(『人間革命』第11巻より編集)
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〈裁判〉 3
「裁判は、容易ならざる戦いになるだろう。いつまでも君を悩ませることになるかもしれぬ。
しかし、最後は必ず勝つ。金は金だ。いくら泥にまみれさせようとも、その輝きは失せるものか。
真実は必ず明らかになる。悠々と、堂々と、男らしく戦うんだ」
戸田の言葉は、伸一の胸を射抜き、無量の勇気が噴き上がってくるのを覚えた。
この選挙で、買収と戸別訪問が行われたことは、残念ながら明らかな事実である。
裁判の争点は、その違反行為が、上層部の指示で、組織的に行われたものかどうかにあった。
裁判常識からいえば、理事長・小西武雄、室長・山本伸一という、当時の創価学会の両翼とでもいうべき首脳を、有罪に追い込んでいくのに、十分な下地がつくられていたといってよい。
当初、弁護士たちの目にさえ、小西や伸一が無罪を勝ち取ることは、不可能であろうと映っていたのである。
昭和三十二年当時、創価学会の急成長は、宗教界のみならず、政界にも大きな脅威となっていた。
終戦直後は、壊滅状態に等しく、戸田城聖が第二代会長に就任した昭和二十六年ごろでも、まだ会員数は、実質三千余にすぎなかった。
それが、わずか六年ほどで、約六十万世帯に発展し、政界へも進出したのである。
”学会を、このまま放置しておけば、国家権力をも揺るがす、不気味な存在になりかねない”との、危惧を与えたであろうことは、想像にかたくない。