仁左衛門/吉弥/孝太郎/千之助/歌六/梅花/錦之助/壱太郎/彌十郎
仁左さま権太、円熟の芸でございました🎊✨🎉 年齢を感じさせない緩急ある動き。「木の実」では憎めない小悪党から、女房大好き子煩悩の情愛あふれる男へ、「すし屋」では母に可愛く甘え父の手柄のためにしたことは空回りして……と、場面ごとのさまざまな表情とセリフ回し。今回も仁左さまの魅力全開の舞台でした〜。
まず、上手から登場するときのヒョイヒョイヒョイという足取りの軽さよ。荷物から20両を抜き取ったな!と言いがかりをつけられた小金吾(千之助)がウダウダ言い訳しているところでドスの聞いた声に変わる、こういうときの、まさに人が変わったように声と表情でガラリと変身する仁左さまがまた素敵なのですよね〜😊 小金吾が若葉の内侍(孝太郎)になだめられている様子を横目で見ながらヘッヘッヘ……😎と笑う、悪~い仁左さま(に、こちらも頬が緩んでしまう😊)。まんまと騙し取ったあと1人になり「元手いらずのちょろい仕事」と言う時の嬉しそうな顔、憎めません。
女房(吉弥)と息子が現れるととたんにもう一つの面を見せる。女房に強がってもそこに甘えが感じられるし、息子のことベタ可愛がりだしと、仲睦まじい一家の光景が見えてきます。ここの表現も実に巧みなんですが、この辺りは普段の仁左さまそのままなんだろうな。でもこのあとの「すし屋」での展開を知っているだけに、もうここから泣きたくなる💦 花道に差し掛かったところで女房の後ろ姿を見て「えらい瑞々しいなぁ……」と思わず声に出してしまう、そのときの吉弥さんを見る眼差しが、本当に惚れてるという感じでした。
その吉弥さんがまた実際、なんとなく色っぽいのですよね。それまで女房役を勤めてらした秀太郎さんには、そういう色っぽさはあまりなかったような……いかにも姉さん女房風でした(私が感じなかったのかもだけど)。吉弥さんは少しあだっぽさを感じさせる雰囲気を纏っていると思いました。
小金吾の千之助は、大切な方を守るお供にしては頼りなげだけど、十代後半の初々しさがあり、騙されたと分かっても権太に対してどうにもできないという、そのあたりも見せ方自然だった。このあとの「小金吾討死」では、あまり強うそうには見えなかったけど😅 立ち回りの所作はきれいでした。この場をひとりで持たせるだけの力がついたんですね。仁左さまのご指導をしっかり受けたのでしょう、芸は随分安定していました。
そして「すし屋」での仁左さま権太。さっきまでの調子のいい強請り屋→妻子大好きな一家の主人から一転、ここでは放蕩ヤンチャな息子まんま。妹お里(壱太郎)には兄貴ぶって当たり、母(梅花)には甘え方を心得ていて……と、ここで可愛らしいところを見せれば見せるほど、終盤の展開が辛いのですが。そういえば、今までは嘘涙にお茶を使っていたと思うんだけど、今回は花生けの水を使っていたのは何か理由あるのかな。
首桶を抱え自分の妻子を若葉の内侍と六代君に仕立てて登場してからの一連の展開は何度見ても涙出ます。溢れ出る情の深さを表現する仁左さま流の演技は本当に唯一無二。首実検のとき、もし偽物だとバレたら……と、掴みかかるような気持ちで身を乗り出しすごい形相でその場を睨みつける格好に釘付けでした。
そして、父に刺されて瀕死の仁左さま、最期、息子が大事にしていた笛を入れた巾着を愛おしそうに頬に当て、手を合わせるところがね……もう😭 幕が引かれ始めるところで、仁左さま微かに微笑むのですよね。自分の行為は無駄に終わったけど、父への恩返しもできたし勘当も解かれたし、これで良かったという思いなのか、運命の皮肉を自笑し全て自ら招いたことと受け入れた境地なのか。結局、権太って不器用な男だったんだなあ、そしてその死は全ての人の悲しみにつながるなあと思ったのでした。
他の役者さんたちもすごく良かったです。一番に思ったのは弥助(実は維盛)の錦之助です。花道からの出、寿司桶を担いでフラフラヨタヨタと歩く様子、首を左右に微かに揺らすところ、本当に柔(やわ)な感じで、芸が細かいです。そして弥左衛門(歌六)の「あー、いや、まずまず……」のひとことでスーッと背筋が伸びて高貴な人になるところで、ほ〜っとため息でました。最初からまろやかな品性を纏ってはいるけれど、そこに一気に格が加わる感じ。そのシームレスな変身、見事です。今回はこの維盛、そして若葉の内侍、お里のシーンをたっぷりと味わいました。お里が不憫で健気でいい子だった。態度をはっきりさせてこなかった維盛さまがいけないけど錦之助だから仕方ないよね……と許す。
そして彌十郎さんの梶原景時。悪役で強面だけど実は深い洞察力を持った男というのが、ご本人のキャラと重なりすごく自然に出ていて、花道の引っ込みでの大きさには感動しました。
良い芝居を観せてもらいました〜🙏 仁左さまの型の権太は誰が受け継いでくれるのでしょうか。もちろん愛之助でしょうが、勘九郎や幸四郎の権太は江戸前だったかな?