【Column】道と絆 | 全国一斉 鞆の浦検定(鞆ペディア)

【Column】道と絆



鞆の浦は、瀬戸内海の中心に位置し、
湾曲した天然の良港として太古は万葉集に歌われ、
訪れた朝鮮通信使は
「日東第一形勝(日本でもっとも美しい景観)」と称えた。

さらに半島の先端ということも功を奏してか開発が遅れ、
雁木(石段状の船付場)、波止(防波堤)、
焚場(船舶修繕所)、 船番所(監視所)、
常夜燈(灯台)といった江戸時代の港の五点セットが
そのまま遺っているが、歴史的建築物の老朽化も進んでいる。

 この町には「原」と「平」という、
それぞれ源平合戦の敗戦兵が作ったコミューンがそのまま地名となり、
京都祇園神社の本社である『沼名前(ぬなくま)神社』という
綿津見命<海の神>を主祭神とし、
須佐之男命を相殿に祀る由緒深い神社がある。

江戸時代後期には鞆の浦沿岸で坂本龍馬の乗る「いろは丸」が
紀州和歌山藩の船と衝突沈没、
国内初の海難審判が行われ、
近年では、この沿岸で保護されたスナメリクジラが
広島県宮島水族館で飼育され、
また国際的な人気を誇るアニメ監督が
次回作(7月公開)の構想の種とした場所でもある。

観光旅行客は年間100万人を超え、
訪れる人の心を魅了して止まない"何か"がある。

 その魅了する"何か"とは裏腹に、
小さな港町の入り江を横切る自動車道路開発計画が、
23年前から賛否をめぐり、町民の絆を分断する。

 かつて『潮待ちの港』として栄えたこの港も、
陸路を中心とした現代社会に少し取り残されたとして・・・
「道幅が狭いためすれ違う車が危険」
「交通不便」
「違法・迷惑駐車」
「観光客用駐車場増設」
「高齢過疎化・人口の減少」という問題を抱える。

 一方は経済的な効果や、町の活性化を求め道路開発を推進。

もう一方は「歴史的景観」を後世に遺すため、
または高齢過疎化が進行している町に大きな道は危険とし、
この計画に反対・代替案として山側にトンネル案を推進。
橋を架ければ活性化どころか、観光業すらも衰退すると唱える。

また、世界遺産選定の調査委員会ICOMOSも
この道路開発計画撤回を提言し、この港町の希少価値を訴えている。



 古代から、海に面し水路で栄えた東洋の小さな島国は、
そこに住む人の【便利と安心と娯楽】を基盤とし、
「開発」という大義名分で、自然破壊を繰り返す。

山を削りそこに住む生物の住処を奪い、
山から流れる豊富な栄養源を塞き止め、
砂浜を埋め水辺の浄化生物を失い、
村を破壊し人々の絆を絶ち、
その代価として「道」を添える。

 人間の欲望で破壊し、奪ってきた「自然」そのものが、
これから先、人間にどう影響を及ぼすのだろうか?



“道”とは、

【便利と安心と娯楽】を楯として
人と人との間に「溝」を作るのではなく、

人と人とを結ぶ「足跡」でなければならない
のではないだろうか?



Stevie Wonder / Ribbon In The Sky
↑Toutubeに直接リンクしてください
できれば、この曲を聞きながらコラムを読んでいただきたい。