人材開発・組織開発戦略とベンチャー企業の緩慢な衰退 | Work , Journey & Beautiful

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企業の成長の概ね7割は市場環境(いかに商品市場が伸長するか?)や経済環境(いかに消費活動が活性化しているか?)といった需要の高まりによって影響を受ける。残り3割程度が組織自らがコントロールできる範囲であり、その手法は大きく分けて「いかに死なない経営を行うか?」と「いかにより成長(提供価値/利益の最大化)できるか?」の二つのアプローチがある。

実質的にはこの二つのいずれかを選択するのではなく、この二つを同時に考え続けることが経営である。殊更ベンチャー企業については、外部環境の影響の比率の高さ以上に、単純に体力(主に資金面)が脆弱であり、コントロールを誤ると成長は停滞するばかりか即座に死に至る。だからこそ、出来うる限り3割のコントロールできる範囲で「死なない経営」を行うべきだ。



人材開発や組織開発、人材の育成がなぜ経営を行うにあたって重要かというと、競争優位性の確立や差別化戦略のために必須だからだ。他人を模倣して大きな成功が得られないのと同様に、市場から買いいれたもので競争力の維持や持続可能な成功を実現することはできない。なぜならば自社が買えるものは他社も買えるからだ。中・長期的に企業の強みとなるのは、他社が真似できない部分であり、だからこそ中長期的な人材育成が必要なのだ。

しかしながら多くの企業がこれまで売上が低迷したり業績不振に陥ると、企業は人的資源の重要性に目覚め、社内制度に目を向けだしてきた。なぜなら、戦略、品質、CS、生産性や効率性などの問題点は何事も順調に進んでいるときよりも、苦境に追い込まれたときにこそ顕在化するからだ。

特にベンチャー企業において2~3年スパンで考えたときに、死なない経営を行う上で人材開発・組織開発の重要性は極めて高い。しかし多くのベンチャー企業で人材開発=単なる頭数の調整/ポテンシャル採用という名の戦略なき人材開発・組織開発戦略が採用されており、気付いた時には「死」にいたる。

特にベンチャー企業で人材開発が名目だけであまり重視されることがないのは、今まさに大きく組織が成長している最中だからだ。急成長する組織において一番の関心事は売上の伸長率である。そのため、単に時間がないという単純な理由で持続的な成長の土台となる体系的な人材育成が行われず、知的資産の構築(最新知識や新製品の開発)に関心が支払われなかったり、体系的な視点に基づく雇用や教育、管理がされなかったりする。

その結果、社員たちは過労気味となり、あるいは退職者が増加する。過剰な労働から、自分の仕事量や報酬に対して敏感になり、不公平感を募らせる者もあらわれる。結果として多くの人材が流出するが、人材育成を怠ってきたが故に組織のレジリエンス能力は欠如している。問題が顕在化してからでは最早手遅れになっている。これが多くの成長するベンチャー企業が成長の歩みを留め、あるいは死に至る「緩慢な衰退の病」のパターンだ。

ベンチャー企業がその可能性を秘めたまま舵取りを誤ること、それにより社会的に価値のある事業が継続されずに潰えていくことは社会的にも損失である。勿論既存の人材開発のツールは一定以上の人数規模を前提としたものが殆どであり、人数構成・組織構造が激しく変化するベンチャー企業にフィットするものは極めて少ない。これは自分自身がベンチャー企業に8年間所属して感じることでもある。

逆に言うと既存の枠組みに捉われず、「これからの人材開発・組織開発」を実践していく場として、ベンチャー企業は最適の環境であるとも言える。

「ナラティブ、ダイアログをベースとした組織作り」「アンバランスな組織戦略」「人(≒個々人の強み)に組織を合わせる」「個人を主役とした物語」「所属ではなく参加」「共創と恊働」・・・・・新たなコンセプトは既に生まれてきている。不足しているのは具体的な方法論であり、それらを確立していくことが自分のテーマでもある。


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