ビジネスにおける新しさとは何か。 | Work , Journey & Beautiful

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 ビジネスにおいて事業/企画を考える上で「Something new」が必要だと良く言われる。商品開発にしても社内イベントにしても、過去にあったものと全く違わないのであれば、改めてビジネスとして取り組む必要を感じられることはないし、誰も合意してくれない。しかしここで言うSomething new(新規性)を考えるにあたって、何をもって「新しい」とするかは結構重要なポイントである。

 僕はビジネスにおける新しさというのは、大体において既存の何かと何かをその時代に応じて適切に組み合わせることだと考えている。組み合わせのもとになる要素そのものが最先端である必要はなく、その組み合わせ方が新しければいい、ということだ。これは発想についての名著、ジェームス W.ヤングのアイデアのつくり方で紹介されている、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」という名言そのものだ。

 さらにここで重要なのは、誰にとって新しい組み合わせであるか、である。当然ながら、その対象は自分たちの「顧客」であるはずだ。自分たちの目線で新しい組み合わせなのではなく、顧客の視点で何かしら「新しい」組み合わせであることが求められるのだ。仮に確実な収益化(1~2年スパンで投資対効果を得ることを前提とした収益化)を目指す事業・企画案なのであれば、例えばエベレット・M・ロジャースのイノベータ理論で言うと下記のようなポジショニングをちゃんと顧客視点で取れているかどうかを客観的に把握できているかどうかが重要である。



※ちなみにここで表現されているイノベータ理論におけるそれぞれの定義は下記の通りである。
1.イノベータ:冒険的で新商品が出ると進んで採用する人々の層。市場全体の2.5%を構成する。
2.アーリーアダプタ:社会と価値観を共有しているものの、流行には敏感で、自ら情報収集を行い判断する人々の層。市場全体の13.5%を構成する。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれ、商品の普及の大きな鍵を握るとされている。
3.アーリーマジョリティ:新しい様式の採用には比較的慎重な人々の層。慎重派ではあるものの、全体の平均より早くに新しいものを取り入れる。市場全体の34.0%を構成する。
4.レイトマジョリティ:新しい様式の採用には懐疑的な人々の層。周囲の大多数が使用しているという確証が得られてから同じ選択をする。市場全体の34.0%を構成する。
5.ラガード:最も保守的な人々の層。流行や世の中の動きに関心が薄く、イノベーションが伝統化するまで採用しない。市場全体の16.0%を構成する。

 意外と重要で、でも何かしらの業界の中にいると時に忘れられがちなのは革新的過ぎるのもビジネスにおいては時に考えものだということだ。実際様々な新商品・サービスが市場に投入されるのだが、マネタイズできずに打ち切り/生産中止になってしまうケースの多くは、市場の分布に対して投入が早すぎたせいであることが少なくない。ここで言うところのアーリーアダプタからアーリーマジョリティ辺りを狙って(つまり市場全体としてシーズではなくニーズがあるところを狙って)、商品や事業を展開できるかどうかが収益を上げる事業/企画の肝とも言える。

 ここで、問題になるのが企画者が考えている市場曲線と実際の市場が認知する曲線とがずれる場合である。特に多いのが下記のような認知のずれだ。(実線が顧客の分布/破線が企画者の認知)


 このケースでは企画者自身の認識としては最も市場に影響を与える「流行に敏感な層」に適した事業や企画を考えられていると思っているが、実際の顧客の分布で言うと単に革新的であることをのみに食いつくイノベータ層向けの企画になってしまっている。この場合、ひょっとすると新しいもの好きな層が一旦は事業・企画に顧客としてつく可能性はあるが、長続きせず、マネタイズもできずに終わってしまう可能性が非常に高い、博打をうつような企画になってしまう。

 なぜ、このような乖離が起きるのかというと、当然ながら企画者はその業界についての知識に精通しているために、まさか自分がイノベータであるとは思っていない(他にもっと革新的なことをやっているのを知っている)。しかし実際の顧客はそのような業界の事情を知らないので、そのような革新的なことをやっている人のことも知らない。

 ただこれだけのことなのだが、どうしてもライバル会社の動向を気にしていると「少しでもライバル会社がやっていることよりも新しいことに取り組みたい」という思いが生まれがちだ。また新しく何かしらの分野を担当する際に自分の存在感を出すために「以前の担当者がやっていたものよりは/過去の色々な事業会社がやっていたものよりは、新しい企画を立ち上げたい」という思いが生まれがちだ。こういった感情が先立ってしまって、顧客の視点を忘れてしまった時、その企画は企画者独りよがりの企画になってしまうので注意が必要だ。

※なおこの記事ではアーリーアダプタ、アーリーマジョリティ層を目がけて企画を練ることを、1~2年程度の短期的なマネタイズを狙うのであれば、重要であるという立場をとっている。しかし、中には今はまだイノベータ向けであろうと、必ずトレンドとしてシーズがニーズになる、という確信のもと、短期的なマネタイズは度外視し、中長期的な投資として新規性の高い商品・サービスを投入し先駆けて事例を作る、という戦略も勿論存在する。そのような戦略を否定するものではないことを一応ことわっておきます。