LGBTを扱った映画作品は少なくない。近年は、アカデミー作品賞にも毎年のようにノミネートされている。昨年の『ムーンライト』しかり、今年の『君の名前で僕を呼んで』しかり。しかし、LGBTに対する理解は以前と比べて格段に深まったとはいえ、やはりそこにはLGBTに対する差別に苦悩するというテーマがある。ただ、この作品は若干異なっている。
この作品の主人公サイモン(愛称「サイ」)はカミングアウトできずにいる高校生。勿論、彼がカミングアウトできない理由は、ストレートでないことが世界から受け入れられないのではという恐怖なのだが、その葛藤を(自発的にではなくアクシデントでなのだが)克服した後は、周囲が彼をゲイであると色眼鏡で見るということが全く感じられないのが非常に現代的だと感じた。
まず親の理解がかなり理想的。超マッチョ(精神的に)な父親なのだが、サイが13の頃から4年間もゲイであることを隠していたことを告げると、それに気づかなかったことを恥じて涙する姿には、同じく息子を持つ父親としてもらい泣きしてしまった(ただ自分の息子はストレートかゲイかは不明なのだが)。『Glee』でカートの父親が抱えた葛藤は、そこには全くなかった。
普通のパターンであれば、ジェネーレーション・ギャップのある親からは理解されず、同世代の親友にはサポートされるというものだが、この作品ではゲイとカミングアウトした後に、総スカンをくらうのは親友の方(但し、ゲイに対する差別が原因ではない)。主人公が孤独感に苛まれるというハードルはここにも設定されていて、若干のひねりがあるのがポイント。
つまり、あまりLGBTを意識せずともよい、coming-of-age物のラブ・ロマンス+コメディという作品という評価でいい作品。
感動もあり、なかなか明るく楽しい作品なのだが、難と言えば主人公ほかの登場人物がかなり経済的に恵まれている点。車で通学し、毎朝ドライブスルーでアイスティーを買い、妹はシェフを目指して毎朝スペシャルな朝食を作っている家庭などスタンダードとは言えないだろう。
とは言え、メジャー・スタジオ(20世紀フォックス)が手掛けた初めてのLGBT作品ということで、きれいにまとまった感はある佳作。青春物が好みなら観て損はない。
★★★★★★★ (7/10)