『由宇子の天秤』 (2020) 春本雄二郎監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

3年前に起きた女子高生の自殺事件を追うドキュメンタリー制作会社ディレクターの由宇子。彼女は、テレビ局の方針と対立しながらも事件の真相に迫ろうとしていた。その番組がテレビ局上層部に認められ放映が決まりかけた時に、学習塾を経営する父の思いもよらぬ「事件」を知ることとなる。彼女は彼女なりの正義を貫こうとしていたが、厳しい現実からそれが揺らぎ始める。

 

各国映画祭で高い評価を得ている作品だが、個人的にはかなりモヤる作品。確かに152分を一気に観させる面白さはあったが、個人的には設定にかなり納得がいかない点があった。

 

以下ネタバレで評価したい。

 

まず納得がいかないのが、メイが子宮外妊娠だと分かった時点で、自分が制作した番組の放映を守るために父親の事件を隠蔽しようとしたこと。この作品の重要なテーマの一つは、メディアのインサイダーの立場の由宇子がメディアスクラムを糾弾する番組を制作することで、何が報道の正義なのかを問うこと。自分が制作する番組では、主観を極力排除し「どちらの側の味方もできない」という高い職業倫理を見せながら、あまりに利己的な由宇子の行動は説得力がなかった。それ以上に、子宮外妊娠の処置と自分の番組放映が同時には成り立たないという論理が理解できなかった。映画に登場した産婦人科医が言うように、子供の父親を偽装した上での(堕胎よりは明らかに緊急性が高い)子宮外妊娠の処置は可能だろう。番組放映までの2週間という短い期間を考えれば、父親に責任追及が及んで社会的にバッシングされた結果、自分の番組放映に影響を及ぼすまでには随分の時間差があるように思う。

 

また、メイが「売り」をしていたかどうかは明らかではない。それはダイチが言っただけのことであり、メイに問いただした際の「なんだ...先生もかよ」というリアクションから、メイが「売り」をしていたことには疑問がある。由宇子とすれば自分の父親が子供の父親ではないかもしれないという希望的観測から、メイが「売り」をしていたことはむしろ信じたい「事実」だったかもしれない。そうであれば、彼女がメイの父親に告白したことは全く納得がいかない。そしてエンディングのメイの父親の行動は(それまでに直情径行的な人物であることは描かれていたが)怒りは由宇子ではなく父親に向かうべきだし、あまりにも極端過ぎて、映画としての受け狙いだったのではないかと感じた。

 

自分にとっては『彼女の人生は間違いではない』(2017)で認識し、『火口のふたり』(2019)でブレイクした感のある瀧内公美(『さよなら渓谷』(2013)に出演していたことは後から知った)。更に存在感を発揮した作品となった。そして、自分にとってはこの前作『サマーフィルムにのって』で認識し、最近乗りに乗っている河合優実(『喜劇 愛妻物語』や『アンダードッグ』に出演していたことは後から知った)もいい演技だった。

 

上に述べたモヤるところは少なからずあれど、そうした細かいことを言わなければ、長尺を飽きさせることが全くなく観させる力のある作品だった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『由宇子の天秤』予告編