『A Ghost Story/ア・ゴースト・ストーリー』(2017) デヴィッド・ロウリー監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

映画製作・配給会社の中で注目すべきはA24。マーケット・シェアは1%程度だが(なにしろビッグ6で80%のマーケットシェア、2017年第6位のライオンズゲートを加えると90%近いマーケットシェアを占める)、2017年には『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』『レディ・バード』『The Disaster Artist』『グッド・タイム』といったインディーズ系の秀作を製作・配給している。そのA24が世に送り出した、最もコントロバーシャルな作品が『A Ghost Story』だろう。

 

主役は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016年)のケイシー・アフレックと『キャロル』(2015年)のルーニー・マーラなのだが、ケイシー・アフレックは最初15分くらい、ルーニー・マーラは30分くらいしか登場しない。1時間32分の残りはシーツを被った幽霊が主人公となる。タイトルはホラーのようであり、主人公も幽霊なのだが、ホラーではなく、むしろとてつもなく切ないラブ・ロマンスと言える。

 

この映画を楽しめると感じるには、いくつかのチャレンジがある。

 

シーツを被った幽霊は、映画の開始15分後くらいに車の事故で死んだケイシー・アフレック演ずる「C」(名前すら呼ばれることなく、クレジットはアルファベット一文字)が地縛霊となって降霊したもの。まずこの学芸会レベルの意匠の幽霊が受け入れられるかどうか。しかも死体に掛けられたシーツのはずなのに、起き上がった後のシーツのサイズは掛けられたものの倍以上のサイズで、しかも目のところに穴が開いており、なおかつシーツなのに誰にも見えないというもの。

 

この作品は、セリフがほとんどない。シーツを被った幽霊は言葉を発しないからである。恋人に先立たれたルーニー・マーラ演じる「M」が、留守中に知人がキッチンに置いていってくれたパイを黙々と口にするシーンがある。正確に計ったわけではないが、体感時間5分。その間、ただ黙ってパイを食べるだけである。異常とも言える「ヤケ食い」シーンだが、そうした行為をさせる彼女の心情に思い至り、5分間の沈黙に切ないと感じることができるか。

 

「M」はその後しばらくして引っ越してしまうのだが、地縛霊はその家に残っている。そして持ち主が変わってもその家に居続け、「M」への思いをつのらせるという展開。セリフがほとんどないと言ったが、唯一といってもいい長いセリフがある。それは後の持ち主の一人がホーム・パーティで酒を飲みながら、無神論を延々と語るシーン。ほとんど誰も真剣に聞いていないのに、ペダンティックな議論を滔々とひけらかしている。

 

そして、エンディング。観終わった瞬間に、諦めの哄笑や怒りの卑語が漏れそうなエンディング。日本ではそんなことはないだろうが、カナダでは確実にありそうなリアクション。家で鑑賞してよかったと思った。

 

とにかくオリジナルで、これまで観たことがない感覚の作品。そしてそうした作品は、新奇さだけが際立って、大概つまらないことが多いのだが、自分は1時間32分退屈することは全くなく、とても楽しめた(例外は、無神論の議論。あまりに説明的で、作品の雰囲気を壊すだけだと感じた)。

 

恋人を想い焦がれる気持ちが、言葉を発しない幽霊から切々と伝わってくる。そしてその気持ちは、幾世紀レベルの悠遠とした時間を「生き続ける」のである。エンディングは、監督のちょっとした悪戯心程度と受け止めた。

 

散文というより詩を読んだかのような印象。テーマはシンプルなのだが、それをこれほど斬新に作品とするのは監督のセンス。

 

間違いなく受け手のリアクションは、絶賛か拒絶かのいずれかになるであろう作品。そして自分は前者だった。そしてこれも間違いなく、人には勧めにくい作品。このレビューを読んで面白そうだと思って、観て唖然とされてもその責任は取りかねる。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『A Ghost Story/ア・ゴースト・ストーリー』予告編