第3章 手術直後のハリキリ
手術が終わった直後、私は“生きている実感”よりも、
「ここはどこ?」というぼんやりした感覚に包まれていました。
けれど、家族の声、温かさ、そして医療の力に支えられながら、
次第に「もう一度立ち上がれる」と感じ始めます。
痛みに弱い私が、なぜ“ハリキリ患者”になれたのか。
そこには、身体の回復だけでなく――
“生命力”という心のエネルギーが、静かに動き出した瞬間がありました。
麻酔からの覚醒
なんだか、まわりがざわついている。
誰かが呼んでいる……ここはどこ?
「teruboさ~ん、手術終わりましたよ~。お部屋に帰ってきましたよ~。家族の方も来られていますよ~。」
……えっ? 何? 何だっけ?
頭がボーっとして、現実感がつかめない。
「teruboさ~ん、目を開けてくださ~い。」
その声にうながされ、ゆっくり目を開けた瞬間、
「うわっ、まぶしい!」
光の向こうに、ぼんやりと人の顔らしきもの。
数回まばたきをすると、
「母ちゃん、目をぱちぱちしよる!」と夫の声。
子どもたちが、手を握ってくれている。
「お母さん分かる? 痛くない?」「大丈夫?」
やっと、終わったんだ……。
言葉にはならなかったけれど、笑ったつもりだった。
身体はベッドと一体化したように重く、
「私は元気だから、もう帰っていいよ」と心で念じながら目を閉じた。
術後の回復に向けて
翌朝9時前、主治医が病室に現れた。
「経過良好だね。もう歩いていいからね。おしっこの管もすぐ抜けるよ。」
「えっ、本当に?!」
運動も行けるんじゃ……と聞くと、
「今日はまだ用心して歩いてくださいね。」と。
まもなくおしっこの管が抜かれた。
痛かった!!ものすごく…
でも――あれ? 手術したところ、痛くない。
違和感はあるけれど、“痛み”がない。
「手術したよね…」
胸腔ドレーン(肺切除術後「胸腔にたまる血液や水を体外に排出する」ための処置)の管を入れているところも、違和感はあるけれど“痛み”がない。
そうだった!!
手術直前に背中から入れた“硬膜外麻酔(エピ)”が効いているのだ。
「エピ、すごい! これなら動ける!」
トイレ歩行を皮切りに、私は“terubo流リハビリ計画”を始動した。
terubo流リハビリ計画
目的:早期家庭復帰と抗がん剤治療へ備える。
〈1日目〉
・トイレ歩行
・病棟内の廊下を往復(数回)
〈2日目〉
・午前:屋上の偵察
・午後:屋上を数周回る
〈3日目以降〉
・体調に合わせて屋上ウォーキング
手術後2日目、「散歩してきまーす」と看護師に伝え、
吸引機の台をヨッコラショと抱えて屋上へ出た。
「うわ〜気持ちいい! 風が吹いてる!」
周りには誰もいない。
日焼け防止に帽子をかぶり、ゆっくり1周。
屋上のコンクリート床から吸引機台を押す手に、
ゴロゴロガタガタと振動が伝わる。
「よし、これならいける。」
その日、屋上を5周。
翌日は、午前午後各10周。
午後は反対回りも追加。完全に“ハリキリ患者”だった。
午後、屋上を歩いていると、後ろから声がした。
「teruboさん! 何してるんですか?!」
振り向くと主治医が目を丸くして立っている。
「運動です……。」
笑いをこらえた先生が一言。
「まさか屋上までとは。転ばないように気をつけてくださいね。」
病棟に戻ると看護師さんたちにも、「何周したんですか?」と笑われた。
でも私は得意げだった。
「エピ」のおかげで、痛みがなく動ける――それが嬉しかった。
痛みのないリハビリ、そして感謝
翌日、麻酔科医から「明日エピを抜きます」と告げられた。
心の中で「困ったなぁ」と思いつつ、
「午後にしてもらっていいですか?」とお願いすると、
「屋上の運動ですね?」とニヤリ。交渉成立!
3日目も快適にリハビリを続けられ、夕方エピと一緒に吸引用のチューブも抜けた。
リハビリに拍車がかかったが、
痛みが出ることなく、予定より早く退院できた。
“ハリキリ”の裏にあった想い
麻酔から覚めたとき、私はもっと冷静に家族と話せると思っていた。
でも、麻酔の力にはかなわず、ただ微笑むことしかできなかった。
そして私は改めて気づいた。
痛みに弱い自分だからこそ、「痛みのない時間」の尊さが分かるということ。
「エピ」に助けられた私は、
医療の進歩と、支えてくれた人たちに心から感謝した。
“痛みゼロのハリキリ患者”terubo――
この瞬間から、私の中の生命力が静かに動き出した。
▶ 次回予告
第4章「抗がん剤治療 ― ジタバタな日々再び」へ続く。
身体の回復とともに、心が揺れ動く時間。
「生命力カウンセリング」の原点が、少しずつ形を取り始めます。
🌿あとがき:生命力カウンセリングのはじまり
この「ハリキリ体験」は、私にとって単なる術後リハビリではなく、
“自分の中の生命力”を自覚した最初の瞬間でした。
痛みを恐れながらも、前へ進もうとする心。
支えてくれた家族・医療スタッフへの感謝。
――それらすべてが、後に「生命力カウンセリング」を生み出す原動力になりました。
これから書き進める章では、治療、回復、そして心の再生を通して、
“人はどんな状況からでも、もう一度立ち上がれる”という確信をお伝えしていきます。
🌼 あなたの中にも、きっと眠っている「生命力」。
その力を思い出すためのヒントを、今後の章で少しずつお届けします。