中学2年の春に現れた転校生


それが橋本ユリ…のちに、妻となる少女だった


子どもの頃から本の虫で、休み時間も読書しかしない俺は学校では浮いた存在で


「水上くんてノリが悪いよね」


「めちゃくちゃ頭がいいのに、なんで私立の進学校に行かないんだろ」


「知らないの?水上くんちお父さんがいないんだって。お母さんは水商売してるらしいよ」


「えーっ!?マジで?」


クラスメイトは遠巻きに根も葉もない噂話をするだけで、俺と関わろうとはしなかった


ところが


「はじめまして、橋本ユリです」


ユリは困った事やわからない事がある度に、必ず俺に話しかけてくる


それだけじゃない


やることなすこと、おっとりしてるというか天然というか


俺が適当についた嘘やなんかも全部信じてしまう有り様で


「ねえ、水上くん…次の授業って美術室でいいのかな?」


「風景の写生って言ってたから、山にでも登ってやるんじゃねえの?」


「えっ!?どこの山?お昼休みまでに帰って来れる?お弁当も持って行った方がいいのかな」


「冗談に決まってるだろ、バカ」


俺は毎日頭を抱えながらも、どこかでそんなやり取りを楽しんでいた



ある日



厳しいことで有名な男性教師の授業中


「あっ!」


ユリが落とした消しゴムが俺の足元に転がった


彼女は机の下に潜り込み、必死で拾おうとしていたが


「取ってやるから席に戻れ」


見かねた俺が椅子から降りてささやくと、振り向いたユリの長い髪が学ランのボタンに絡まった


「い、いたっ!」


「動くな、じっとしてろ」


指でほどくのは無理だろうと判断し、ペンケースに入れていた小さなカッターで数本の髪を切った瞬間


「きゃっ!?」


解放された反動で、ユリは派手に尻もちをついて倒れてしまった


「ははっ…」


さすがに堪えきれなくなった俺が笑うと


「そこっ!授業中だぞ」


当然、教師に見つかるわけで


「すみません、わたしが消しゴムを…」


「俺がコイツにちょっかいかけて転ばせたんだ」


「ちょっ、ちょっと水上くん!?」


「いいから黙ってろ」


面倒くさい説明を回避するためユリの言葉を遮ると、お決まりのセリフが飛んできた


「授業が終わったら職員室に来い、水上」


放課後


ひとしきり怒鳴られた後、すっかり暗くなった校舎の外へ出てみると


「橋本?」


正門の前で、ユリが沈んだ顔をして立ち尽くしていた


「あのっ、一緒に帰らない?パパが車で迎えに来てるの」


「えっ?」


校門の前には、黒塗りの高級車が停車している


「こんばんは」


運転席から白髪の紳士が降りて来て、俺に向かって頭を下げた


「ユリが迷惑をかけてすまなかったね。送っていくから乗りなさい」


その日から


俺たちの不思議な交際が始まった




つづく↓