加藤清正は、主君・豊臣秀吉が、茶道に耽るのを憂慮していた。
茶道は武士のやることではないと考えていたが、
秀吉に茶道を止めるように諫めても聞く耳を持たない。
ある日、清正は茶道を学びたいと千利休を訪ねた。
利休はこれを大いに喜んで、茶室に案内した。
しかし清正、脇差を腰に差したまま茶室に入ろうとする。
それを見て利休は、脇差は茶室の外に置くように諭した。
だが清正は、刀は武士の魂故に一時も話すことは出来ないと拒否。
利休は笑いながらこれを許した。
実は清正、かくなる上は利休を暗殺して禍根を断とうと考えていた。
これから暗殺するのに丸腰になるわけにはいかない。
いざ茶室に入り脇差を側に置いて隙あらば利休を刺し殺そうと、
利休から目を離さず一挙一動を凝視し続けた。
が、隙がない。
落ち着いて茶事をこなし、
釜を手にすれば釜が盾になり火鉢を手にすれば火鉢が盾になる。
清正は何時までたっても寸分の隙のない利休にどうしたものかと悩み始めていた。
すると突然利休が突然炉を手にとってぶちまけた。
灰が室内に舞い上がり降りかかった灰が清正の目や鼻に入る。
清正は堪らず庭に飛び出した。
少しして利休が清正を呼んだ。
行ってみると利休の手には清正が茶室に残した脇差がある。
「あんたの武士の魂はどうしたんだよ。これでも俺を殺すのか?」
全部バレていた。
清正は大いに恥じて、以後本当に利休から茶道を学んだという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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