東野圭吾原作、加賀恭一郎シリーズ第10作目の映画化作品。

 

東京小菅のアパートで女性の絞殺死体が発見された。被害者は、滋賀県在住の押谷道子。殺害現場となったアパートの住人である越川睦夫は行方不明になっていた。松宮(溝端淳平)たち警視庁捜査一課が捜査に当たるが、押谷道子と越川睦夫の接点が見つからず、捜査は難航する。やがて捜査線上に浮かびあがったのが、舞台演出家の浅居博美(松嶋菜々子)だった。押谷道子は中学の同級生である浅居博美を訪ねて東京に来たのだった。松宮は、小菅近くで発見されたホームレス男性の他殺焼死事件との関連を疑い、捜査を進めるうちに、ホームレス男性の遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることを発見する。その事実を知った加賀恭一郎(阿部寛)は激しく動揺する。それは孤独死した加賀の母(伊藤蘭)に繋がっていたからである。

 

加賀恭一郎を主人公とする「新参者」シリーズの映画化作品としては、『麒麟の翼 劇場版・新参者』(2012年)がある。それは可もなく不可もなくという作品だったように記憶している。本作は、それよりはよほどよい出来だったと思った。エンディング近く、加賀恭一郎が明治座で浅居博美と事件の真相を語り合うまでは。

 

(ここからはネタバレ全開)

 

この作品のよさは、親子の情愛の深さが心打つこと。ゆえに主演の阿部ちゃんや松嶋菜々子より、よほど重要なキャストだったのは、浅居博美の父役小日向文世であり、浅居博美の中学生時代の子役だった。彼らの絆の深さは、不幸な境遇を凌駕して、ありきたりな関係よりもよほど幸福だと思わせるほど。

 

それほど情感あふれるミステリー作品だったのに、それを台無しにしてしまったのが、浅居博美が愛すべき父を手に掛けるという設定。伏線はある。比叡山延暦寺の僧侶が時の権力に抵抗して焼身自殺をしたことを受けて、「自分だったらほかの死に方を選ぶ」という博美の父のセリフ。つまり自殺幇助として父を扼殺するのだが、それは絶対あり得ないと思った。

 

そうすると、そこまでは小さなほころびで気にならなかったプロットの穴が、次々と前倒しで顕在化してしまったというのが、本作に対する個人的印象。

 

父親が死にたいと思ったのは、逃亡生活に疲弊してしまったからなのだが、そもそもこの時点では逃亡する必要があったのだろうか。それは直近では押谷道子、そして19年前に博美の中学時代の担任であり、その後彼女の不倫相手となった苗村誠三(及川光博)を殺害したという過去と愛する娘との関連を避けるためなのだが、もしそうであれば、証拠が焼死体として残る焼身自殺ではなく、富士の樹海に彷徨うとか東京湾にコンクリートを脚につけて飛び込めばいい話である。つまり、自殺かつ証拠を残さないという方法は他にもあるにも関わらず、敢えて博美が「父を救うため」に手を掛けるという方法を選ばざるを得ないところが、ストーリー上のご都合主義のように感じた。

 

そうすると、更に違和感を感じるのが、苗村誠三や押谷道子のリアクション。博美の父は、かなり以前に自殺したとされていた。その自殺したはずの博美の父が、それから相当年月経てから眼前に現れて、「あれ、お父さん、生きていたんですね」という展開は、相当あり得ない。中学担任の先生が、生徒の親の顔をそれほど覚えているものだろうか。また中学同級生が、数十年前に自殺したとされている同級生の親を、明治座のじいさんばあさんの大勢の中に見かけて、「自殺していなかったんだ。生きていたんだ」と思うだろうか。苗村誠三は、ホテルから出てきた壮年の男性を見て、ほかの不倫相手だろうと思うだろうし、まず彼に声を掛けるより、博美に確認する方がよほど自然だろう。そして押谷道子に至っては、あの明治屋の観客席の状況から、博美の父であると思うことすら絶対不可能であると思われる。

 

そうすると残念ながら、ストーリーは完全に破綻しており、ミステリーとして、いかにも読者・観客をうまくだましたつもりだろうが、設定自身にかなり以上に相当無理がある不自然なストーリーということになる。原作未読ゆえ、それが原作の穴なのか、脚本の穴なのかは判断しずらいが。

 

加えて、法医学的に言えば、焼死体があれほど炭化するには、かけた燃料が灯油であることはありえず、ガソリンであることが想定されるが、かけた燃料は透明に見えたし(ガソリンには色がついている)、ガソリンであれば、ライターが点火しなくても、フリントの発火時点で爆発しているはず。つまりあの状況では、かけた燃料は灯油だと思われるが、それではあそこまで焼死体が炭化することはあり得ないという、法医学的な矛盾が生じる。

 

そうした小難しいことを言わなければ、「えー、そうなんだー、うわー、凄い展開にびっくりだわー」となる、単純な人向けのよく出来たエンターテイメントという作品。最後のひとひねりを狙ったがゆえに、全てが台無しになったかなという勇み足的な作品、というのが個人的評価。でも、そこまでこだわらない単純な人には面白いですよ。

 

★★★★ (4/10)

 

『祈りの幕が下りる時』予告編