☆ 原達也さん(『寺山修司倶楽部』会員)から、投稿が来ました! ↓




 私はこの映画に登場する「ヌードスタジオ」というのが実感として判らない。一応「モデル」である若い娘がカメラを構えた客の前で半裸になり写真を取らせるのだが、その写真を客が持ち帰っていいのか? 場合によってはプライバシーの侵害という事にもなる訳だし、写真撮影は裸の女を見せる為の口実のだけのような気がするが。
 びっくりしたのはヒロインのナナミ(石井くに子)が馴染み客に雇われてどこぞの地下室に連れていかれ、今で言うコスプレみたいな格好をさせられて女同士で対決させられるシーン。小声で「メトミ」との台詞が聞き取れるが、これは漢字では「女闘美」と書き、英語の「キャットファイト」とほぼ同意語なのだ。キャットファイトなら数年前それ専門のビデオを制作販売している業者に仕事で取材した事もあるし、たまにそれ専門のイベントも行われたりもしているから僕にも判る。しかし地下クラブとはいえ、60年代の東京に早くもキャットファイトが存在していたとは、想像もしていなかった。
 ドキュメンタリー的な手法を用い、旧来の映画にない斬新な手法を持ち込んだとされる監督の羽仁進だが、彼がこういう「裏町」的な性風俗とかに明るかったとは、とても思えない。それらは脚本共作者(羽仁との共同脚本という事になっている)だった寺山のアイディアと推測される。ナナミの恋人シュン(高橋章夫)が幼女(羽仁の娘の未央が扮する)が戯れる幻想的なシーンや、恋愛と呼ぶにはまだ心許ない、シュンとナナミの初恋の悲劇的な結末などは羽仁進の映画世界観だけど、ヌードモデルやってるナナミは「トルコの桃ちゃん」の少女版みたいに映るし、路上で孤独な人向けに作ったレコード(聴く人の言葉にいちいち反応してくれる声が入っている)を売っている女や、突然路上で全裸になるラーメン屋の出前持ちといった面々は、その後の街頭演劇的な要素(ハプニングとも呼べるが)を孕んでいる。当時寺山は既に『天井桟敷』の活動を精力的に行っていたし、さすが「アングラ演劇家」の面目躍如って感じ(笑)。
 脚本という立場ながらも寺山は近い将来監督する事を想定し(16ミリの個人映画は既に監督していた)、本作でウォーミングを図っていたのではないか? 実際この二年後に本作同じATGで『書を捨てよ街へ出よう』を監督する事になる訳で、そういう意味から言っても羽仁進との共同作業の成果が、それなりに評価された事に寺山はかなりの手応えを感じていたと思われるのだ。
 そして本作から派生した寺山の仕事として、レコード版『初恋・地獄篇』がある。この映画の共演で本当に恋人同士になったという高橋章夫と石井くに子が再度出演、カルメン・マキと小椋桂の初レコーディング、著名人も含む生声の初恋の人告白トラック、などなどこちらは完全に寺山テイスト爆発って感じ。私は30年前ぐらいにレコード屋で買い、その後知り合いにあげてしまったけど、今聴くとどうなんでしょうか? 


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