コロナ禍の最前線に立つ現役医師(作家)が
自らの経験をもとに綴った小説と聞き、
あのとき、医療現場がどんな状況だったのか
少しでも知ることができればと思い
読みました。
作家名は夏川草介さんです。

読み始めて
気軽な気持ちで手に取ったことを
後悔してしまいそうになるくらい
とても緊張感のある、いや、ひっ迫感と
恐怖感とごちゃ混ぜになるような物語に、
ある程度匿名性は持っているとはいえ、
私たちの全く知らない、想像もつかない
世界の中でほぼそれに似たようなことが
起きていたのだと思うと
読み終わった後は
医療現場に携わる方々への
敬服の気持ちしか出てきませんでした。

物語は2020年の年明けから
クルーズ船で感染拡大したニュースのこと、
クルーズ船以外から初めて感染者を
確認したときのこと、
緊急事態宣言、
それから・・・
の時期を指定病院としてその使命を
果たすために医療現場では
何が起きていたかを
生々しく描かれているお話でした。
医療現場の方々も同じ人間、
当たり前ですけどその方個人の
価値観や人生観がある中で、
使命感 に対する想いもいろいろの中、
人間臭さを隠す余裕もなく
丸出しになってしまうほど
尋常じゃない状況の中で
ぶつかりながら、議論しながら
ひたすら目の前の患者さんに
向き合う姿というのは
本当に尊敬の意しか出てきませんでした。
目の前の未知の強敵(コロナ)に
立ち向かうという大きなミッションに
お互いを尊重している気持ちを
持ちながら
極限の状態で、現場の最前線で
逃げられない、戦うしかない、
そんな状況だったその病院の皆さんは
”戦友”という表現があっているほどの

関係性だったのではないかと思うほどです。

 

本には呼吸器専門医のいる大病院ですら

患者の受け入れを拒む中で、

地方の専門医もいない病院、県立病院という

公の機関であるという大義名分として

指定された病院が

どれだけ訴えても国や医療界からの

援助をなかなか得られず、結局は

自分たちだけで何とかしなければいけなかった

という理不尽な場面も書かれていました。

そうだったのか・・・とぶつけようのない

くやしさ、憤りも感じました。

一方で、

先生方のご家族についても描かれている

部分があったのですが

親心として妻が、子供が風評被害に

合わないよう、自分の置かれている立場を

なるべく言わないでいた中で

敷島先生の娘さんはその雰囲気を察し、

父親の使命感も子供なりに理解し、

葛藤している姿を見て

「コロナの人、治してあげなくていいの?」

という、なんとも素直なストレートな

問いかけの場面には

ぐっとくるものがありました。

家族もまた、覚悟をしておかれた状況に

懸命に向き合う姿があったこと、

大人はいろんな事情や理想と現実の乖離

など、矛盾を抱えることが多い中

困難を乗り越えるための軸は

実はシンプルなのではないか、という

ことに気づかせてくれた

大きな一言だったと思いました。

実際、娘の言葉を聞いた敷島先生の

気持ちも霧が晴れたような描写で

勇気と自信をもってまた現場に向かう

姿が書かれていて、

子供の素直な心ってすごいなと

感動した場面だったのです。

 

のど元過ぎれば熱さ忘れる

ではないですが、

あれから3年がたち、

大きな波を何度も乗り越え

新しい生活スタイルが少しずつ

できつつある中、

知っておかなければいけない事実

忘れてはいけない過去

はあったのだなということを

強く感じた本でした。

 

夏川さんの本はこの本で初めて

読んだのですが、

映画にもなった『神様のカルテ』

も夏川さんの本だったと知り、

急に身近な方に感じています。

恥ずかしながらこのお話は

本でも映画でもまだ知らないので

作者軸で本を選んでいくのも

面白いかもしれないと思っているところです。