ベンチャー企業や中小企業が人材を育て、人材を活かし、ぐっと組織を成長させる方法【人事戦略編】 | Work , Journey & Beautiful

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ベンチャー企業・中小企業のための人的資源活性・組織論<まとめ>


企業は人なり、とはよく言われますが、大企業と比べお金も体力も時間もあらゆる面でリソースが限られる中小企業において、いかにして人材を育てるか、人材を活かすか?は極めて重要なテーマだといえるでしょう

そもそも中小企業の人材開発においては、採用こそが重要という考えがありますが、僕はどちらかというと否定的な考えにたっています。勿論優秀な人材が採用できるにこしたことはありませんし、そういった一人のキーパーソンが会社を変えていった事例も少なくありません。しかし、僕が前職で採用支援事業に従事してきた経験と今の会社で採用担当者も兼任してきた経験から分かったことは、中小企業において自社が求める優秀な人材を【継続的に】採用することは至難だということです。

勿論、近年のモバイルコンテンツ業界などに代表されるように所属する業界の注目度が高いことによって短期的に優秀な人材を採用できるケースはあります。しかし長い目で見れば組織にはその組織の身の丈に合った人材が入るものだと思います。だからこそ中小企業は来るかもわからない優秀な人材を待つのではなく、今既にそこにいる人材や入ってくれる人材を育て、活かし、成長していくことが求められているのではないでしょうか。
ではどうやって人材を育て、活かしていくのでしょうか。ここでは主に中小企業、中でも社員数100名以下の会社において、経営トップがどうやって人材を育て、活かすのかについて重要な考え方について7つの観点から提案します。

   <中小企業において人材を育て、活かす七つのポイント>
   1.会社に人材を合わせるのではなく、人材に会社を合わせる
   2.育成対象を絞り込む
   3.徹底的な権限移譲と「形式化」により、育成に繋がる経験を意図的に与える
   4.徹底的に人材を活かすための仕事を創り出す 
   5.採用においては多様な人材確保に重きをおく 
   6.評価制度は「メッセージ」を絞り込む 
   7.経営トップの行動で育成に対する考え方を示す

1.会社に人材を合わせるのではなく、人材に会社を合わせる

会社に人材を合わせる、とは会社の方針、ビジョン、戦略を踏まえ「当社の人材はこうあるべき」というモデル像を提示し、そのモデル像に向かって人材を時に自主性を促しながら、時に厳しく育てていくことを意味しています。

一方で人材に会社を合わせる、とは会社のあるべき像を押し付けるのではなく、今、現在ここにいる人材の能力、特性を踏まえ組織体制や仕事の内容をフィットさせつつ最大限持てる力を引き出していくことを意味しています。

この二つのどちらかに偏りきってしまうと組織は成り立たないのですが、僕が支援している人材の力でもって(市場環境の浮き沈みの中で)持続的に成長し続けている企業は往々にして後者に比重をおいた人事戦略/組織戦略をもっています。前者の会社に合わせるアプローチは正論のように見えます。その一方で一様のモデルをおしつけることはついてこれない人材も生み出すことになります。人材及び時間にある程度余裕のある大企業であれば、「ついてこれない人材は後で救済措置をとるべきもの」と捉えられます。一方で、中小企業ではついてこれずにパフォーマンスが上がらない人材を雇っている余裕は正直ありません。何より成長する中小企業にいる人材は多様でバラツキがあります(ここは後程詳述します)。その中で一様のモデルを押し付けることは却って弊害にしかなりません。経営トップが「自分のようにやれ」と自身のスタイルを押し付けるなどというのはもってのほかです。

勿論、会社として何も求めないわけではなく、中小企業ではコアとなる「最低限当社の人材に求めるもの」のみを定義し、後は現存の人材に合わせて組織をデザインすることに力を割くことが必要です。

2.育成対象を絞り込む


人は経験を通してこそ学習し、成長します。よく言われているようにストレッチのきく経験は人を大いに育てますし、長期的に見ればすぐに成果に結びつかなかった困難や苦労、修羅場経験がやがて財産となります。人材育成の本質とは、一人一人の現状と強みを見極め、成長に繋がる経験をデザインし、内省を支援することで成長を促進していくことと言えるでしょう。

こういった意識的な経験の付与は大変重要ですが、会社の全員に対して一人一人に合わせて経験を与える余裕は中小企業にはありません。そこまで一人一人のことを考える余裕もなければ、一人一人の成長を待っている時間的な余裕もないことが多いでしょう。

だからこそ中小企業においては、「今、育てる人材」を絞り込む必要があります。その会社の規模にもよりますが、全体の5%~10%にあたる人材のみに意識的に育てる経験を与える。その他の人材については現状の強みや能力を踏まえ仕事を作り、今の最大限のパフォーマンスを引き出すことが重要です。育てる人と活かす人を明確に切り分けることが人材育成の第一歩だといえるでしょう。

3.徹底的な権限移譲と「形式化」により、育成に繋がる経験を意図的に与える


では具体的にどのような経験を与えるのか。最も代表的な方法は何かしらのチームを率いるリーダーとしてのポジションを与えることにつきます。その秘訣はただ役職やチームを作るだけではやく、中小企業であればトップに集中しがちな様々な権限の一部を移譲することです。

より具体的には意思決定の承認ルートの作成と形式化を行います。典型的なものは稟議書ですが、案件の管理帳票、他部署への依頼事項などの業務毎に書式を定め、育成する対象者を承認者として立場を与えます。そして何かしらのことがあった場合の責任を背負わせることで権限と責任を与えるのです。ポイントは権限と責任が具体的であることです。
また、ポジションを与えた後は一定の成果をリーダー(育成対象)に求め、コミットメントしてもらいます。個人としてではなく、チームそのものにストレッチな目標を課し、達成に向けて取り組んでもらいます。

権限移譲とコミットメントの引き出し。これは言葉でいうのは簡単ですが、中々容易ではありません。権限移譲をすることそのものは簡単ですが、実際にどこまでコミットメントしてくれるのかという保証はありません。また過度なプレッシャーで本来の力を引き出すことなく、パフォーマンスが下がってしまい成長を促すどころか自信喪失につながるかもしれません。これらの悩みに対する、常に正しいやり方などというものは何においても存在しませんが、経験則から申し上げると何かしらの権限移譲ととめに収支関連の計数管理の権限もセットで付与することが有効です。

その際に注意することは、・自然体で会社の現状を常に理解できる状態におくこと・過度に危機感を与えようとしないこと・過度に期待を伝えようとしないことの三点です。

いずれにしても意図的に人を育てる、「経験を与えた上で成長を待つ」ということです。全員の成長や試行錯誤を待つ余裕は中小企業にはありませんが、少なくともすぐにトップに比肩する人材が育つ魔法の杖はありません。待てる範囲で限られた人材に対して、徐々に権限を移譲しつつ、経験をデザインしながらじっくりと育てていく覚悟が必要です。

4.徹底的に人材を活かすための仕事を創り出す


育成対象には意識的に経験を与え、その他の人材については、言葉を選ばずに言うと「徹底的にその人材の能力を使い切るにはどうすればよいか」を考えるということです。より具体的には今その人材に出来る範囲を冷静に(時に冷徹に)見極め、その範囲で確実に出来る仕事を与えていくことが求められます。

ポイントは、・個々の能力を冷徹に見極め、過度な期待をしないこと(過度な期待は優しさというよりもただのしごき)・時間と共に練度は上がる(慣れる)ので、定期的に業務をメンテナンスすること・メンテナンスの際に、業務の難易度(業務の質)から上げるのではなく、業務の量を増やすの三点です。

人材に合わせて仕事を作り出すことということは、ストレッチな経験を意図的に与える育て方に対して人を育てないのかというと全くそんなことはありません。何かしらの経験を経れば、必ず人は何かしらの成長を手にすることができます(本人の学ぶ姿勢によりますが)。ただ意図的に育てることができない、というだけのことです。

寧ろ全員を意図的に育てようとすると、思い通りにいかないことや期待に応えられない人材が大量に発生することになります。その結果として生まれるのは、経営トップの失望、経営層と現場との不和、組織全体の自信の喪失です。そうならないためにも、経営トップはいかに自社の社員一人一人の能力に見合った仕事を作り出すかに注力しなければならないのです。

5.採用においては多様な人材確保に重きをおく


冒頭で中小企業においては人材の採用ではなく教育にこそ力を割くべき、という見解を述べましたが、それは何も採用はどうでもよい、と言っているのではありません。では中小企業の採用活動において、最も重視すべき点とは何でしょうか。その答えはは間違いなく多様な人材を採用することだと考えます。その理由は様々ありますが、ここでは二つその理由を示します。

一つ目は多様な人材を確保することこそが中小企業が「死なない経営」を行う上で重要だということです。
何度も書いてきている通り、中小企業には大企業のような余裕はありません。いち早く環境の変化の潮目を読み取り、適応していく必要があります。変化への適応とはつまり業務や組織、つまり自分たちの会社そのものをへんさせる、ということです。大企業は大きな潮目を読みながら、徐々に組織を変化させる体力を持ち合わせていますが、中小企業は小さな変化の潮目も見逃さず、素早く変化し続けることが求められます。

同じタイプの人材が揃っていることは、一定の環境下で成果を上げていく上では有効ですが、常に環境が変わる条件においては大きな足枷にしかなりません。組織を大きくすることも大切ですが、中小企業においてまず考えなければならないことは「死なないこと」である以上、人材の多様性の確保は不可欠です。

二つ目は上記のような人材を活かす業務割り振りを行うためにも人材の多様性が不可欠です。「分け合えば余る。奪い合えば足りぬ。」とは相田みつをの言葉ですが、一定の強みをもった人間を揃えたとしても、中小企業ではさほどバリエーションのある仕事は用意できません(勿論やりたいこと、は上げ始めればキリがありませんが)。結果的にその人材の能力を活かして業務が取り組むことが出来る人材が限られてしまい、人材を活かすことに繋がらなくなってしまいます。むしろ多様な人材を揃え、お互いの特性、能力を踏まえ、業務を割り振り余らせることで、組織的な弱みを緩和することができます。
勿論、多様な人材を確保するにって、・一体感が生まれにくい・何かしらのことを為そうとした時に、スピード感に劣りやすい・一定の軸で評価しにくい・体系的な育成を考えにくいなどのデメリットも発生します。

しかしそれらのデメリットを解消するための組織内対話の手法、採用の手法、評価・育成の手法は既に存在しています。多様な人材を確保した上で、それらの手法を駆使しながら環境変化の波にもまれながら組織を成長させていくことができるかどうかが、経営トップの腕にかかっています。

6.評価制度は「メッセージ」を絞り込む


中小企業のコンサルティングをしていると、時にまずはしく作りとして評価制度の導入について相談を受けます。確かに青天井の評価制度を改めるため、あるいは人材育成のツールとして評価制度を導入/構築することは有効です。しかしやってはいけないことは「何でもかんでも評価指標に盛り込んでしまうこと」です。評価指標とは社員に【共通して求めるあるべき姿】を提示するものです。そこに「基本も大事だし、信頼関係を構築することも大事だし、挑戦意欲も大事。いやいや何より業務知識への精通が大切。あと自己啓発は欠かせないなぁ」といった具合にあれもこれもと盛り込んでしまいたい気持ちは経営トップであればもっともですが、実際にそれらのあるべき像に応えられる人材が何人いるでしょうか。

一つ目のポイントで、人に合わせて組織を成長させることの重要性を説明しましたが、評価制度はその最たる代表例とも言えます。あくまでコアとなる「最低限当社の人材に求めるもの」のみを指標として定義することが重要です。注意してもらいたいことは、ここでいう「最低限当社の人材に求めるもの」とは何も基本的なことだけを求めるべき、ということを意味しないということです。当社が成長していくために、今全員に求められているコアとなる姿勢・能力とは何かを見極め、全員にとってストレッチ感のある指標を設計することが求められます。

7.経営トップの行動で育成に対する考え方を示す


冒頭でも紹介した「企業は人なり」という考え方に異を唱える経営トップに出会ったことはありませんが、一方でその考えを日ごろの行動にきちんと落とし込んでいる経営トップにはなかなかお目にかかれない、というのが実感です。

・会議の場面で、成果報告ばかりを求める
・(経営は数字という考えは誤りではありませんが)いつも数字ばかりを見てばかりいる
・現場に出向き、現場の社員の様々な工夫や取組みに目を向けない
・他社の社員の素晴らしさ/自社の社員の劣っている点ばかりを表立って発言する

など、日常的な経営トップの行動に対して社員(特に日ごろ経営トップと接することが多い現場を管理するリーダー)は敏感に反応します。経営トップが人材を育て活かそうとする姿勢を見せていればリーダーもまた現場で人材を育て活かすためにどうするべきかを考えます。経営トップが短期的な成果ばかりを求める行動に出れば、自然と現場のリーダーも拙速な行動を起こすことに繋がります。

もちろん経営トップの不安や悩みは図りようのないものであり、時に成果を求めてしまうことはいたし方がないことです。しかしまずは経営トップが、「さて、まずはどれだけ社員が成長したのか?何を学んだのか?を報告してくれ」と会議で切り出すことから行動で組織のあり方を示していただきたいと思います。