『レクイエム・フォー・ドリーム』 (2000年)という大好きな作品の監督であり、『π』『レスラー』『ブラック・スワン』と評価できる作品を撮り続けていたダーレン・アロノフスキーだったが、前作『ノア 約束の舟』(2014年)は自分にとってほぼ最低評価だった。

 

日本公開が中止になり、批評家の間でも賛否が激しく割れている本作。結論から言えば、かなり面白かった。間違っても酷評されるほどひどくはないが、素晴らしいとまでは言えないという程度。そして、日本での劇場公開を見合わせた理由もよく分かった。

 

郊外で穏やかな暮らしを送っていた夫婦(ハビエル・バルデム&ジェニファー・ローレンス)。男は詩人だが、ここしばらくは創作が進まないでいた。ある日彼らの家に、彼らの家を民宿だと思ったと言う男(エド・ハリス)が訪れてきた。何知らぬふりの男だが、彼の荷物の中に夫の写真を見つけ、妻はその男に不信感を抱く。しかし、夫は全く気にせぬ素振りで彼を快く迎え入れていた。その後夫婦の家には、男の妻(ミシェル・ファイファー)、息子が立て続けに無遠慮に訪れてくる。「彼らを追い出して」という妻だったが、その訴えを真剣に取り上げようとしない夫。そして悲劇的な事件が起こるが、それは全ての始まりでしかなかった。

 

監督は「テーマは地球環境問題だ」とうそぶくが、多分、辛辣な批判を避けるための煙幕だろう。この作品に関しよく言われていることだが、監督の宗教観が強く反映していることは間違いない。そしてカトリック、プロテスタント、ユダヤ教といった宗教の理解があればあるほど、それを補助線として映画の理解は深まるであろう。但し、理解したからと言って好きになるとは限らず、深く理解したからこそ忌み嫌うということもあるだろう。

 

そして日本で劇場公開が見送られた理由は、日本人にはそうした補助線が圧倒的に欠如しているため、到底理解されないという配給会社の判断であったことは想像に難くない。

 

またこの作品は、ストーリーを解説しようとすると必ずやネタバレになるため、ネタバレなくストーリーを語ることが難しいともされる。それは必ずしも正しくないと思う。なぜならこの作品には、誰もが納得する「ネタ」などないから。あるのはあくまで「解釈」であり、それは例えば制作者(=監督)の意図とは違っていても、全く問題ないという類の作品であると考える。

 

なので、以下は自分の「解釈」(予断なく作品を鑑賞したい方は、以降スルーされたし)。

 

まず自分には、この作品は到底ホラーだとは感じられなかった。辛辣なブラック・ユーモアに満たされたコメディのように受け止めた。実際、かなりのシーンでのやり過ぎ感に笑いがこみ上げた。本人がまじめにやればやるほどおかしいという感覚だった。

 

訪問者は全て人類の姿を表している。最初に現われた男女はアダムとイブ(男が酔いつぶれて夫に介抱されている時に、あばらに傷があることから男がアダムを表しているのは明らか)、そして彼らの息子はカインとアベルであり、当然、兄は弟を殺してしまう。その後の訪問者の狂乱は、全て人類の愚かな行動を表している。だから略奪や戦争も人類の歴史として起こっている。

 

言葉で人々に真理を伝え、人々から崇拝されるのは預言者であり救世主だと相場は決まっている。そして妻を身籠もらせるのだから、妻をマリアとして、彼は神の子であるとともに神父(かみちち)なのだろう。

 

妻の存在が解釈しがいのあるところ。『マザー!(原題『Mother!』)』というタイトルから、彼女の母性が重要であると思われるかもしれないが、このタイトルは若干ミスリーディングを招くように感じる。彼女は確かにマリアなのだが、何事もコントロールできず、代替可能ですらある存在(冒頭のシーンとエンディングが円環なことからそれが分かる)。あるいは神の子をデリバーするだけの器的な存在。つまりそこにはマリア信仰はなく、よりプロテスタント的な性格だと感じる。

 

失敗作的な人間をワイプアウトしてもう一度やり直すエンディングは、ノアの箱舟的寓話を思わせる。残されたのはノアではなくて「希望」だったが。

 

というかなりベタな宗教寓話をダーレン・アロノフスキー監督は作ったと感じた。その中で繰り広げられる狂態を、人間のあさましい姿と自虐的に見るか、「耐えられないほど不愉快極まりない」と感じるだけの違いで、この作品を受け入れることができるか、拒絶しかできないかに分かれるだろう。

 

ジェニファー・ローレンスの熱演もさることながら、光ったのはミシェル・ファイファーのとことん嫌な女。やはり図々しさでは、女性は男性の比ではないのかもというほど迫真の演技だった。

 

多分、「なんじゃこりゃ!」と困惑する人や、とにかく嫌な気分にされただけだったと感じる人もいるであろう作品であり、勧めにくいが、個人的にはなかなか楽しめた作品だった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『マザー!』予告編