駅の改札を出る。
ショウ君は……いた!
真っ直ぐ家に向かって歩いてる。
駅を出るとこ。
ここから先は……どうしよう?
帰り道はほぼ一本道。
帰りを急ぐ人は結構いるけど、満員電車ってわけじゃない。
振り返ったら絶対バレちゃう。
電信柱に身をひそめながら追いかける?
昭和の刑事ドラマみたいに。
刑事の恰好した自分が、ショウ君を追う姿を想像して一人で笑う。
そんなことしたら逆に目立っちゃうよ。
もう外は暗い。
おいらはそんなに目立つタイプじゃないんだから、自然に歩いてれば気づかれないかも?
ショウ君が花屋の店先で声を掛けられる。
花屋のお兄さん、気さくなんだよね。
大柄で一瞬、強面なんだけど。
行きかけたショウ君が立ち止まる。
やばい!
慌ててコーヒーショップの看板に身を隠す。
ちょっとだけ顔を出して盗み見る。
二人の笑い声が聞こえる。
ショウ君の指が小さなブーケを指さす。
お兄さんがそれを持ち上げ、リボンを直してショウ君に見せる。
ピンクの花に青いリボンの春らしいブーケ。
今度は奥の方を指さす。
ショウ君が指さしたのは白い大きな……花?
お兄さんが顔の前で手を振る。
止めた方がいいってポーズ?
それでも、一本取り出してショウ君に見せてる。
50センチ位の長い茎。
白くて、三角で……なんて言うんだっけ、あの花。
あれ持ったショウ君、相当目立つよ!
みんな振り返って溜め息着いちゃうから!
絵の中の王子様みたいになっちゃう!
ショウ君はお兄さんと何か話して、手を振る。
買うのは止めたのか?
この先、ロータリーを抜けると商店街。
閉まりかけたこの時間は、いろんな物が安くなってて、
おいら、つい買っちゃうんだよね。
特に、魚屋のおばちゃんと八百屋のおじちゃんは気前がいいから。
あ、夕飯どうしよう?
ご飯も炊いてないからなぁ。
今日はお惣菜、買って帰っちゃおうか?
お肉屋さんのメンチ、残ってるかな?
ショウ君はテクテクと商店街に入って行く。
おいらもその50m位後を歩く。
あ~、やっぱりいいな、あのコート。
触り心地もすっごくいいし、本当にショウ君に似合ってる。
あれ着たショウ君、都心のタワーマンションとかに住んでそうだけど。
アイドルみたいにグラビアで笑っててもおかしくない!
ショウ君が、片付け途中の魚屋のおばちゃんのところに寄って行く。
何か声を掛け、笑い合うおばちゃんとショウ君。
おばちゃんが奥から何か出してきた!
……エビ?
それをビニール袋に入れてショウ君に渡してる。
ショウ君もお財布から小銭を出して……買った?
今日の夕飯にするつもりかな?
どうやって食べるつもりだろ?
さらに歩くと、今度はほとんどシャッター下し掛けの八百屋の前で立ち止まる。
ダメだよ、ショウ君。
もうお店も終り。
中からおじちゃんが出て来て……。
おじちゃんと何か話してるショウ君。
おじちゃんがショウ君の肩をポンポンと叩き、奥から何か持って来た。
なんだろ……緑の……ほうれん草?小松菜?
ショウ君が財布を取り出そうとすると、おじちゃんがブンブンと首を振る。
ショウ君は、チラッと見える何かを指さし、おじちゃんがニコッと笑う。
持ってきたのは……伊予かん?八朔?
重そうなそれを袋に入れてもらい、お金を渡す。
最初のほうれん草か何かのお金を受け取ってくれなかったから、他のを買ったのか。
ショウ君らしい。
エビにほうれん草?に伊予かん?
何か作る気なのかな?
少し歩くと、美容院から人が出て来る。
お見送りしてるお姉さんは商店街一の美人。
スレンダーでお洒落で気さく。
そういうとこはスミレさんに似てるけど、スミレさんより若くて背も低い。
なんと言っても髪がショートでボーイッシュ!
あ、ショウ君に声を掛けた。
ショウ君も笑ってる。
あそこで髪切ったことあるのかな?
ショウ君の通ってる美容院なんて知らないよ~。
おいらがどこで髪切ってるかも知らないよね?
年に何回かしか行かないからな~。
ショウ君は小まめに行ってるから、近いとこなのかも。
商店街もありうる!
お姉さんが手を振って戻って行く。
ちょっとホッとしてショウ君の背中を見つめる。
疑ってるわけじゃないよ。
わけじゃないけど……。
お姉さん、美人なんだもん!
ちょっとフラフラ~っとその気になっちゃったりするかもしれないじゃん。
お姉さんの方が!
そしたらショウ君だって、ちょっとくらいって……。
浮気とか不倫する人って最初はそんな感じなんじゃない?
ダメだってわかってるのに、それがスパイスになっちゃったりして……。
ショウ君が商店街を抜ける。
この先は街灯のみの一本道。
ショウ君、暗いとこ、あんまり好きじゃないんだよな。
ああ見えて結構ビビりだから。
そんなとこも可愛いんだけど!
でも……さすがに振り返ったらバレちゃうよね。
どうしよう?
と思ってたら、声を掛けられてビクッとする。