建設、護岸整備や下水システムの完備など、いわゆる環境整備が徹底され、災害に対して今の私たちはずっとタフになったように見える。しかしその蔭では今日もどこかで小さな生き物たちが、ノアの箱船の上でちょっと困ったように寄り添い、プカプカと人間の手の届かないところへ流されていっているのではないだろうか?
台風一過、よく晴れた翌日。一歩家の外に出るとそこにはいつもの道がない。豪雨によって私の住む地域一体が床下浸水に見舞われた。集中豪雨は大きな川と川にはさまれた海抜0メートル地帯をいとも簡単に見渡すかぎりの湖と変えた。しかたなくヒザまで水につかり、ジャブジャブと学校へ向かおうとすると、母が私を呼び止めた。どうやら非常連絡網により休校の知らせがあったらしい。
思わぬ休日にカバンを置いてさっそく友人を誘い遊びに出た。ビーチサンダルに履き替え、たんぼの方へと向かった。どこまでが道でどこまでがたんぼだか全く検討がつかない。遠くに立つ電柱や周りの家を頼りに、カンだけで歩いていった。ズンズンと半ズボンが水につかるギリギリのところまで歩いて行って、ふと辺りを見回す。自分と友人の2人だけが、太平洋の真中にぽつんと放り出されたように立っていた。何も考えられないまま、しばらくボーッと立っていると、突然足もとをヌルッとさかなが通り抜けていった。遠くではヘビがクネクネ泳いでいたり、トマトやきゅうりが浮かんでいたりと、様々なスリリングな体験がその即席の湖にはあった。
なかでも忘れられないのは、どこからともなく流れてきた黒っぽい物体。よく見るとそれは発泡スチロールの切れ端。さらによく見ると黒っぽく見えたのはアリやオケラ、クモやバッタなどたくさんの昆虫たちであった。全く種の違う昆虫たちがぴったりと寄り添ってひとつの船に乗り、私たちの目の前をプカプカと流れていった。ずっと後になってノアの箱船の話を知ったとき、ああ、あの時の発泡スチロールも小さな箱船だったのかもな、と洪水の日を思い出した。
河口堰やダムの建設、護岸整備や下水システムの完備など、いわゆる環境整備が徹底され、災害に対して今の私たちはずっとタフになったように見える。しかしその蔭では今日もどこかで小さな生き物たちが、ノアの箱船の上でちょっと困ったように寄り添い、プカプカと人間の手の届かないところへ流されていっているのではないだろうか?