ごきげんよう、皆様。
お久しぶりでございますわ。
お変わりなくて?
ささ、お掛けになって。
今日は珈琲に致しましたの。
モカとジャバのブレンド。
今日は少しクラシカルな気分なものだから。
きっと今日のお菓子と合うと思うわ。
やっと坂本が戻って参りましたの。
今日は美味しいパイを焼かせましたから、
たくさん召し上がってくださいませね。
かの文豪が愛した銀座キャンドルにあやかって、
アップルパイ・ア・ラ・モードに致しましたの。
温かいパイに溶けるアイスが格別ですわ。
令和、最初のティータイムですもの。
わたくし達はロイヤルファミリーではなく、大野さんと翔様のご様子を鑑賞しながら……
と申し上げたいところですけれど、残念ながら、とんとsalonには顔出してくれませんの。
もちろん、わたくしが手を拱いて見ているわけがありませんわ。
智也に逐一報告するように言っておりますから、ご安心を。
どうやらお二人は、大野さんが海の近くの家に帰る度に蜜月を重ねているようなの。
智也が窓辺で戯れるお二人を目撃しているから間違いないわ。
……んふふ、そうでしょう?
きっと映画のように美しい光景に違いなくってよ。
月明かりに浮かぶ、憂いを帯びた大野さんの横顔。
そこに、そっと寄せる翔様の長い指。
青く揺れる影がゆっくりと重なり合って……。
はぁ……想像するだけで、溜め息が漏れるわ。
……ええ、そう、そうなの!
わかってくださる?
この世のものとは思えない美しさに違いないわ!
けれど、すぐにカーテンが閉じられてしまったらしくって。
どんなに高性能の望遠でも、カーテンの中まで写すことのできないのが口惜しい。
……盗聴器?
ダメよ。あそこの使用人たちは皆優秀だわ。
すぐに気づかれてしまう。
天下の櫻井家ですもの。
……我が家へ?
……そうね。
できればそうしたいところだけれど……。
翔様が用心深い方だから、大野さんをsalonどころか、
ここへなんて連れて来てくださるかどうか……。
少し、ほんの少し見せてくれるだけで、どれだけ癒されるか……。
……そうなの。うちの編集長も秘書も人使いが荒くって。
鬼のように書かせるのよ!ひどいでしょ?
そんな疲れた体を癒してくれるのは……
坂本のスイーツとあのお二人だけなのに。
ああ、坂本、アップルパイのお代わりを。
皆様も、もう少し召し上がるかしら?