今回は、羊飼いの野をご案内します。

 

「羊飼いの野」の名前は、イエス様ご降誕の際に、まず羊飼いに天使が現れた、というクリスマスには必ず読まれる有名な箇所から付けられています。

 

その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。 すると、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。 天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。 今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。 あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」

(中略)

天使たちが離れて天に去ったとき、羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか」と話し合った。


  (ルカによる福音書2章8-15節)

 

上の地図をご覧いただくと、ベツレヘムの東側にBayt Sahur(ベイトサフール)という場所があり、そのすぐ上に”Chapel of the Shephards Field“と書かれています。

伝統的にここが「羊飼いの野」とされています。

 

上のルカによる福音書で「さあ、ベツレヘムへ行こう」と言った時の距離感がなんとなくわかるような気がします。ベツレヘムから1-1.5kmほど、今のような舗装された道はないでしょうが、ゆっくり歩いても20分から30分も歩けば着く距離です。ルカによる福音書には「急いで」とも書いてるので、実際にはもっと短い時間で着いたのかもしれません。

 

今はバスなどでベツレヘムから羊飼いの野まで移動すると、ずっと町並みが続いているので別の町のような感じはありませんが、この羊飼いの野周辺はベイトサフールという別の名前が付けられています。

ベイトは「家、または神殿」の意味があり、「サフール」は「見張りの者」を意味するアラム語が由来とされます。まさにルカによる福音書に描かれる、飼い葉桶にに寝ている乳飲み子イエスを探し当てた羊飼いにちなんで、この名前になったと言えるでしょう。

 


さて、羊飼いの野の敷地内に入り、右手の緩やかな坂道を登ると、かわいい礼拝堂があります。

30人も入るといっぱいになるくらいの小さな礼拝堂ですが、中に入ると御降誕のシーンが描かれた絵が三方に描かれています。

 

そのうちの1枚をご紹介すると、

羊飼いが天使から御告げを受けるシーンですね。

 


このチャペルの近くには、ビザンチン時代(紀元4~7世紀)時代、ここに建っていた教会の発掘現場があり、古くよりここが羊飼いの野として信徒が集まる場所となっていたことが分かります。

少し見にくいですが、松の木の向こう側は、何も無い丘陵の景色が広がっていて、牧童に導かれる羊の群れが現れたりすると、一気に二千年前に戻ったような気持ちになります。

この松の木の下にはたくさんベンチがあり、木陰の中で風に吹かれながらここで静かに聖書を読むのは格別です、個人的に大好きなところです。

 

さて、この教会の敷地を出た正面には、大きく”Boaz Field Souvenir shop”と書かれた土産物屋があります。

え、ボアスの野?? 、、、、と一瞬考えてしまうのですが、そう、ここベイト・サフールは、ボアズとルツの物語とも関係があるとされている場所なのです。

 

ボアズとルツの物語は聖書のルツ記に詳しいのですが、時代的には士師時代(紀元前13~11世紀)のことで、以下のようなあらすじです。

 

ベツレヘム一帯で飢饉が起こったため、エリメレクと妻ナオミは二人の息子であるマフロンとキルヨンを連れて、ヨルダンの向こう側モアブへ移り住みました。二人の息子は地元の女性と結婚することになりますが、この内の一人がルツでした。滞在している間に夫に先立たれ、二人の息子もなくなったナオミは、一人でベツレヘムへ帰ろうとします。ルツは、

あなたの民はわたしの民

あなたの神はわたしの神。

あなたの亡くなる所でわたしも死に

そこに葬られたいのです。         (ルツ記1章16-17節)

 

と言ってナオミから離れませんでした。

ベツレヘムに来たルツは、ボアズという金持ちの麦畑で落ち穂拾いを許されます。彼はこう言います。

主人が亡くなった後も、しゅうとめに尽くしたこと、両親と生まれ故郷を捨てて、全く見も知らぬ国に来たことなど、何もかも伝え聞いていました。どうか、主があなたの行いに豊かに報いてくださるように。イスラエルの神、主がその御翼のもとに逃れて来たあなたに十分に報いてくださるように。

 

やがてルツはボアズと結婚することになりますが、二人の間から、オベドが生まれ、エッサイからダビデへと続いていきます。ルツはのちのダビデ王の曾祖母になるわけです。聖書に描かれる美しい神様の憐みの物語が、ここベツレヘムで繰り広げられました。

 

ルツはもともとモアブ人でイスラエル人ではありませんでした。

しかし、マタイによる福音書1章に記されているイエスの系図に、タマル、ラハブ、ウリヤの妻(バテシバ)、マリアなどと並んで記されている5人の女性のうちの一人でもあります。

異邦人のルツからダビデが生まれ、やがてイエスにつながっていく、ということをマタイもしっかりと認識していて、系図から外せない女性と考えたのでしょうね。

 

ルツという名前は、ユダヤ教へ改宗した女性がよく付ける名前でもあります。

 

ボアズの畑がここベイトサフールにあったという学問的な証拠はありませんが、山の峰のような狭い土地に建っているベツレヘムの町に比べ、ここは郊外でなだらかに開けた場所でもあり、広々とした麦畑があってもおかしくはない土地柄です。

 

話はガラッと変わって、ここベイトサフールには、有名なバンクシーの絵があります。石の代わりに、花束を投げようとしてる青年像です。

 

ぜひ皆様も一度ベイトサフールへ、行ってみてはいかがでしょうか。