セカンドオピニオンで受診されたある方が、主治医から、
「これまでに(術後補助化学療法で)散々強い薬を使ってきて再発してきたのだから、もう化学療法は効き難い。
もう治らない。」
と言われたそうです。
この先生の考え方に、私は賛成しません。
がんは一方通行的に悪くなり続け、最後には患者さんの命に関わる状態になる、との考え方が根本にあるために、この様な言葉を口にされたのかも知れません。
私も若い頃はその様に考えていました。
しかし、もし実際にそうなら遠隔転移は生じません。
この事は実験しなくても容易に理解出来ます。
ましてや臨床試験は必要ありません。
乳がん細胞が原発巣で悪性化し、接着因子の発現が消失すると、原発巣から離れます。
そして様々な能力を獲得した乳がん細胞は遠隔臓器にまで達します。
ここでそのがん細胞が一方通行的に悪性化しているとしたら、たとえ遠隔臓器に達する事が出来たとしても、その臓器に接着する事が出来ません。
万が一何らかの方法で接着出来たとしても、転移巣を形成する事が出来ないのです。
何故なら、転移巣、つまりがんの塊を作るためには、接着因子が必要だからです。
転移巣を形成したという事は、再度細胞同士が接着出来る能力を発現してきたという事、つまりはおとなしい細胞に戻ってきたという事になります。
乳がんは一方通行的に悪性化して、患者さん方の命に関わる状態になるのではなく、おとなしいがん細胞に戻る瞬間を経て転移巣を形成して、増大し、再度悪性化してまた細胞がばらけて周囲へ移動して、そこでまたおとなしいがん細胞に戻って転移巣を形成するを繰り返しているのです。
多くの転移・再発乳がんのがん細胞は、置かれた環境によって、おとなしくなったり、悪性化したりするという事になります。
私の治療戦略理論は、この事を利用して悪性化した乳がん細胞を出来るだけおとなしい細胞に戻し、根こそぎやっつける、という方法です。
最後に冒頭の主治医の考え方に対して、、
「がん細胞の置かれた環境を考えずに薬剤を使用すれば、強い薬を使おうが効果は限定的になる可能性はあります。
がんの環境を整えてやってから使用すれば、効果が見られなかった薬剤でも、効く可能性は充分にある、と私は考えています。」
と、私はセカンドオピニオンでお応えしました。