今、俺は杉崎と共に職員室の横にある印刷室に居た。他の生徒は皆帰ってしまっており、学校が静まり返っていた。


「こんなことして本当に大丈夫かよ」


「なんとかなるさ。ほら、見つかるから黙っとけ」


職員室では先生が集まり会議を始めていた。幸い印刷室からは声が丸聞こえだった。それに、先生の席も遠いので小声でならバレる心配は無い。


「先生ってのは、なんでこうも声がデカイんだろうな」


杉崎が呟いた言葉に高嶺も心から同意した。こんな所を見られでもしたら悪ふざけでは済まないハズだ。遠くから話の内容が聞けるというほどありがたいものはない。


「さて、もうすでにお知りになっていると思いますが、朝から鈴木先生と連絡がつきません。そして、もう一つ。うちの生徒である細山 明美さんが登校後、失踪してしまいました」


「いつ頃ですか?」


「なんでも、とても早く登校したそうで七時には学校に着いていておかしくないそうです」


バーコード頭の教頭が今日起こったことを質問に答えつつ話す。俺は、また先生がいなくなったのだと思っていたが、二人目は生徒だったようだ。細山といえば女子の中でも一際目を惹く可愛らしい容姿の子だったはず。そんなヤツが失踪とは…。


「細山?おかしいな…」


杉崎が細山の名を聞くとそう呟いた。その呟きに引っ掛かりを覚えた俺は


「なんだよ、何か知ってるのか?」と尋ねた。








「…俺、細山のこと朝に見たんだ」







杉崎は俺にとって悪友という立ち位置だ。しかしながら、以外にも勉強ができる。その理由が、朝に誰よりも早く学校へ来て予習をしているからだ。部活もしていないのに朝の練習に来る生徒よりも早く登校しているくらいだ。


「見たって、朝か?」


「あぁ」


細山は学校に来ていた。

しかし、今は失踪扱いになっている。


…どういうことだ?













ガラッ




「瀬田先生、ちょっと」



教室の前扉が開いて、社会科の大内が顔を出した。

平静を装っている様だが、どう見ても焦っているようにしか見えない。


「どうかしましたか」


「それが・・・・」



大内は一瞬躊躇ったが、小声で話を続けた。



「――――――――――――」


「―――」


「―――――――よろしくお願いします」


「はい。わかりました」



大内を見送り教卓の前に戻ってきた瀬田は、いつもの笑顔はどこへやら、しかめっ面で口を開いた。



「午後の授業はこれで終わりになった。ショートホームルームも部活も全て無しだ」



「何でですかぁ~?」


吉岡が「しつもーん」とか言いながら、手をひらひらさせていた。


「俺もまだ詳しいことは分からないんだ。多分明日の朝のホームで担任から話があるだろう。」



一呼吸おいて「はい、終わり」と、いつもの笑顔を俺達に向け瀬田は去っていった。







「また誰か失踪したのか?」



後ろを向くと、杉崎がニヤニヤしながらこっちを見ていた。


「なんだ、気持ち悪い」


「これはやっぱり探りを入れなきゃなーっと思って」


「どこにだよ」


杉崎は気味悪いくらい満面の笑みを浮かべた。

嫌な予感がする。







「職員室だよ。職員室で盗み聞き」

















「朝よー!早く起きなさーい!!」


いつもの様に母の怒号が階下から聞こえてくる。

まだ、ちゃんと起きていない頭を無理やり起こし部屋を出た。

一階の居間へ着くと朝食がテーブルに二人分用意されている。姉貴のと、自分のだ。自分の分の朝食を食べ終わると同時に姉貴が居間に入ってくる。


「あら、早いわねぇ~」


「お前が遅いんだろ」


適当にあしらって洗面台に向かう。

後ろから「お姉ちゃんに対してお前とはなんだー!」という声がしたが、聞こえない振りをした。


その後、作業のように顔を洗い、服を着替え、鞄を引っ掴み、時計を見る。


AM8:25


「ちょっと、ヤバイな」


そう呟いて家を出た。








「はい、高嶺。遅刻なー」


臨時担任の小林が遅刻を言い渡す。

只今の時刻はAM8:41だ。


「先生、細かいって」


愚痴りつつ席に着く。

すると、後ろの席から杉崎が小声で

「災難だったな」と笑いながら声を掛けてきた。


今日は通常の担任である鈴木じゃなく臨時の小林だった。ホームルームでは出張だと小林が言っていたが、昼休みに職員室前を通った生徒の情報によると昨日から連絡が取れないそうだ。





「事件?」


「そうそう、失踪事件みたいだって皆言ってるんだよ」


心地よく眠りを誘う秋の五時間目。それも、終わりに差し掛かった頃だ。

瀬田が古典の漢文を板書し始めたので、杉崎が他の生徒から聞いた情報を話しかけてくる。

たかが連絡が取れないくらいで失踪事件かよ。そう思いながらもまったく関心が無いわけじゃない。だから、馬鹿げた事とは分かりつつも杉崎の話にも乗ってしまったんだ。



「だからよ、ちょっと調べてみようぜ」


「どうやってだよ」


「そこはまぁ、聞き込みとか色々だよ」



そんなこんなで言い包められてしまった俺は

「先生失踪事件」の調査に付き合わされるハメになったわけだ。