この本はふと読みたくなって手に取った
西加奈子さんのノンフィクション作品です。
以前どこかでおすすめされてメモしていたものの
どうして気になったのか その理由はもう思い出せなくて
ただタイトルと著者名だけが残っていましたが
読み始めてすぐ思い出しました。
これは西さんがカナダ滞在中に乳がんを告知され
その治療と向き合い、寛解に至るまでの記録です。
コロナ禍という不自由な時期に、しかも海外で
母国を離れた土地で病気に向き合うということの重さは
想像をはるかに超えるものだったのではと思います。
西さんの作品には、いつも明るさと前向きさを感じていましたが
そのご本人が自らの人生にどう向き合ったのか
そこに強く惹かれました。
読み進めるほどに感じたのは
「強さ」という言葉だけでは足りないような
芯のある、まっすぐな生き方です。
人生は自分で選びたい
そう願う気持ちを、どんなときも持ち続ける姿勢が
とても印象に残っています。
たとえ状況が厳しくても、気持ちまで奪われないように
丁寧に自分で選び取っていこうとされている様子が
常時書かれていました。
遠く離れた日本にも、カナダにも
自然と力を与えてくれるような存在である家族友人が
多くいらっしゃって
西さんという人の、人とのつながりの深さも感じました。
「闘病」という言葉は使いたくないと語られていたのも
印象的でした。
がんもまた自分の体の一部
ただ、ずっと一緒にはいられないから離れる決断をしたという
その表現に言葉では言い表せないほどの感情が揺れました。
まだ経験はないものの、病気に対するそういう考え方が
自分にはなかったからです。
当たり前の毎日が、どれだけ貴重なものか
普段は見過ごしていることが
どれほど“有り 難い”ことなのかを
改めて心の中で確かめる時間になりました。
自分の人生を、自分の手で選んでいく
そんな当たり前のことをつい曖昧にしてしまいがちな自分にも
気づきがありました。
本を読み終えたあと
もっと西さんの言葉を聞いてみたくて探していたら
日テレのYouTubeチャンネルで
菅谷大介さんとの対談動画にたどり着きました。
菅谷さんご自身もがんを経験された方で
お二人の対話はとても深く
本に綴られていた言葉が さらに心に沁みるようでした。
病気を敵としてではなく
ともに在るものとして受け止めていく
そういう視点が生まれるまでには
想像以上の時間と心の力がいるのだと思いますが
読む前よりもほんの少し
そのことを意識できるようになったような気がしています。
「くもをさがす」は「雲」ではなく「蜘蛛」だったことも
読んでみて初めて知りました。
何気なく見過ごしていた表紙には蜘蛛のイラストがありました。
目の前のことをちゃんと見ているようで見ていなかったのかも
今ここにあること
今見えているもの
それらをもっと大切に感じる心を持ちましょう
そんなことも教わった本だった気がしています。