近年のSFホラーではベストの作品。

 

恐怖を煽る作品のジャンルには、オカルト系や残酷シーンが売りのゴーリーなものやモンスター物、そして不気味な設定に心理的にじわじわ来る系等々があり、恐怖映画好きと言っても好みは分かれるところだろう。近年の恐怖映画の秀作に『ゲット・アウト』(ホラーと言うよりスリラーであり、ジャンル的には先に挙げた最後のもの)がある。脚本のよさは『ゲット・アウト』に譲るものの、モンスター物である本作の方が自分にとっては断然好みであり、巷の評価はイマイチだが個人的には好きなニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』と甲乙つけがたい感じ。

 

監督は本作品にも父親・夫役として出演しているジョン・クラシンスキー。彼の妻役のエミリー・ブラントは実際に彼の伴侶。クラシンスキーは脚本にも参加しているが、書き上げられた脚本を読んだブラントがほかの女優にはこの役を渡さないでと言ったことから、夫婦共演が実現した。

 

この作品のよさは、説明が最低限でありシンプルであること。説明が多ければ多いほど、架空の設定に矛盾が生じて面白さは低減する。正体不明のモンスターが人類をワイプアウトしかねないほどの極限状況に置かれた一ファミリーがサバイバルしようとする話なのだが、そのモンスターがどこから来たのか、そしてどのようにして人類を滅亡の危機に追い込んだのかの説明は一切ない。残された人類はほとんどいない状況が初めからgivenであり、それまでの経緯はわずかに映される新聞の切り抜きの見出しから想像するしかないというもの。

 

そして何より、モンスターは音に反応するため、一切物音を出してはいけないという設定がいい。観客も固唾を飲む緊張感を否応なく味あわされる。突然の音にどっきりというのはホラー映画のお約束パターンだが、それがこの映画では違和感なく怖がらせてくれる。

 

モンスターの造形は、この手の作品では重要なのだが、必要条件は満たしている程度。冒頭のチラ見せはお決まりのパターンだが、あまりもったいぶって引っ張ることなく、いいタイミングで全貌を見せてくれて適度な露出度合いだった。

 

ホラー映画でありながら、家族愛が強く描かれた感動作品でもある。あるできごとから溝を深めてしまった父親と娘(娘は聾唖の役なのだが、実際に聾唖者の女優ミリセント・シモンズが演じている)だが、お互いの愛を確認することができるも、それは最後の別れの時だったという泣ける設定。

 

主演のエミリー・ブラントは、『LOOPER/ルーパー』(2012年)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)、『ボーダーライン』(2015年)といった佳作に出演しているが、演技としてはこの作品がベストだろう。エンディング・シーンでの彼女の「やったろうやんけ!」という表情がとてもよかった。

 

人類がワイプアウトするような状況は、パンデミックならまだしも、プレデター(捕食者)にやられるというのならそれまでになんとかできるだろうという基本的な疑念は観終わって感じるところだが、観ている間はそんなことを考える暇もないほどスリリングな展開に釘付けだった。

 

恐怖映画にアレルギーがなければ、大プッシュの一本。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『A Quiet Place』予告編