ロマンティークNo.0373 「POWER FREE」。ささやかで、ちっぽけな音楽。 | 『アデュー・ロマンティーク』~恋とか、音楽とか、映画とか、アートとか、LIFEとか~

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僕が過去と現在、ロマンティークと感じた(これから感じることも)恋や音楽、映画、アートのいろいろなことを書いていきます。

こんにちは。僕のブログ【アデュー・ロマンティーク】へ、ようこそ。

 

今回は現在、僕が気になって仕方がない、ある種の傾向をもった日本の音楽のこと。J-POPと言えばJ-POPだけど、その源流は70年代末のアヴァンギャルドな洋楽に遡る音楽。タイトルで『「POWER FREE」。ささやかで、ちっぽけな音楽』と付けたように、パワー無添加の、あまりガンバっていない音楽。「私が、私が」と自己主張し過ぎない音楽であり、どこか所在なさ気でささやかで、ちっぽけな。敢えて言うなら、どこか壊れたようなところがある音楽。しかし、そのルーツを手繰り寄せれば、70年代末に生まれた「No Wave」と呼ばれた音楽のコンピレーション・アルバム「No New York」や、同じ時代の「Young Marble Giants」などの、ポストパンクに行き着く音楽であり、90年代で言えば「脱力系」と呼ばれた音楽に近いところに存在するような、シンプルだけど微妙なところに凝っていたり、ハッとさせられるような斬新さをもっていたりするような。


そういった音楽は今、「タイニー・ポップ」【Tainy Pop】、ネット時代のDIYポップ(ネット時代のDIY歌謡曲とも)と呼ばれていて、ほんの少しずつだけど聴かれ始めてきている。


もちろん。いつも言うように、そんな「Tainy Pop」に明確なフォームや規程がある訳じゃないので、僕なりの耳点で、僕が想う「Tainy Pop」をコンパイルしようと思う。


そして、これもいつものように。同じような匂いがするアート、今回はジェフ・マクフェトリッジとデヴィッド・シュリグリーの作品を挟んでいく。


そういうことで。まずは今、そういう音楽を代表すると思っている音楽から。


🔴もう何度か、僕のブログで紹介してきた「んミィバンド」のアルバム『知らないパレード』からいくつかの曲を。


しかし「んミィバンド」って。「ん」から始まるバンド名なんて普通、ないんじゃないかな(小さな「っ」で始まるバンドがないのと同じように)。読み難いし、覚えてもらい難いし。どこかアノニマス(=匿名性)的なんだけど一応、「ちゃんと参加してますよー」と言っておくみたいな、そんなバンド名の付け方にも、そういう音楽をやる人たちの精神性というか、思考が現れているのだと思うぶー


とにかく曲がいい。そしてギターのフレーズと演奏、アレンジも。そして何より、決して歌い上げないボーカルの脱力した魅力。すべてがアンバランスにバランスが取れた、稀にみる傑作だと思う。因みにカヴァー・アートはピンク・フロイドの『原子心母』の「牛」~The KLFの『Chill Out』の「羊」の流れに位置すると思われる(ほんとかな?)「アヒル」である。何か、どこかで繋がっているのかも知れない。

音譜タイトル曲『知らないパレード』。

音譜『地平線を抱きしめて』。

音譜『氷が溶ける音』。

音譜『出かけよう』。

どの曲もまるで掴みどころがないのに、ツボを突きまくってくる、この感じ。どこにでもありそうなのに、どこにもないという突然変異のような。青天の霹靂というか、ほんと素敵な音楽だと思う。

🎨そしてアートは、カナダのデザイナー、イラストレーター、ジェフ・マクフェトリッジ【Geoff McFetridge】のへなちょこ画。シンプルでデザイン的なのに奥行きがあって暖かい。ユーモアがあって可愛いエロスを感じさせてくれる、この人のセンスって、ほんと天才的だなと思う。

音譜ゆうらん船の『サブマリン』。うーん、弱い。へなちょこだけど、何か「引っ掻き傷」みたいな感じがあるんだなぁ。

音譜その他の短編ズ『コンガ』。

音譜同じく。その他の短編ズ『サマーステーション』。


🎨またジェフ・マクフェトリッジのアートへ。



そのような音楽の源流をいくつか。「No Wave」よりもさらに遡ったパンク以前の60年代の音楽なのに、すでにポスト・パンクな感じがする音楽を。


音譜メイヨ・トンプソン率いるレッド・クレイオラ【Red Krayola】のデビュー・アルバムから『War Sucks』。


🎨イギリスのイラストレーター、デヴィッド・シュリグリー【David Shrigley】のイラストレーション。これは、いったい何なんだ、もうぼけー

🎨「Fight For Peace」。なのに、こんなに力の入っていない握り拳じゃ、ね。まさに「Power Free」(パワー無添加)なイラストレーション。

音譜60年代末に活動した、Fatな女子3人組によるシャグス【Shaggs】の『Philosophy Of The World』と『My Pal Foot Foot』を。



🎨ヤギ以上、山羊未満なイラストレーション。そう。ヤギの顔はたまに人間の顔に限りなく近づくことがあるのだ。
🎨過去にも紹介したことがある、大好きなイラスト。いつも気になるのは、とにかくこいつは、妙にマジメな顔をしていったい何の作業をしてるんだろう、かとうーん


📖匂いは連鎖する、という訳で。デヴィッド・シュリグリーのイラストレーションと同じ匂いがする文学を紹介しておくね。ミュージシャンとしても、暴力温泉芸者(後のヘア・スタイリスティックス)を結成していた中原昌也の処女作『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』を。因みにこの本には中原昌也自身が描いた、まったくもって、へなちょこな挿絵が添えられている。

🔴ダニエル・ジョンストン【Daniel Johnston】。カリフォルニア州サクラメントでただ静かに宅録された、いくつもの「ささやかで、ちっぽけな音楽」は、やがてニルヴァーナのカート・コバーンらに「発見」され、リスペクトされて世界中で知られるようになった。どちらかと言うとその音楽よりも有名になった、ダニエル自身が描いたイラストレーションが使われたアルバム「Hi , How Are You」のカヴァーと、『Big Business Monkey』、『Life In Vain』、『True Love Will Find You In The End』を。




🔴シトラス【citrus】。日本では90年代からゼロ年代にかけて。渋谷系の中のひとつのグループ程度の扱いでしかなかったけど、僕にとっては当時、コーネリアスよりも面白く、最高の音楽をクリエイションしていたグループだと思っている。要は早過ぎた音楽だったのだ。アルバムを1枚もリリースせず、常にCDシングルで約10分くらいの世界で完結させてくれていたところも、ほんと面白かった。

音譜インディレーベル「Vinyl Japan」からリリースされたデビューCDから『I’m Sure You See With Your Eyes』。

音譜2枚目のCDシングル『sings in melodydecorder』から『Information spells S.P.Y』。

音譜


音譜海外にもシトラスのような音楽があった。クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー【Clap Your Hands Say Yeah】の『Some Loud Thunder』と『Emily Jean Stock』。


音譜90年代初頭にデビューした、中村房代と中川真理子のデュオ、メンボーズ。彼女たちの歌は、CDを出しているからといって必ずしもプロフェッショナルでなくてもいいと思わせてくれた。アマチュアリズムの勝利。曲はデビュー・アルバム『ハニー・チャパティ』から『はやくはやく~電車に乗って』。

音譜メンボーズにこんな音源があったのか、と。恐らく、デビュー・アルバム『ハニー・チャパティ』以前の音源だろう(知らんけどぶー)。改めて。やっぱり素晴らしい音楽だと思う。ちょっと長いけど、ただただ垂れ流しておきたい。


🎨再び、ジェフ・マクフェトリッジの作品を。



音譜86年にデビューしたタルラー・ゴッシュ【Talulah Gosh】の音楽は(そのシャカシャカした音楽が防寒着を擦った時の音のイメージだったので)「アノラック」と呼ばれた。『Beatnik Boy』と『My Best Friend』。



音譜アウトサイダー・アートのヘンリー・ダーガーが描いた壮大な架空の物語からバンド名前が付けられたガールズ・ロック・グループ、ヴィヴィアン・ガールズ【Vivian Girls】の2011年のシングル盤『I Heard You Say / I Won't Be Long』からA・B両面を。カヴァー・アートも今回の記事にぴったりもぐもぐ



さ、現在の日本の音楽に戻って。今の日本独特の、肩の力がいい感じに抜けた音楽をいろいろと聴いてみよう。


音譜田中ヤコブ『いつも通りさ』と『Love Song』。



音譜玉名ラーメン『Fake ID』。



音譜毛玉『雨降りの午後に珈琲を』。


音譜水いらず『夜間遊泳』。


音譜エリック・サティが音楽を担当した「バレエ・リュス」の舞台からバンド名が付けられた(多分)、本日休演の『アイラブユー』と『けむをまこう』。



音譜wai wai music resortの『WWMR 1』。


音譜イサヤー・ウッダ【Isayahh Wuddha】の『I Shit Ill』。


音譜細野晴臣を感じさせるところもある、伊藤尚毅の『公園日和』。


音譜アルフレッド・ビーチ・サンダル【Alfred Beach Sandal】の『Horizon』。



音譜いつもこんな感じの、ユルい音楽の特集をする時には必ずと言っていいほどUPしてきている山本精一は、80年代から「ボアダムス」を始め、「想い出波止場」、「羅針盤」、「ROVO」などのさまざまなバンドと数々のソロ・ワークで素晴らしい音楽を遺してきた。好きな人には絶対的であり続けた音楽(もちろん僕もその中のひとりだ)。だけどその活動は一般的にはマイナーと言えばマイナー、「人知れず」と言えば「人知れず」。常に地味でささやか過ぎる、そんな音楽。山本精一の最近の作品『フレア』を。



🔴2013年にデビューし、僅か2枚のアルバムで解散した「森は生きている」の名曲『日々の泡沫』と、バンドのフロントマンだった岡田拓郎のソロ・ワークから『Morning Sun 』、『Mizu No Yukue』。岡田拓郎は間違いなく、今の日本の音楽を面白くしているひとりだと思う。




今回の記事を書いていたら、どんどん脇道に逸れていくような感じになってしまった。拡がりが出せた、と言えば出せたのかも知れないけど、収拾がつかず、どこか壊れかけてしまったような。もともとタイトルの『「POWER FREE」。ささやかで、ちっぽけな音楽』に沿いながら書いていたのに、少しずつ脱線してきているような気がしてならない。だけど、どこがどう外れているのかは、自分でも分からないんだなうーん

「ネット時代のDIYポップス」。そうは言っても、そんな音楽、今じゃ当たり前だし、そんな音楽が大ヒットを連発しているんだ。そう。今回の記事は音楽の価値の話をしている訳ではない。売れてる音楽が「いい」とか「悪い」とか。また逆に売れてない音楽にこそ「価値がある」とか「ない」とか。そんな話じゃないぶー

そう。音楽的な価値のことではなく、それぞれの音楽の環境や方法論云々のことでもなく。今回は『「Power Free」。ささやかで、ちっぽけな音楽』というテーマに導かれて、音楽に対する、その人の嗜好や思考、志向とか試行などから感じられる、ある種の傾向をもった音楽を古いとか新しいに関係なく拾い集めて、一応、僕なりに編集してみた、ということになるのだと思うもぐもぐ

🔴そして今回は。記事を書き始めた時には予想もしなかった結末に。世紀の傑作アルバムなのに未だに、常にどこか違和感を覚えずにいられないビーチボーイズの『ペットサウンズ』で締め括ることになってしまったのだ。

ブライアン・ウィルソン入魂の作品。だけどやっぱりPower無添加の音楽であり、聴きようによってはとても変わった、へなちょこな音楽なのかも知れない。完成したブライアンの曲を聴いたメンバーのマイク・ラヴが「こんな音楽、いったい誰が聴くんだ。犬か?」と言ったというエピソードはあまりにも有名な話だ。

音譜アルバムのオープニング曲『素敵じゃないか』【Wouldn't It Be Nice】。

音譜『Sloop John B』。

音譜『神のみぞ知る』【God Only Knows】。

音譜『キャロライン・ノー』【Caroline No】。


深い余韻を残しつつ。

では、また。アデュー・ロマンティークニコ