『ホタル』 (2001) 降旗康男監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~


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舞台は鹿児島県知覧。漁師だった山岡は、腎臓を患い透析を続けている妻・知子のために、沖合に出ることをやめ、カンパチの養殖を生業としていた。昭和天皇崩御後、平成の時代に入るとすぐ、青森に暮らす戦友の藤枝が雪山で自殺したとの報せが届いた。山岡と藤枝は、共に特攻隊の生き残りだった。暫く後、かつて特攻隊員に「知覧の母」と呼ばれていた富屋食堂の女主人・山本富子から、山岡はある頼みを受ける。それは、特攻で命を落とした山岡の上官であった金山少尉の遺品を、韓国の遺族に届けて欲しいというものだった。彼は朝鮮人日本兵の特攻隊員であり、知子の許嫁でもあった。複雑な心境の山岡だったが、知子の余命が一年半だと宣告されたのを機に、ふたりで韓国へ渡ることを決意する。

 

『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)に続く降旗康男作品。この作品でも主演は高倉健が務めている。ただ『鉄道員(ぽっぽや)』は仕事に一途な男の生き様というシンプルなテーマの作品だったが、この作品は「特攻」を題材にしているだけに、降旗監督の戦争観が反映した深みのある作品になっている。

 

その戦争観を表す台詞が、山本富子が老人施設に入るのを見送る会で慟哭するシーン。「若々しくて素敵なあん人たちから、夢も楽しみも奪い取って、お国のため、万歳、万歳言って、日の丸の旗降って送り出したんよ。殺したんだよ。実の母親だったら、我が子に死ねとは言わんでしょ」と山本富子は叫ぶ。山本富子は、実在の「知覧の母」鳥濱トメ氏をモデルにしているが、年若い特攻隊員を実の子供のようにかわいがり、戦後はその慰霊のために生涯を捧げた鳥濱トメ氏が、彼らを殺したと思っていたとは到底考えにくく、この台詞は特攻隊員は自らの意志で死を選んだのではなく、国家に殺されたのだという降旗監督のメッセージだと考えられる。

 

また、金山少尉は特攻に発つ前に、遺書を書かれたのですかと尋ねられると「検閲を受ける遺書に本当のことが書けるか」と言う。知覧の特攻平和会館に保存・展示されている特攻隊員の遺書が全て虚飾であると言わんばかりである。

 

これについては、この映画を観た直前に、土浦の予科練平和記念館を訪れたことが自分にとってはいい経験になった。最初の特攻は海軍によって行なわれ、土浦海軍航空隊で予科練時代を過ごした甲種第10期生を中心として隊が編成されたことは、あまり知られていないかもしれない。そして、予科練出身者は海軍の航空機による特攻戦死者の7割に当たる。土浦にも、知覧の富屋食堂のような「指定食堂」があり、若き兵士の憩いの場であった。展示では、手紙や遺書の検閲を避けるため、軍を通して遺族に届けるのではなく、真情を吐露する手紙や遺書を指定食堂に託したことが紹介されていた。

 

このようにフィクションが織り込まれていて、それは降旗監督の政治的スタンス、戦争観が顕現されたものである。それを理解することが必要であり、あとはそれを受け入れることができるか否かである。

 

朝鮮人日本兵の特攻を扱った、多分日本で唯一の作品であり、それに関して韓国遺族の心情にも触れた貴重な作品ではあるが、そうであれば、もう少しなぜ朝鮮人が日本兵として参戦することになったかといった背景も、もう少し丁寧に描いて欲しかったとは思う。

 

高倉健の存在感は『鉄道員(ぽっぽや)』には譲るものの、かつての妻の許嫁に対しても先輩の戦友としての尊敬の念を忘れず、そして妻を愛しているという硬派な男を演じていた。

 

降旗康男=高倉健のコンビによる秀作として見逃すには惜しい作品。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『ホタル』予告編

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